中村憲剛×佐藤寿人…本音のJ1談義「宇佐美のインサイドもったいない」「浦和は産みの苦しみ」「いろんなものを見直す時期」
◆第14回・前編>>Jリーグ序盤戦を斬る「イニエスタが帰ってきたらどうなるか」
【写真・画像】宇佐美貴史のポジションは?「2023 J1全18チーム」序盤戦フォーメーション
1980年生まれの中村憲剛と、1982年生まれの佐藤寿人。2020年シーズンかぎりでユニフォームを脱いだふたりのレジェンドは、現役時代から仲がいい。気の置けない関係だから、彼らが交わすトークは本音ばかりだ。
ならば、ふたりに日本サッカーについて語り合ってもらえれば、もっといい未来が見えてくるのではないか。飾らない言葉が飛び交う「日本サッカー向上委員会」
──第14回は開幕した「Jリーグ2023」の注目ポイントと、新たなスタートを切る「森保ジャパン」について語り合う。
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── 前編に続いてJリーグ序盤戦の各チームの見解を聞かせてください。ポーランド出身のマチェイ・スコルジャ監督を招聘した浦和はどうでしょう?
寿人 監督の目指すサッカーと、タレントが合っていない気はしますね。前任のリカルド・ロドリゲス監督(浦和在籍2021年~2022年)が集めた選手たちがほとんどですから。(興梠)慎三(北海道コンサドーレ札幌→)が戻ってきましたけど、彼ももう36歳ですからね。
憲剛 開幕戦を解説したけど、やろうとしていることは明確だから、ハマってくれば徐々に結果を残しそうな気はします。ただ、まだ序盤戦ですからね。監督が代わったチームはしばらく「産みの苦しみ」があると思います。
寿人 フロンターレが初優勝した時(2017年)はどうでした?
憲剛 開幕3試合は2勝1分。けど、そこからケガ人がたくさん出て、一時期だいぶ下がったね。でも、ケガ人が復帰して戦い方が確立されてきた夏以降は、一度も負けなかった。
やっぱり、チームにはバイオリズムみたいなのはあるから。どこにピークをもっていくかは、どのチームも考えていることだろうし。
それに今年は降格が1枠だから、特にシーズンの最初のほうはいろんなチャレンジができるんじゃないかなと。それによって、多少の浮き沈みはあると思いますよ。
寿人 そうなんですよね。勝ち点1を獲りにいくよりも、勝ち点3を獲りにいくサッカーができるので。もちろんシーズン終盤になれば、現実的になるでしょうけど。
── ガンバ大阪も監督が代わったことで、スタイルが大きく変わったチームです。
憲剛 4-3-3は難しいですよ。
寿人 真ん中の3人のタイプによって、だいぶ変わりますしね。
憲剛 個人的には宇佐美(貴史)のインサイドは、もったいないのかなと。彼の最大値が出せるポジションではない気もします。
寿人 巧いから、ボールをたくさん触らせて、リズムを作らせたいんでしょうね。
憲剛 もちろん、やっていくなかでハマってくることもある。ただ、勝てなかった時に4-3-3を続けられるか、どうか。結果が出ないからボランチの枚数を変えたり、キャンプでやっていたことを変えてしまうと、不信感が生まれてくる危険性もありますから。
── 昨年王者の横浜・Fマリノスは今季も開幕から変わらぬ強さを示しています。
寿人 変わらず、ですね。ただ、選手が(他クラブに)出たので、攻撃のところで途中から試合を決めるとか、変化をつける部分は、去年と比べると少し足りないかもしれないですね。
憲剛 マリノスだけではないと思いますが、個人的にはACLが秋以降に開催されることが、いろんな意味で影響してくると思っていて。
寿人 ルヴァンカップが全チーム参加になりましたからね。そこでリーグ戦に出ていない選手を使うことができる。
憲剛 ACLだと、それがなかなかできないじゃないですか。
寿人 ターンオーバーすると、ファンは「なんで?」となりますからね。
憲剛 そう。それで「なんで?」となって、グループリーグで敗退することもありました……。
寿人 私たちもそうです(苦笑)。それでポイチ(森保一/2012年~2017年サンフレッチェ監督)さんが批判されるという。
けど、考えてみてください。地方クラブの広島の予算で、両方は追えないですよ。逆にリーグ戦のメンバーを変えることも、多少はやりましたけど。
憲剛 それも、リスクはありますよ。ACLに出ているということは、前年度のリーグ戦で上位にいたわけだから、リーグ戦の負けも大きく扱われちゃうわけで。
寿人 もちろん、ルヴァンも勝たなくてはいけない大会ですけど、21歳以下の選手も使わないといけないルールがあるので、リーグ戦とは選手を変えやすいところはありますよね。
憲剛 フロンターレにとっては、逆にいいタイミングでルヴァンが始まったなと。ケガ人続出のなかで、経験の浅い選手がいろんなチャレンジをできますから。
寿人 フロンターレは何年も優勝を争うだけの強さを維持しているじゃないですか。それって本当に難しいことだし、しかも毎年のようにレギュラークラスが抜けているのに強さを保ち続けているのは、本当にすごいことだと感じますね。
本来だったら優勝したメンバーが残ったところに補強して維持するものだけど、憲剛くんが引退しても、伸び盛りの若手が海外に行っても、優勝を争いを続けている。普通だったら維持もできないけど、ほかのクラブで経験を積んだ選手を戻したり、今年だったらチームに合うだろうという選手としてピンポイントで瀬川祐輔(湘南ベルマーレ→)を補強したりして、継続した強化ができていますよね。
あとはやっぱり鬼木(達)さんがすごいですよ。広島で維持する難しさを感じていた僕から見ると、今年もやっぱり、フロンターレは、フロンターレだなと。
── やはり連覇は難しい?
