J1全18クラブ「戦力格付けランキング」 横浜FM&川崎がAランク評価…“V候補”に迫る筆頭格は?
【識者コラム】18クラブの戦力をA~Eの5段階でランク付け
2023シーズンのJ1リーグ開幕を目前に控え、昨季の結果や選手の入れ替わり、監督の実績などを客観的に分析し、開幕時点での戦力をA~Eの5段階でランク付けした。ストレートな順位予想を表すものでないが、今季の勢力図を占う目安として参考いただきたい。
【一覧リスト】2023年シーズンの戦力値は?――J1全18クラブ「戦力格付けランキング」
昨季のJ1王者・横浜F・マリノスは最高値でAランク。シーズン開幕前の富士フィルムスーパー杯では苦しみながら天皇杯王者のヴァンフォーレ甲府を破り、6度目の挑戦にして初制覇を果たした。自慢の攻撃力は健在で、FW仲川輝人がFC東京、FWレオ・セアラがセレッソ大阪に移籍しても、FW植中朝日の加入(←V・ファーレン長崎)、FW宮市亮の戦線復帰、在籍2年目のFWヤン・マテウスがフィットしてくるなど、好材料が多い。
いかなる相手であろうと「自分たちのサッカー」を貫く王道スタイルだが、3年目のケヴィン・マスカット監督は守備の構築も疎かにしていない。攻守両面の強度を高めることで、試合の多くの時間帯を相手陣内でプレーするスタイルをさらに高めようとしている。
その横浜FMから王座奪還を目指す川崎フロンターレもAランク。シーズンオフにDF谷口彰悟がカタールへ移籍し、FWレアンドロ・ダミアン、FW家長昭博、FW小林悠が怪我の影響で開幕に間に合わないの懸念点で、いきなり迎える横浜FMとの神奈川ダービーをはじめ、スタートダッシュを切りにくい状況になり得るだろう。
そうは言ってもベースの戦力はやはり横浜FMと1、2を争うものがある。監督力で最高値にした鬼木達監督が戦術的なアップデートを試みるなど、就任7年目にしてフレッシュな空気を呼び込むことで、チームが活性化する期待感がある。攻撃力、守備力とも横浜FMよりやや下げたが、大卒ルーキーのFW山田新(←桐蔭横浜大)、デビュー時のMF三笘薫を彷彿とさせる高卒ルーキーのMF名願斗哉(←履正社高)、192センチのU-20日本代表候補DF高井幸大などがレギュラー争いに絡むような台頭を見せれば、十分に王座奪還は可能だ。
昨季3位の広島は、助っ人FWの出来が鍵に
“2強”に食い込むチーム力があるのはBランクに評価した3クラブ。その筆頭格は昨シーズン3位のサンフレッチェ広島だ。攻守のバランスが非常によく、ミヒャエル・スキッベ監督の手腕には十分期待ができるため鬼木監督に次ぐ高評価とした。攻撃力は80にとどめたが、外国人助っ人FWのナッシム・ベン・カリファやFWピエロス・ソティリウが真価を発揮できれば、横浜FMや川崎の対抗勢力になり得る。
浦和レッズはマチェイ・スコルジャ監督が沖縄キャンプからシンプルで明快なメッセージを選手たちに伝えており、適応はかなり早いと想定できる。ターゲットとしていた外国人FWの獲得が叶わず攻撃力は76にしたが、北海道コンサドーレ札幌から復帰したFW興梠慎三や2年目のFWブライアン・リンセンなど実力者は揃っている。4-2-3-1のトップ下起用が予想されるMF小泉佳穂に「10番」(背番号ではなく、ポジションの役割を意味する)の自覚が出てきたことも大きい。生命線となるハイプレスの機能次第でスタートダッシュも可能だ。
