G大阪FWジェバリの知られざるキャリアと人間性。恋人の勧めで北欧へ、突然のサウジ移籍は古巣が憤慨も「チュニジアで暮らす家族の生活は楽ではない」
「家族と離れて暮らすのはとても辛かった」
今シーズンの巻き返しを図るガンバ大阪に加わったのが、チュニジア代表FWのイッサム・ジェバリだ。カタールW杯に出場した31歳は、これまでどんなキャリアを辿ってきたのか。北欧各国のメディアによるインタビューを引用しながら、日本に来るまでの歩みやプレースタイル、人物像を紹介したい。
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チュニジア北部のマジャズ・アル・バブで生まれ育ったジェバリは、12歳のときに親元を離れて同国の強豪エトワール・サヘルのアカデミーに加入する。そのときの心境について、こう振り返っている。
「家族と離れて暮らすのはとても辛かった。だけど一方で、良い試練だと思ったよ。乗り越えないといけなかった。それまでよりも大きなクラブのアカデミーに移籍できるのは幸運なことだ。お金を稼いで自分の周りの人のために良い未来を築くためには、成功しないといけなかった」(B.T.)
エトワール・サヘルで順調に成長したジェバリは、2009年に17歳でトップチームの一員としてデビュー。以後、2013年にレンタルとしてザルジスでプレーしたことを除けば、2014年までエトワール・サヘルで過ごし、2015年にスウェーデン2部のIFKヴェルナモに移籍する。アフリカ諸国の選手が北欧のリーグに活躍の場を移すのは珍しいことではないが、ジェバリの場合はその経緯が特殊だった。
ここで時計の針を少し戻す。2010年のことだ。チュニジア第3の都市スースのホテルに滞在していたジェバリは、ある女性と出会う。観光で訪れていたスウェーデン人ニーナ・ビルギッタさんだ。
2人はほどなくして交際をスタート。当初はチュニジアとスウェーデンの遠距離恋愛だったが、ジェバリはスウェーデンのクラブでテストを受けてみてはどうかとニーナさんから提案を受ける。それが先述したIFKヴェルナモで、ニーナさんの地元ヴェルナモに拠点を置くクラブだった。練習生として参加したジェバリは見事契約を獲得し、スウェーデンへの移住を決意する。
ヴェルナモでの1年目は26試合に出場して5得点・3アシストを記録。アタッカーとしては突出した数字ではないが、2年目の2016年シーズンは前半戦の15試合で6ゴール・2アシストをマークし、耳目を集める。スウェーデンの複数クラブが触手を伸ばすなか、同年7月にジェバリの移籍先は1部リーグのIFエルフスボリに決まった。
「スウェーデンでは見た事がないレベルの選手」と指揮官が絶賛
ジェバリは新天地ですぐさまその実力をアピールする。8月に本拠地で行われたGIFスンツバル戦でわずか12分でハットトリックを達成。試合後、エルフスボリのマグヌス・ハーグルンド監督は「スウェーデンのリーグでは見た事がないレベルの選手」と絶賛した。
ハットトリックの知らせは母国チュニジアにも届き、翌9月のアフリカ・ネーションズカップ予選に挑む代表メンバーに招集される。残念ながら出場機会はなく、A代表デビューとはならなかったものの、エルフスボリでの1年目は15試合で7得点をマーク。続く2017年シーズンでは29試合に出場して10ゴール・7アシストを記録し、スウェーデンリーグ有数のアタッカーとしてその名を馳せた。
スウェーデンで爪痕を残したジェバリは、2018年夏にノルウェーの強豪ローゼンボリBKにステップアップする。デビュー戦となったクリスティアンスンBKとの一戦では決勝ゴールをマークするなど、リーグ戦とカップ戦の2冠獲得に貢献。ヨーロッパリーグ本戦でも得点を挙げて国際舞台でも結果を残すと、地元メディアはかつてローゼンボリで活躍したレジェンド、元スロバキア代表マレク・サパラの再来と絶賛。サポーターからも愛される存在となった。
だがジェバリは、わずか半年でノルウェーを去る。2019年1月、何の前触れもなくサウジアラビアのアル・ワフダとの契約を結んだ。悪いことに、移籍が正式に決まる前の段階でアル・ワフダのインスタグラムでクラブの副会長とジェバリの2ショットが公開されたため、ローゼンボリ側は憤慨。後味の悪い去り方となった。
