「サッカーの本来あるべき姿があった」オランダ人記者が30年ぶりのJリーグ取材で受けた“驚き”とは? 「エールディビジとは全く違う」
30年の時を経て、日本サッカーは模範的な発展を遂げた
Jリーグ第4節のヴィッセル神戸対浦和レッズ戦、セレッソ大阪対サガン鳥栖戦を取材する機会を得た。
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実はJリーグ初年度の1993年7月10日、大阪の万博記念競技場でガンバ大阪対ヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ)を取材した経験がある。当時所属していたオランダの新聞社から直接“FAX”で取材を申し込み、許可されたのだ。
うだるような暑さのなか、スタジアムはほぼ満席状態だった。このシーズンを制したV川崎にはオランダ人DFのウヘーヌ・ハンセン(当時34歳)がプレーしていた。
3-2でV川崎が勝利した試合直後に、彼と話すことができた。びしょ濡れのユニホームと汗の匂いが今も記憶に残っている。同胞の私に対して、「故郷のリンブルフに帰りたい」と心情を吐露してくれた。
さらに続けて「屋外の大きな鳥かごで、カナリヤを飼いたいのだが、日本でそのようなものを買えるところを知らないか」と聞かれたときは驚いた。堅強でパワフルなDFがカナリアを飼育する姿を想像できず、自分の耳を疑ったほどだ。
残念ながら現在と違って当時はインターネットで検索することはできなかったため、私はハンセンの質問に上手く答えられなかった。結局、その後ハンセンは2試合に出場(通算18試合・3得点)したのち、本当にホームシックでオランダに帰国してしまった。
そして今回、再びJリーグを取材するため、神戸対浦和戦が行なわれるノエビアスタジアム神戸へと足を運んだ。浦和にはオランダ人でしかもハンセンと同じリンブルフ州出身のFW、ブライアン・リンセンがいる。73分に交代出場すると、味方からパスを引き出す動き出し、精力的な守備で浦和の1-0での勝利に貢献していた。
試合後、リンセンと話した際に先駆者のカナリアの話題を提供した。彼は大爆笑しながらも、「僕にはホームシックの心配はないけど、愛犬がそばにいないことをさみしいと思うこともあるよ」と理解を示してくれた。
神戸対浦和戦の翌日は、ヨドコウ桜スタジアムでC大阪対鳥栖戦を取材。多くの観客が来場して素晴らしい雰囲気を楽しむことができた。
30年の時を経て、日本サッカーは模範的な発展を遂げた。今回取材した2試合を通してそれを自分の目で確信できた。
オランダのエールディビジとは全く違う雰囲気に驚かされた。発煙筒を焚いたり、ロケット花火を打ち込んだり、スタジアム入場前から泥酔したりしているサポーターは皆無。キックオフ前の耳をつんざくような大音量の音楽やフーリガン行為、スタジアム周辺のゴミ山や破壊行為もない。もちろん女性へのセクハラ言動もだ。
老若男女のファンが、何世代にも渡って純粋にそして安全にサッカーを楽しめる環境が日本には揃っている。私はサッカーの本来あるべき姿をそこに見ることができた。
文●ハンス・フォス
翻訳●青木裕子
【著者プロフィール】
Hans VOS(ハンス・フォス)/1959年1月1日生まれ。オランダ最大の地方紙『ユトレヒト・ニュースブラッド』紙、通信社『プレス・ユニオン』、『ネールランド・プレス』を中心に、40年間に渡るスポーツ記者経験を持つ。スポーツ全般に精通。もっとも印象に残る取材は2000年のシドニー五輪。