寿人 難しいですし、3連覇となると相当ハードルが高いですよね。フロンターレが2回チャレンジしたけど、2回ともマリノスに阻まれている。この6年間で優勝したのはフロンターレとマリノスの2チームしかないなかで、今年はフロンターレが取り返すのか、マリノスが連覇するのか、それともほかのチームが出てくるのか。
ただ、その新しいチームがどこになるのかと考えると、パッとは思いつかないですね。フロンターレやマリノスを上回れるほどの強さを感じるチームは、今のところは見当たらない。
憲剛 だいたい5試合くらいで見えてくるのかなと。5試合の結果によって、ある程度シーズン序盤の流れができてくるので。5試合を終えた段階の順位が、今季の行方を占うのかなと思っています。
── 今年はJリーグが30周年を迎えますが、記念すべきシーズンに期待することはありますか。
憲剛 今、野々村(芳和/第6代Jリーグチェアマン)さんがいろいろなアイデアを出しているんですよね。「60クラブがそれぞれの地域で輝く」「トップ層がナショナル(グローバル)コンテンツとして輝く」というふたつの成長戦略を掲げて、Jリーグのさらなる発展を目指しています。
そのなかでメディア露出にも力を入れていて、4月から各地域で『キックオフ』というサッカー番組もスタートします。各地域のクラブやサッカーの露出を高めることが目的で、地上波なので一般の方でも見やすい番組だと思います。
ただ、個人的には、今季の開幕戦は地上波で生放送してほしかったところはあります。金曜ナイターの難しさはあったと思いますが。
寿人 そうなんですよ。DAZNが放映権の権利を持っていますけど、重要な試合は地上波でもやってほしい。地上波を見てDAZNに入るという流れにならないと、なかなか新規開拓はできないですよ。
ワールドカップ後の一発目の試合で、マリノスとフロンターレの好カードですよ。スタジアムにもたくさん人が入っていい雰囲気でしたし、内容も本当によかった。あの試合をいろんな人に見てもらえる環境を作れなかったのは、本当にもったいないと感じましたね。
憲剛 Jリーグとしても、打つ手は打っているんです。ただ、Jリーグを取り巻く環境が30年経って、だいぶ変わってきている。
いろんなものを見直す時期に来ているというのは、野々村さんも言っていること。ピッチ内のことだけじゃなく、ピッチ外の活動も含め、次の30年につながるシーズンになってほしいと思います。
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【profile】
中村憲剛(なかむら・けんご)1980年10月31日生まれ、東京都小平市出身。久留米高校から中央大学に進学し、2003年にテスト生として参加していた川崎フロンターレに加入。2020年に現役を引退するまで移籍することなく18年間チームひと筋でプレーし、川崎に3度のJ1優勝(2017年、2018年、2020年)をもたらすなど黄金時代を築く。2016年にはJリーグMVPを受賞。日本代表・通算68試合6得点。ポジション=MF。身長175cm、体重65kg。
佐藤寿人(さとう・ひさと)1982年3月12日生まれ、埼玉県春日部市出身。兄・勇人とそろってジェフユナイテッド市原(現・千葉)ジュニアユースに入団し、ユースを経て2000年にトップ昇格。その後、セレッソ大阪→ベガルタ仙台でプレーし、2005年から12年間サンフレッチェ広島に在籍。2012年にはJリーグMVPに輝く。2017年に名古屋グランパス、2019年に古巣のジェフ千葉に移籍し、2020年に現役を引退。Jリーグ通算220得点は歴代1位。日本代表・通算31試合4得点。ポジション=FW。身長170cm、体重71kg。