クライフから大きな影響を受けたダニエル・ポヤトス監督が、ガンバ大阪を「本来いるべき場所」に導く
愛しているJ! Jリーグ2023開幕特集ガンバ大阪/ダニエル・ポヤトス監督インタビュー
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約2週間の日程で行なわれたガンバ大阪の沖縄キャンプ。パス&コントロールの練習でも、8対8のミニゲームでも、紅白戦でも、ダニエル・ポヤトス監督は繰り返し似たような言葉を選手に向かって投げかけていた。
「優位性を考えながらボールを前に運ぼう」「常に、前、遠くをしっかり見て、判断!」「意図を持ってボールを運ぼう」「状況を見て、考えて選択する」
いいプレーには必ず選手の名前を呼んで声をかけ、ミスには手を叩いて叱咤する。その一つひとつの言葉を聞きながら、チームの始動に際してポヤトス監督が話していた”理想のサッカー”が頭に浮かぶ。「サッカーは自分にとって、パッション、情熱」だと話した氏は、14歳で初めて監督として指揮を執った時から積み上げてきた、自身のサッカー哲学をガンバにも植えつけたいと熱を込めた。
「選手としての自分に早い段階で見切りをつけ、若くして指導者になった時から『サッカーはファンのためにある』という考えのもと、常にファンの方が喜んでくれる、楽しいサッカーを構築することを目指してきました。
スペインサッカーがその歴史において、多大なる影響を受けたと言っても過言ではないヨハン・クライフ氏には、私自身も大きな影響を受け、彼のアイデンティティ、アイデアから多くのことを学びました。それをベースにさまざまなサッカーからも学びながら、私自身のサッカー哲学が出来上がりました。
その中身についてお話しすると、常に私は”ボールを持つこと”を第一に考えてきました。それによって、私のサッカーにおいてとても大事にしている”時間とスペース”を有効に活用でき、ゲームを支配できるからです。そうしてボールを持ちながらピッチのどこに優位性があるかを把握し、そこを使ってボールを動かし、常に自分たちからアクションを起こしてゴールに近づいていく。
ちなみに、この優位性には質的な優位性と数的な優位性の両方が含まれます。その過程において仮にボールを失ったとしても、チームとしていいオーガナイズを形成しながら相手に向かっていき、奪い返し、再びボールを自分たちが支配することも忘れてはいけません。
そのように、攻守において”待たずに”主導権を握ること、つまり優位性を有効に活用しながら自分たちから仕掛けていく姿勢を示せるチームになれば、必ずゴールの確率は上がっていくと考えています」
そうした理想とするスタイルを「ガンバというビッグクラブが、日本の中心で輝くチームになるために確立したい」とも言葉を続けた。
「もちろんサッカーは相手ありきのスポーツで、相手の動きによって生まれるスペースは変わってきます。試合の状況においてもその都度、変化し続けます。
そこを選手たちの個性、特性を生かしながら、どう攻略し、チームを構築して攻撃を作っていくのか。選手自身にも試合のなかで考えられるようになってほしいし、私自身も自分の哲学を押しつけるだけではなく、選手の特徴や組み合わせを柔軟に考えながら、でも戦い方の芯は決してブラさずに、チームを作っていきたいと思っています」
ガンバは、ポヤトス監督が以前から注目していたチームのひとつだったという。そのガンバからオファーを受け、最終的にはクラブから伝えられたサッカー観と自身の理想とするそれが合致したことが、監督就任の決め手になった。
「徳島ヴォルティスでの2シーズンでは、本当にすばらしい時間を過ごさせていただきました。徳島には私が日本で仕事をするチャンスを与えていただいただけではなく、クラブに関わるすべての方たちによくしていただき、多くの幸せを与えていただきました。だからこそ、ガンバからオファーをいただいた時はすごく迷いました。
ですがこの2年間、日本のサッカー界で仕事をしてきたなかで、ガンバは私が注目していたチームのひとつでした。その歴史に、9つのタイトルを刻んできたビッグクラブであることも知っていました。
