日本代表の夢を叶えたFW中村敬斗、先輩の大舞台に「凄ぇな」 近づく欧州ステップアップ移籍「5大リーグへ行きたい」【現地発】
【インタビュー】3月シリーズで念願のA代表デビュー、欧州で躍動する堂安の姿に刺激
オーストリア1部LASKリンツで今季リーグ戦24試合に出場し、13ゴール7アシスト(4月18日時点)と活躍するFW中村敬斗は、3月シリーズで日本代表に初招集され、念願のA代表デビューを飾った。22歳のアタッカーが胸に秘めていた日本代表への思いとともに、今後の展望を語った。(取材・文=中野吉之伴/全4回の4回目)
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LASKのオフィスで話を聞いた3月9日の段階では、中村にとって日本代表は憧れの場所であり、まだ遠い先にある存在だった。
「ワールドカップ(W杯)に限らず、日本代表は憧れで、小さい頃からの夢。その国の代表に入りたいというのはサッカー選手である以上、みんなの夢だと思うんですよね。サッカーをやっている子供で、日本代表になりたくない子なんていないじゃないですか。僕ももちろん代表への願望はあるし、入れたらいいなと思います」(中村)
そんな中村に日本代表初選出の吉報が舞い込む。そして3月24日のウルグアイ代表戦で後半44分から出場し、A代表デビューを果たした。
日本代表の前線には欧州のトップレベルでプレーする選手が揃っている。イングランド1部ブライトンで比類なき存在感を放つMF三笘薫をはじめ、ドイツ1部5位(第28節終了時)のフライブルクで主軸として躍動するMF堂安律、昨季UEFAヨーロッパリーグ(EL)で優勝へと導き、今季もUEFAチャンピオンズリーグ(CL)でベスト16まで進出したドイツ1部フランクフルトを支えるMF鎌田大地が名前を連ねる。
さらにフランス1部スタッド・ランスで持ち前のスピードを武器にピッチを縦横無尽に疾走するMF伊東純也、スペイン1部レアル・ソシエダで異彩を放つMF久保建英もおり、それこそ欧州トップレベルのクラブから獲得への興味を持たれている選手たちばかりだ。
ちょうど中村のインタビューに訪れた日の夜、ガンバ時代の先輩にあたる堂安が所属するフライブルクのELユベントス戦があった。話題がその試合に移ると、中村が思わずつぶやいたのが印象的だった。
「今日、ユーベ戦か。凄ぇな。相手ユーベですよ、凄いですよね」
純粋な感嘆の気持ちが感じられた。ほかの選手からポジティブな刺激を受け、「自分はやれることから頑張っていくぞ」という意欲に変えていく。自然体でそうした刺激を受け止めて、自身の成長へと結び付けていく。
「日本代表に招集されている選手は、みんなやっぱりレベル高い。欧州5大リーグ(イングランド、スペイン、ドイツ、イタリア、フランス)でバンバン試合に出ている選手たちだし、W杯でも活躍した選手ばかり。今回、代表チームで自分の力を証明する機会を得たことにとても感謝しています」(中村)
別世界と思っていた代表に初招集された中村。喜びよりも驚きのほうが強かったのだろうか。代表チームで活動できる嬉しさを噛みしめながら多くのことを吸収し、その経験を自分の成長に結び付けようと今取り組んでいることだろう。
今後のキャリアを展望「ドイツにこだわらず、フランス、イタリアもいい」
今季オーストリア1部リーグでは13ゴール7アシストと結果も残している中村。この調子をキープすれば、シーズン20ゴールも不可能ではない。現時点ですでにさまざまなクラブが中村をリストアップし、スカウティングの対象になっており、ステップアップの時も近づいている。
中村は自身のキャリアについてどのように思っているのだろうか。
「やっぱりサッカー選手である以上、いずれは5大リーグへ行きたいと思います。オーストリアリーグはドイツに近いですし、ドイツへのステップアップだったりとか。もちろんドイツにこだわらず、フランス、イタリアもいいんですよね。でもまだLASKで試合が残っているので全力でやりたい。リーグ戦でもヨーロッパのコンペティション、最低でもカンファレンスリーグに出られる順位で終わりたいですね。ELに出られる順位で終わればベストな形かなと思います」
ザルツブルク1強とされるオーストリアでタイトルを獲得できれば、それは特筆すべきことだろう。LASKはリーグ3位につけており、2位シュトルム・グラーツとの勝ち点差は6(25試合消化時)のため、2位でフィニッシュできる可能性は十分にある。意気込みは十分だが、中村は自身をコントロールする術も身に付けている。
「あんまり先のこと考えると、よくないなって思っています。それもオランダで学んだことです。オランダの時も、『いずれドイツへ!』とステップアップのことばかり考えすぎて、上手くいかない時もあった。だからとにかく、目の前のことに集中しています」
ヨーロッパに渡った3年半で中村は多くのことを体験した。その中には苦しく、辛いこともあった。自分の将来に不安を抱いたこともあったかもしれない。それでも中村は日々の積み重ねを大事にし、自分を信じ、自分を信じてくれた人を信じ、努力してきた。その歩みはこれからも続く。これからどんなキャリアを積んでいくのか楽しみだ。
[プロフィール]
中村敬斗(なかむら・けいと)/2000年7月28日生まれ、千葉県出身。柏イーグルスTOR82―柏U-12―高野山SSS―三菱養和巣鴨Jrユース―三菱養和SCユース―G大阪―トゥウェンテ(オランダ)―シント=トロイデン(ベルギー)―FCジュニアーズ(オーストリア)―LASKリンツ(オーストリア)。J1通算24試合1ゴール。日本代表通算1試合0ゴール。2019年夏に欧州挑戦を決断し、G大阪からオランダのFCトゥウェンテへ移籍。2023年3月シリーズで日本代表に初選出され、同24日のウルグアイ代表戦で後半44分から途中出場し、A代表デビューを飾った。
[著者プロフィール]
中野吉之伴(なかの・きちのすけ)/1977年生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで、さまざまなレベルのU-12からU-19チームで監督を歴任。2009年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス取得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、16-17シーズンからドイツU-15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。『ドイツ流タテの突破力』(池田書店)監修、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)執筆。最近はオフシーズンを利用して、日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで精力的に活動している。