「ガンバの背番号7」という覚悟…ニュー宇佐美貴史が「プレッシャーを打ち破っていくのは快感」と胸を張れた理由
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1点ビハインドで迎えた後半立ち上がりの49分。ガンバ大阪の新たな背番号7が魅せた。
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エリア手前でパスを受けると、密集地帯を華麗なステップですり抜けて、スライディングシュート。GKに当たったボールは相手DFの反応よりも先に、コロコロとゴールへと転がりこんだ。
「欲を言えばネットを揺らしたかった。でも、ボテボテでしたけど(ゴールは)いいもんだなと思いました。時間帯もよかったですし、チームを勢いづけることもできた。勝っていれば最高でしたけどね」
試合後、宇佐美貴史は淡々とゴールシーンを振り返った。
宇佐美にとっては、実に2021年11月以来のゴールである。昨年は開幕直後に右アキレス腱断裂の重傷を負い、シーズン終盤に復帰したものの無得点に終わっていた。G大阪が最後まで残留争いを強いられたのも、この男の不在と無関係ではなかっただろう。
復活を期す今季はキャプテンに就任し、背番号も7に変更。クラブのレジェンド、遠藤保仁のナンバーを継承することとなった。
立場や数字の変化だけではない。柏レイソルとの開幕戦で、G大阪のエースは”ニュー宇佐美”をはっきりと印象づけた。
宇佐美のポジションは、4-3-3のインサイドハーフ。2トップの一角やウイングを主戦としてきた宇佐美にとっては新たな役回りである。
「彼自身、中でプレーするのが好きな選手。中にいることでボールにたくさん触ることができますし、ゴール自体も中央にあるので、そこを目指すこともできる。彼が好きなところを活かしながら、あのポジションに置いています」
今季より指揮を執るダニエル・ポヤトス監督は、宇佐美の起用法についてそう説明した。スペイン出身の新監督は、昨季まで徳島ヴォルティスを指揮した人物。ポゼッションを重視したスペインスタイルにとって、インサイドハーフは重要な役割を担う。
【司令塔とアタッカーの二刀流】
そのインサイドハーフの位置に入った宇佐美のタスクは多岐に渡った。
後方に下がってビルドアップに参加すれば、鋭い縦パスを打ち込んで攻撃のスイッチを入れる。高い位置を取ればラストパスを供給し、自らエリア内に飛び込んでフィニッシュワークにも関与する。自在なポジショニングでボールに絡み続け、G大阪の攻撃に流れを生み出していた。
「どこに立つべきか、というベースはありますけど、相手の立ち位置によって変えたりとか、ボールを回していくやり方のオプションはたくさんあるので」
宇佐美がまず求められているのは、ボール回しをスムーズにすること。プレッシャーのなかでもボールを収められ、視野の広さと判断の早さを持ち合わせる宇佐美は、”司令塔”として打ってつけだろう。
実際に宇佐美が数多くボールを触ることで、G大阪の攻撃に流れが生まれた。一方でとりわけ前半は、ボールを支配しながらもゴールに迫るシーンは少なかった。そこには”アタッカー”宇佐美が不在だったことが原因だろう。
「下がって受けて流れを作ることはそうですけど、それだけでは物足りない。どうやってフィニッシュのところに絡んでいくか。ゴール前に顔を出すのは絶対的なテーマ。そこもやりながら、守備もやりながら、やることは多くなりますけど、チャレンジしがいはあるので、意欲的にやっていきたいと思っています」
司令塔でありながら、アタッカーでもあり続ける。求める理想はかぎりなく高いが、今季の宇佐美はその境地へとたどり着く覚悟だ。
宇佐美がアタッカーの役割を強めた後半、G大阪はそのエースのゴールで追いつくと、5分後にはダワンのミドルで逆転に成功。しかし、終了間際にPKで追いつかれ、開幕戦を白星で飾ることはできなかった。
「3点目が必要だなと。ああいう時に、もう少し余裕を持って守れるとか、中でしっかり受けすぎないメンタルを持つようにとは話していましたけど、勝利を目の前にした時にちょっと重くなってしまったのかなと」
【名門復活のカギを握る宇佐美】
課題を口にした宇佐美だったが、その表情に悲壮感はなかった。
「でも、今までにない課題なので。勝てそうなゲームを落としたとか、ボールを支配しているところで3点目が取れていればとか、試合が終わった時にそういった感情になることはここ数年、なかなかなかったこと。もちろん勝ちたかったし、勝ち点2を失ったのは間違いないですけど、ポジティブな悩みだと思っています」
一昨季は13位、昨季は15位と、二度のリーグ制覇を誇る”関西の雄”は近年、低迷が続いている。昨季終盤は勝ち点を取りこぼさない超現実的なサッカーでなんとか残留を成し遂げたものの、発展性のないそのサッカーからは未来が見えなかっただろう。
しかし、ポヤトス監督を迎えた今季は確かなスタイルが息づく。勝てなかったとはいえ、開幕戦で形が見えたことは、G大阪にとってこれ以上ない収穫だ。
そしてそのチームの中心には、新たな背番号7がいる。
「今年誰が一番重いものを背負っているかと言えば、明らかに僕だと思う。そのなかで結果を出していくとかプレッシャーを打ち破っていくのは快感ですし、だからこそキャプテンを引き受けましたし、7番を背負ったわけなので。でも、楽しさとか、やりがいしか感じていない。自分のものにしていこうと思っています」
クラブのすべてを背負った”ニュー宇佐美”が、名門復活のカギを握る。