そのガンバのクラブの首脳陣からオファーをいただいた際には、ガンバがその歴史において多くの勝利を挙げてきた攻撃サッカーのスタイルを取り戻したいという強い信念も伺いました。それが、私が好むサッカーと合致したことにも魅力を感じ、新たな挑戦をしたいという思いが強くなり、家族とも相談して引き受けることを決めました。
ガンバのこれまでの歴史、プロセスに寄り添いながら、我々のスタッフ、選手とともにガンバが勝者のメンタリティを取り戻し、本来いるべき場所に戻れるように仕事を進めていきたいと思っています」
チームづくりを始めるにあたり、昨年の戦いを見返したなかで必要だと感じたのは、チームスタイルの構築と徹底だ。また「それを裏づけるメンタリティも取り戻したい」と語気を強めた。
「私は常々、すべての監督に最大限のリスペクトを持っています。これまでガンバの監督をされてきた方も、その瞬間、瞬間ですばらしい仕事をされたと思います。ただ昨年は、本来ガンバが大切にしていたはずのボールやゲームを支配する意識をはじめ、仮にボールを失っても素早く奪い返す力、常に意識をゴールに向けて戦う姿は、少し薄れているように感じました。
その一番の理由は、メンタリティにあると考えています。ガンバにはすばらしいポテンシャル、技術を備えた選手が数多く在籍していますが、昨年のガンバは試合のなかで予期せぬ現象、自分たちにとって不利な状況が起きた時に、自分たちがやろうとしているサッカー、プレーができなくなってしまうまでのスピードがとても速かった。
もちろん選手も人間で、恐怖心を抱くこともあって当然です。ただ、それを振り払い、恐れずに立ち向かう姿を常に示していけるチームになるには、確固たるチームスタイルとそれを貫こうとするメンタリティが不可欠です。それを今一度取り戻せるように、ふだんの練習から勝ち負けを意識させながら、ポジションごとの競争力を促していきたいと考えています」
実際、このプレシーズンは選手と積極的にコミュニケーションを図りながら、個々の特性に目を光らせ、ポジションごとの競争を促してきた。その過程では、選手に向けて繰り返し「『うまくいかないから違うことをやろうということは絶対にない』『今やっていることをよくしていくという選択肢しかない』と伝えられてきた」(宇佐美貴史)と聞く。そのプロセスを怠らなければ、望む結果はついてくる、と。
「昨年、ガンバはすごく苦しい残留争いに巻き込まれました。もっと言えば、2015年を最後に”タイトル”からも遠ざかっています。
我々は、その立ち位置もしっかり受け止めなければいけないと思っています。もちろん、先ほどもお話ししたように、ガンバが日本を代表するクラブであることも、このクラブで監督を預かる重みもしっかりと受け止めています。
私がこれまで仕事をしてきたレアル・マドリード(スペイン)やパナシナイコス(ギリシャ)といったビッククラブでの時間を通して、ガンバが担うビッグクラブとしての責任、みなさんからの期待も理解しています。ですが、現実から目を背けていては前に進めません。
であればこそ、毎日の積み重ねによってしっかりとしたプロセスを踏み、ガンバのサッカーを作り上げることで、まずはACL(AFCチャンピオンズリーグ)圏内、上位争いをできるチームに立ち返ることを目指したいと思います。と同時に、我々にとってもっとも大切なファン・サポーターのみなさんにガンバを、このクラブとともにある自分を、誇りに感じていただけるシーズンにしたいと思っています」
そのチャレンジは、開幕が迫った今も続いている。
「選手はとてもハングリーな精神を持ち、日々成長しています。今はまだプロセスの段階ですが、チームづくりについて、私自身はすごく満足していますし、引き続き選手たちとともに歩んでいきたいと思っています」
開幕は2月18日、アウェーでの柏レイソル戦。”ポヤトス・ガンバ”がいよいよ、そのベールを脱ぐ。
ダニエル・ポヤトス1978年6月23日生まれ。スペイン出身。早くから指導者の道に進み、スペイン各クラブのアカデミーで選手育成を手掛ける。その間、アトレティコ・マドリードの分析コーチなども務め、2020年にギリシャの名門パナシナイコスの監督に就任。2021年からは徳島ヴォルディスを指揮。2023年、ガンバ大阪の監督に就任した。