日本代表デビューの新進FW中村敬斗が語る“覚醒”の理由 指揮官も絶賛「規格外」…ゴール量産を支える充実の日々【現地発】
【インタビュー】オーストリア1部LASKリンツで活躍する中村を現地で直撃
オーストリア1部リーグで今季24試合に出場し、13ゴール7アシスト(4月18日時点)の素晴らしい成績を残しているのが、3月シリーズで日本代表デビューを飾ったLASKリンツのFW中村敬斗だ。25試合消化時でリーグ3位につけるLASKで主軸として活躍する中村は、リーグ得点ランキング3位タイにつけ、ゴール関与数(ゴールとアシストの合計)でもリーグ2位と強烈なインパクトを放ち、首脳陣からの評価も高い。22歳の日本人アタッカーは今、リンツでどのように過ごし、どのように現在地まで歩んできたのか。そんな中村の「過去」「現在」「未来」について尋ねるため、現地で本人を直撃した。(取材・文=中野吉之伴/全4回の1回目)
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国内3番目に大きな都市であるリンツだが、オーストリア自体はそこまで大きな国ではない。リンツの人口は約21万人。市内中心部は賑わっているが、少し離れると自然が広がっている。
リンツの練習場とオフィスがある場所は中央駅からトラムで15分ほど。最寄りの停留所で降り、しばらく歩くと静かな住宅街に入る。本当にこんなところにリンツの練習場があるのだろうかと思っていると、目の前にスタジアムが見えてきた。看板には確かに「LASKリンツ」と書かれている。のどかで落ち着いた環境がここにはある。
オフィスを訪れると広報のラファエル・ハブリンガー氏が笑顔で迎え入れてくれた。オフィスで働くスタッフはみんなフレンドリーだ。ハブリンガー氏は、「LASKリンツは、今フランクフルトで監督をしているオリバー・グラスナーとともに成長してきたクラブだ。今あるクラブ哲学やコンセプトは彼がいた時に出来上がったもの。アグレッシブに、自分たちから積極的に仕掛けていくサッカーだ。(中村)ケイトはそんなチームでとても大きな成長を遂げている」と語る。
広報からクラブの話を聞いていると、中村が姿を現した。こちらの質問に1つ1つ丁寧に答え、とても朗らかで柔和だ。そのリラックスした様子から、このクラブで充足した時間を過ごしていることが窺える。
「今までプロに入ってやってきて、ずっとフルで通してスタメンで試合に出続けることがなかった。こうやってチームの中心として、ずっとスタメンで出続けるのはやっぱり満足度っていうか、充実感がありますよね。毎日練習していても、次の試合に向けてという気持ちが湧いてくる。試合で出る時間が長いほうが楽しいんでね。すごく楽しくやれています」(中村)
中村にフィットした環境「いろんなことができるようになった」「すごく成長しやすい」
中村の海外在住歴は3年以上になる。ガンバ大阪からオランダ1部トゥウェンテにレンタル移籍で渡ったのが2019年7月。開幕節のPSV戦でいきなり初出場、初得点する活躍で一躍注目を集めた。20年7月にベルギー1部シント=トロイデンにレンタル移籍するも出場機会を得られず、21年2月にLASKのセカンドチームにあたるFCジュニアーズにレンタル移籍。オーストリア2部リーグで戦いながらトップチームでも経験を重ね、21年8月にLASKへの完全移籍が決まった。
「最初1年はローンでその間に(LASKが)取るかどうかを決めるという話でした。上手くいってLASKが買い取ってくれることになりました。LASKに長くいる選手もいるので、最初は下のほうからのスタート。昨シーズンは途中出場が多かったんですけど、徐々に結果を残して、今シーズンのレギュラーにつなげたという感じですかね」(中村)
レギュラー獲得につながった要因は何か。ゴールやアシストという数字を残したのも大きい。では結果が残せるようになった背景として、自分の中で何か変化があったのだろうか。
「特別、『これをやるようにした』とかはないです。僕にとってこのチームは、環境や居心地などがすごくフィットしているんです。だからすごく成長しやすい環境なのかなって思います。知らず知らずのうちにいろんなことができるようになってきて、試合を重ねるごとに実戦の経験も積んで、チームメイトにも経験ある人が多いから、いろんな話を聞きながらやってきたら、ここまで来た感じですね」(中村)
指揮官のディートマー・キューバウアーは「ケイトは規格外のテクニシャンで、規格外のサッカー選手だ」と称賛し、その才能を誰よりも高く評価している。信頼している分、「要求するレベルも高いし、妥協を許さず厳しく接している」(広報・ハブリンガー氏)という。成長するための素晴らしい環境がここにはあるのだ。
[プロフィール]
中村敬斗(なかむら・けいと)/2000年7月28日生まれ、千葉県出身。柏イーグルスTOR82―柏U-12―高野山SSS―三菱養和巣鴨Jrユース―三菱養和SCユース―G大阪―トゥウェンテ(オランダ)―シント=トロイデン(ベルギー)―FCジュニアーズ(オーストリア)―LASKリンツ(オーストリア)。J1通算24試合1ゴール。日本代表通算1試合0ゴール。2019年夏に欧州挑戦を決断し、G大阪からオランダのFCトゥウェンテへ移籍。2023年3月シリーズで日本代表に初選出され、同24日のウルグアイ代表戦で後半44分から途中出場し、A代表デビューを飾った。
[著者プロフィール]
中野吉之伴(なかの・きちのすけ)/1977年生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで、さまざまなレベルのU-12からU-19チームで監督を歴任。2009年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス取得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、16-17シーズンからドイツU-15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。『ドイツ流タテの突破力』(池田書店)監修、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)執筆。最近はオフシーズンを利用して、日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで精力的に活動している。