三笘薫の足跡を辿れるか U-22日本代表の欧州遠征で大学生の佐藤恵允が猛烈アピール
【明治大学の10番】
身長は178cm。国際試合のピッチのなかに入ると、高さでは目立たない。しかし、76kgというがっちりした体格は見劣りせず、むしろ逞しさを感じさせる。佐藤恵允、21歳。この春から名門・明治大学の10番を背負うアタッカーは、今年初の欧州遠征で眩い光を放った。
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3月19日から28日まで行なわれたU-22日本代表の欧州遠征。来夏に開催されるパリ五輪の最終予選を兼ねたAFC U23アジアカップまでは約1年で、いよいよメンバー争いが本格化してくる。AFC U23アジアカップ予選も今年9月に控えており、与えられた出場機会でアピールしなければ、言うまでもなく自身の立ち位置は確立できない。
だが、今年に入ってこのパリ五輪世代が各クラブで厳しい状況に置かれている。今冬にストラスブール(フランス)に加入した鈴木唯人が出場機会を得られておらず、藤田譲瑠チマ(横浜F・マリノス)や山本理仁(ガンバ大阪)も出番を得られていない。
しかし、佐藤が主戦場とする4-3-3のウイングに関してはそれぞれがアピールを続けており、熾烈な競争が繰り広げられている。今遠征は惜しくも負傷で招集を辞退した斉藤光毅(スパルタ/オランダ)は現在3試合連続でゴール中。三戸舜介もアルビレックス新潟で好調を維持しており、初挑戦のJ1の舞台で輝きを放っている。プロ4年目を迎えた山田楓喜(京都サンガF.C.)も第3節からスタメンに定着した。
もちろん課題もあり、世界を見据えた上ではさらなるレベルアップが求められるが、U-22代表において最も充実しているポジションと言えるだろう。
そうした状況下において、今遠征でアピールに成功したのが佐藤だった。斉藤が負傷した結果、追加招集で巡ってきた絶好の機会。「追加招集という形で選ばれましたけど、一番は悔しい気持ちが大きかったということ。でも、追加招集で選ばれたとはいえ、チャンスなので結果を出せば、これからの自分につながっていく」。強い決意を持って、欧州の地にやってきた。
【2試合2ゴール1アシスト】
直近はコンディションがよかったわけではなく、100%ではなかった。それでも、巡ってきた機会を無駄にするわけにはいかない。今遠征ではエース格の斉藤に加えて、三戸もドイツ戦の前に負傷離脱しており、サイドの手駒が足りなくなる状況だった。どういう形であれ、結果を残せれば、一気に序列を変える可能性を秘めていたのだ。
迎えたドイツ戦。左ウイングのポジションで先発起用されると、持ち前のパワフルな突破で存在感を示す。劣勢が続く展開のなか、ボールを受ければ、力強いドリブルでボールを前に運んでいく。「ピッチに入場する時に自分よりも大きくて、ちょっと圧倒された」と屈強なドイツ人選手に驚きを隠せなかったが、グラウンドでは臆さずに身体をぶつけてボールをキープ。日本の選手で肉弾戦に負けていなかったのは佐藤ぐらいで、改めてフィジカルの強さは群を抜いていると感じさせた。
0-1で迎えた前半43分にはCKの流れから同点ゴールをゲット。ニアサイドで木村誠二(FC東京)がすらすと、ファーサイドに走り込んで頭でネットを揺らした。さらに後半立ち上がりの開始24秒だ。ロングボールの処理にもたついた相手DFのミスを逃さずにボールを奪いきり、細谷真大(柏レイソル)の勝ち越し点をアシストした。直後に追いつかれて2-2のドローとなったが、ブンデスリーガで活躍する猛者が揃うドイツに対して1ゴール・1アシストの結果は十分に胸を張れるモノだった。
ただ、試合後の佐藤には浮かれた表情は一切なかった。勝ちきれなかったことがあるとはいえ、自身のパフォーマンスには胸を張ってもよかったはずだが、本人は「今日スタメンで結果を残せたのはよかった」としつつも、「まだまだです。自分がもっとよさを出していれば勝てた」と悔しさを隠そうとしなかった。
向上心を持って臨んだ27日のベルギー戦はベンチスタートとなったが、見せ場は後半に訪れた。
チームは序盤から相手に押し込まれ、ほとんど何もさせてもらえない展開だった。3-4-2-1の相手に対し、日本は4-3-3でハメにいくが、ミスマッチが頻発してサイドを崩されるシーンが目立った。0-2で終えた前半はいいところがほとんどなかった。
そうした状況下で後半開始から佐藤が投入される。与えられたポジションは3-4-2-1のシャドー。2列目で自由に動きながらチャンスメイクする役割を担うと、持ち前の打開力で局面を崩していく。54分にはドイツ戦と全く同じ形のCKから一撃をねじ込んだ。木村のすらしたボールにファーで詰め、豪快に右足でネットを揺らした。
以降もフィジカルで相手に競り勝ち、攻撃の起点として機能。途中から3-4-1-2のトップ下、4-4-2の右サイドハーフに入るなど、相手の立ち位置が変わる度にポジションが目まぐるしく変わったが、そつなくこなして適応能力の高さもアピールした。2-3で敗れたものの、2試合を通じて2ゴール・1アシストの活躍で追加招集の期待に応えた。
【三笘薫と同じような未来を描けるか】
「ドイツ戦よりも1対1を仕掛けたり、攻撃の面で違いは出せたと思う。だけど、結果的にその流れからゴールとかアシストにつなげられていないので満足していない」
この日の試合後も、佐藤は浮かれた様子を見せず、謙虚な姿勢を崩さなかった。周りの選手たちはJ1のクラブやヨーロッパでプレーしているが、自身の立場は大学生。欧州遠征で結果を残したとしても、こうしたハイレベルな遠征を味わえるのは代表活動に限られる。プロの世界で戦っている選手たちは常に上のステージで揉まれており、日常を変える作業は並大抵のことではない。だからこそ、浮かれるわけにはいかず、自身のスタンスを貫いているのだ。
思い返せば、三笘薫(ブライトン/イングランド)もそうだった。筑波大学から川崎フロンターレと進んでプレーしていた頃は、東京五輪を戦うチームのなかでも絶対的な存在ではなかった。それでも東京五輪に出場、欧州移籍でも経験値を高めて一気に上り詰め、昨秋のワールドカップでセンセーショナルな活躍を見せた。
佐藤は同じような未来を描けるか。高校時代は目立った活躍は見せられなかったかもしれないが、大学で一気に才能が花開き、世界へ羽ばたこうとしている。新たなステージに行くべく、佐藤の挑戦はこれからも続いていく。