日本代表FW中村敬斗、「今だから言える」リアルな海外移籍事情 G大阪から欧州へ「もしやり直せるなら…」【現地発】
【インタビュー】オランダとベルギーも経験、「最初からオーストリア2部」と語る理由
オーストリア1部LASKリンツで今季リーグ戦24試合に出場し、13ゴール7アシスト(4月18日時点)と出色のパフォーマンスを披露する日本代表FW中村敬斗。22歳のアタッカーは、「今だからこそ言える」と自身の経験を基にしたリアルな海外移籍事情について言及し、海外挑戦をやり直せるなら「最初からオーストリア2部を選ぶ」と明かしている。(取材・文=中野吉之伴/全4回の3回目)
【動画】今季ゴール量産のLASK中村敬斗、相手2人翻弄フェイントから豪快ドリブル弾の瞬間&Jリーグ時代の「圧巻プレー集」
◇ ◇ ◇
現在LASKで主軸としてプレーしている中村は、オランダやベルギーで試合に出られない時期もあり、ここにたどり着くまでに苦労を重ねた。海外移籍をした際、選手も最初は気持ちの面で勢いがあり、試合でテスト起用されるケースも多い。しかし上手くいかなくなった時にどうすればいいのか。そしてどのように向き合えばいいのか。その対処法をある程度身に付けておかないと、そこから挽回するのは簡単ではない。
「僕もやっぱりそうした経験がなかった。海外リーグでやるために必要なメンタリティーも最初はなかったのかなと思います。オランダやベルギーでプレーしていた頃、チームが負けて、自分のプレーが良くなくなってくると、気持ちも下がってしまう。そうなると絶対良くないパフォーマンスになる。たかだか1試合良くない程度であればどうってことないはずなのに考えすぎちゃうんですよね、特に若い時は。相手との相性や相手の調子、相手が対策してきたら上手くいかない時だって当然あるじゃないですか。『考えすぎたり、悩みすぎる必要はない』っていうのを今、LASKリンツに来てやっと学んだかなと思います」(中村)
海外移籍のあり方については、さまざまなパターンや考え方がある。中村自身はどのように捉えているのか。そのあたりを聞きたくて、「今振り返って、もし海外に来る時の自分に『最初にちょっと苦労したオランダ・ベルギールート、オーストリア2部リーグのジュニアーズで経験を積んでLASKリンツのトップチームを目指すルート』という2つの選択肢があったとしたら、どちらを選ぶ?」という質問をしてみた。
「いい質問ですね。3年4年前の自分が、ですよね」
中村はそう語ると、好奇心を持った表情を見せながら少し考え、次のように答えた。
「今だからこそ言えるのは、多分最初からオーストリアを選んでいるかなと思うんですよね。オランダ・ベルギーを経験したから今があると感じているのもあるんですけど、こっちに来て試合に出られなくなる可能性が低くはないと思うので、もしやり直せるなら最初からオーストリア2部へ行って、そこで1~2年しっかり経験を積み、そこからその国の1部にチャレンジ、というのを選ぶかなと思います。そして1部リーグでまた1~2年やって、さらにステップアップっていうふうにやると思いますね」
欧州挑戦で痛感「若い時って『もっとやれる!』って思う」「来る前に知るべきでした」
以前、元日本代表FW岡崎慎司(シント=トロイデン)から、こんな話を聞いたことがある。「自分たちが苦労したのと同じ苦労を、今の若い子らはしている」と。例えば、共有する苦労のプロセスを省ければ、もっと早く日本人もステップアップが可能になる。その点について話を振ると、中村は頷きながら答えてくれた。
「本当に僕もそう感じます。タラレバ話なので、やり直しはもちろんできないですけど、でも本当に感じますね。やっぱり若い時って、『自分はもっとやれる!』って思うじゃないですか。自信過剰じゃないんですけど、『いや、俺は絶対やれる』って。ただやっぱり高いレベルのリーグに行って、そこで『自分はまだまだ全然駄目なんだ』って痛感して、そこから戦えるリーグを探して、ちょっとずつ上がっていくみたいな。だから最初から試合に出続けることを重視してリーグやチームを探して、そこからちょっとずつ上がっていくのが利口なんじゃないかと思います」
その一方、日本でプレーしながら欧州サッカー事情に詳しい選手となると、そこまで多くはないのかもしれない。欧州5大リーグのことは知っていても、それ以外の地域でどこに、どんなリーグがあり、どんな環境で、どんなつながりがあるのかというリアルな現地情報はまだ手に入りにくい部分もある。しっかりと調べ、考えてから決断することが必要なのだろう。中村も同意する。
「僕もオーストリアのリーグというと、ザルツブルクくらいしか知らなかったというのはあります。やっぱりもうちょっとヨーロッパに来る前にいろいろと知るべきでしたね。例えばオランダリーグにしても相当レベルは高いし、日本から来て1年目にすぐ活躍するのは相当難しい。できる選手もいるとは思うんですけど、やっぱりある程度時間は必要だと思います」
海外移籍には、それぞれの選手に合ったルートがあるはずなのだ。
[プロフィール]
中村敬斗(なかむら・けいと)/2000年7月28日生まれ、千葉県出身。柏イーグルスTOR82―柏U-12―高野山SSS―三菱養和巣鴨Jrユース―三菱養和SCユース―G大阪―トゥウェンテ(オランダ)―シント=トロイデン(ベルギー)―FCジュニアーズ(オーストリア)―LASKリンツ(オーストリア)。J1通算24試合1ゴール。日本代表通算1試合0ゴール。2019年夏に欧州挑戦を決断し、G大阪からオランダのFCトゥウェンテへ移籍。2023年3月シリーズで日本代表に初選出され、同24日のウルグアイ代表戦で後半44分から途中出場し、A代表デビューを飾った。
[著者プロフィール]
中野吉之伴(なかの・きちのすけ)/1977年生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで、さまざまなレベルのU-12からU-19チームで監督を歴任。2009年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス取得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、16-17シーズンからドイツU-15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。『ドイツ流タテの突破力』(池田書店)監修、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)執筆。最近はオフシーズンを利用して、日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで精力的に活動している。