ジェバリはのちに、アル・ワフダでの待遇は「スウェーデンとノルウェー時代とは比べ物にならなかった」と振り返っている。金銭的な理由が移籍の背景にあったことは間違いない。だがそれにはわけがあった。将来のため、そして母国で暮らす家族のためだった。アル・ワフダ移籍後のノルウェーメディアによるインタビューで、次のように語っている。
「これ以上ない待遇だった。家族と子どもの将来を守らなければならないことを考えると、とても大きな意味を持つオファーだった。自分には大きな責任がある。母国チュニジアで暮らす家族の生活は楽ではない。兄弟2人の面倒は自分が見ているんだ。だから、移籍を決めたのは自分のためだけではなく、家族のためでもある」(Adresseavisen)
サウジアラビアでの生活は充実していたようだが、クラブの方針と合わなかったこともあって、ここでも半年でクラブを去ることに。2019年夏、スウェーデンリーグ時代に知り合ったヤコブ・ミケルセンがコーチを務めていたオーデンセに加入する。
そのオーデンセでは腰を据えてプレーし、2020-2021シーズンと2021-2022シーズンに2桁得点をマークするなど、攻撃の軸として活躍。この頃にはチュニジア代表にも定着し、冒頭で紹介した通りカタールW杯に出場した。
「お金は自分だけのものじゃなく、家族全員のもの」
ここまでジェバリのキャリアを振り返ってきた。次に、プレースタイルと人物について考察したい。
ジェバリがオーデンセに加入した頃にクラブのスポーツダイレクターを務めていたイェスパー・ハンセンは、ジェバリのプレーについて引き出しの多さを評価していた。 「テクニックがあり、2トップの一角はもちろん、3トップではCFとウイングの両方に対応可能。戦術的な柔軟性があり、自身のプレーをチームのやり方に合わせることができる。フィニッシャーとしても優秀で、1対1にも強い。186センチの身長を生かして色んなプレーができる」(オーデンセ公式)
ジェバリ自身、ロナウジーニョが好きで子どもの頃からドリブルの練習にはずいぶん時間を費やしたそうだが、それでも「現代サッカーではマルチな能力が必要。だから、たくさんの選手から少しでも何かを得て自分のプレーに生かすようにしている」(オーデンセ公式)と語っている。
ジェバリが今季のデンマークリーグ13試合で記録したチャンスクリエイト数はリーグ2位の33。昨シーズンは、90分あたりのゴール期待値+アシスト期待値が0.72でこちらもリーグ2位の記録だった。フィニッシュに絡むだけでなく、八面六臂のプレーが特長と言える。
一方、気になる点もある。昨シーズンに犯したファウルの数は48で、リーグで2番目に大きい数字だ。その前のシーズンの2020年2月に行われたブレンビー戦では悪い意味で注目の的になったことがあった。
前半に相手DFに危険なタックルを見舞い、後半に今度は別のDFに対して悪質なプッシングのファウルを犯す。プッシングされたDFは味方選手と激しく接触し、負傷交代を余儀なくされることになった。前半と後半のいずれのプレーも一発退場になっても不思議ではなく、大きな批判を浴びた。
アル・ワフダへの移籍について「家族のため」と語った通り、家族に対する思いはかなり強い。お金の最良の使い道について次のように話している。 「(最良の使い道は)母親にお金を渡すときだね。12歳で家を出てからずっと思ってきた事がある。『いつか両親に誇りを持ってもらおう』とね。母国の家族が食べ物を必要としているとき、医者に診てもらいたいときなど、どんなことでも喜んでお金を送る。大人になった今、お金は自分だけのものじゃなく、家族全員のものでもある。自分自身、父、母、兄弟のね」(B.T.)
また、オーデンセでは潤滑油のような役割を果たしていたようだ。あるチームメイトによるとジェバリは映画鑑賞や食事会などをよく企画していたそうで、チームの雰囲気づくりに気を配っていたことがうかがえる。
ジェバリのインスタグラムを覗いてみると、プロフィール欄に「SHOWTIME」と書かれているのに気づく。チュニジア時代にサポーターから「Mr.Showtime」と呼ばれていたことに由来するそうだ。これからパナスタでガンバのサポーターにどんなショータイムを提供してくれるのか。楽しみでならない。
文●鈴木肇