就任3年目の小菊昭雄監督が指揮を執るセレッソ大阪は、組織的な守備の安定をベースに、徳島ヴォルティスからレンタルバックのパリ五輪世代FW藤尾翔太、横浜FMで2年連続二桁得点のFWレオ・セアラ、アビスパ福岡から新加入の気鋭サイドアタッカーMFジョルディ・クルークス、そして欧州から復帰したMF香川真司と、オフェンス陣のパワーアップは間違いないところ。あらゆる要素がプラスに働けば、リーグ優勝の水準に届くと見るが、横浜FMや川崎、広島などが多少、前半戦に勝ち点を落として混戦模様になることが条件かもしれない。
戦力ランクCの6チームは、優勝争いを演じるにはやや厳しい状況ながらも、上位争いを演じるポテンシャルは十分。名古屋グランパスは浦和からFWキャスパー・ユンカーを獲得しており、攻撃力アップへの期待はある。リーグ最小失点だった守備力を大きく下げることなく、得点数を増やせるかがテーマになるだろう。昨季の課題として浮き彫りとなった攻守のバランスに関しては、鹿島から復帰のMF和泉竜司が“接着剤”の役割を果たしそうだ。
アルベル・プッチ・オルトネダ体制で2年目を迎えるFC東京は、間違いなく戦術的なベースが昨シーズンより上がるはず。長谷川健太前監督の“遺産”も活用した昨季は、良い意味での雑味があるチームでもあった。それがボールを動かして攻め切るスタイルを構築するプロセスにおいて、対戦相手の対策にハマりやすいリスクはある。ただ、横浜FMから加入の仲川や“兄貴”の異名をとるMF小泉慶といった勝者のメンタリティーを持つ経験豊富な選手がそこをカバーする形で、勝ちながら成長するサイクルを見出せるかもしれない。
補強で成果の鳥栖、川井体制2年目のパフォーマンスに注目
今季、面白い存在になり得るのが川井健太監督の下、2シーズン目を迎えるサガン鳥栖だ。債務超過の影響で、ここ数年は主力の大量放出を繰り返したが、そこを最小限にとどめながら、戦力の穴埋めをするだけでなく、U-20日本代表エース候補のFW横山歩夢(←松本山雅FC)やFW樺山諒乃介(←横浜FM)など、個人で打開できるタレントを加えている。若い選手が多く、U-20ワールドカップ(W杯)予選と本戦を控える代表活動に選手が取られるケースも多くなりそうだが、シーズン中の伸びしろも大いに期待できるチームだ。
OBの岩政大樹監督の下、チャレンジを続ける鹿島アントラーズ、百戦錬磨のネルシーニョ監督が率いる柏レイソル、ヴィッセル神戸からMF小林祐希が加わった札幌は上位躍進のポテンシャルを十分に備えるが、上記のチームより若干、不安要素も多い。鹿島は主導権を握りにいく戦い方のなかで、そこにクオリティーとビジョンの共有が付いてこないと、対策の罠にハマる可能性もありそうだ。
札幌は二桁得点を狙えそうなFWが不在。ただし、韓国人FWキム・ゴンヒ、パリ五輪代表候補のFW中島大嘉、大卒3年目となるFW小柏剛、来日3年目の爆発が期待されるFWミラン・トゥチッチ、大卒ルーキー屈指のストライカーであるFW大森真吾(←順天堂大)と好素材は揃う。そこから誰か1人でも、得点王争いに絡むようなブレイクを果たせば上位躍進に直結する。
Dランクで注目したいのはガンバ大阪だ。ダニエル・ポヤトス新監督の下、イスラエル代表MFネタ・ラヴィやカタールW杯に出場したチュニジア代表FWイッサム・ジェバリなど、大型補強が目を引く。指揮官がJ1初挑戦であることや、戦術をほぼゼロから構築するプロセスという事情を加味してDランクに入れたが好タレントが揃うだけに、上位に食い込んでもおかしくない。ただ、今季は降格枠が1つしかないこともあり、あくまでチーム作りのシーズンという見方も大事なポイント。早急に結果を求めすぎると、成長の袋小路にはまってしまう危険もあることは注記しておく。
[著者プロフィール]
河治良幸(かわじ・よしゆき)/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。