43歳・遠藤保仁が語った「引退」に対する考え。「近づいているという自覚はある。でも…」
愛しているJ! Jリーグ2023開幕特集ジュビロ磐田・遠藤保仁インタビュー(後編)
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個人のレベルアップを意識しながらJ1昇格を目指すべき
J2に降格した今季、ジュビロ磐田を離れることを一切考えなかったという遠藤保仁。ジュビロに加入した2020年10月から数えると、在籍4シーズン目を迎え、同じ時間を過ごし、自分のプレーを理解してくれているチームメイトが増えたことも、ジュビロでのプレーを望んだ理由のひとつだという。
「僕だけじゃなく、お互いのプレー、得手不得手を理解し合えているのは、チームを構築していくうえでアドバンテージ。特にこれまでのジュビロは、ボールを握って試合を進めることを好む監督ばかりだったし、それは今年から指揮を執る横内(昭展)監督も同じだからこそ、僕自身がどういうプレーをしたいのかをわかってくれている選手が多いのは、監督の目指すサッカーを体現していくうえでプラスに働くと思う。
特に僕の場合、試合中は、監督に言われたことをそのままやるというより、状況に応じて自ら判断を変えていくことも必要だと思ってプレーしていますから。仮に監督から縦に速い攻撃を求められたとしても、状況によってそれが効果的ではないと感じたら、無理に急がない。少なからず僕自身は、常にその意識でサッカーをしてきたからこそ、そういう自分の意図を感じ取ってくれる選手が多いのは、結果を求めるためにすごく大事なことだと思っています」
1月9日の新体制発表会見において、横内新監督は理想とするサッカーについて「攻撃も守備もポジションも関係なく、全員がボールに関わり続けてほしい。関わり続けることでクリエイティブなプレーやコンビネーションが初めて生まれる。ひとりが頑張るというより、チームとして点を取る、チームとしてゴールを奪う、ゴールを守るというサッカーをしていきたい」と明言している。
その横内監督とは、始動直後からコミュニケーションを図り、かつ戦術練習が増え始めた最近は「意見交換をすることも多い」と話す遠藤。”横内ジュビロ”における自身の役割をどう受け止めているのか。
「基本、監督のイメージするサッカーを体現していくのが選手の役割だし、最低限、チームとしての約束事、やろうとしていることは自分もやるべきだと思っています。監督が求める、奪われたら早く戻るとか、攻守の切り替えとか、球際の厳しさ、アグレッシブさみたいなところは現代サッカーでは当たり前のように求められることですしね。
横内さんは日本代表での指導経験がある分、世界基準も意識しながらいろんなことを選手に求めているし、厳しさをしっかり示してくれるのもチームにとってはすごくいいことだと思う。僕を含めて選手とのコミュニケーションを図ることも多く、いろんな意味で風通しのいい監督だと感じています。
ただ、そうした監督の描くサッカーは当然頭に入っているし、チームとして取り組んでいることは自分もやらなくちゃいけないと思っているけど、さっきも言ったように試合のなかで何が効果的か、を判断するのは選手の責任だとも思うので。自分にボールが入った時には”やり方”を大事にするというより、状況判断をしたうえで自分が一番いいと思うプレーを選択していきたい。
サッカーは結局、チャンスが作れて、得点につながればいいと考えても、そのために、自分の特徴をしっかり出すことが仕事だと思っています」
一方、チームとしてはどうなのか。昨シーズンについて振り返った言葉にもあったように、当然、彼もJ1昇格を実現するだけではなく、そこで戦えるチームになることを見据えた継続的な組織作りは不可欠だと考えている。そのうえで、「個人の質を上げること」はもっと意識すべきだと言葉を続ける。
「サッカーは、個対個のシーンが多いですから。昨年のJ1(での戦い)を振り返っても、最後のところは個人の質、能力で潰されてしまったことも多かった。でも結局、その個人で潰されてしまったら、組織も何も問えない。
それを考えても、とにかく今年1年で、それぞれが個人のレベルアップを意識しながらJ1昇格を目指すべきだと思う。それができれば、必然的にチームとしてのベースアップもできているはずだし、結果にもつながっていくんじゃないかと思う」
もっとも、自身はどの部分の質を高めたいと思っているのかと尋ねると、「僕の場合は現状維持がある意味、レベルアップ」と笑った。
「現状の自分を維持することが大変な年齢に差し掛かっていると考えても、今のまま、楽しくサッカーをやって、今の自分を保てればいいかなと。そもそも43歳の僕が、ここからめちゃめちゃサッカーが巧くなるとも思えない。なので、体をきちんと整えて、心も体も健やかに、楽しくサッカーをする。自分には多くを求めません(笑)」 メラメラしていた自分を思い出して他の選手を引きずり落としていく
そういえば、取材日の数日前に迎えた43回目の誕生日には、新たな誓いとして「平穏に生きる」と口にしていた遠藤。このオフには、長らくともに日本のサッカー界を引っ張ってきた盟友、中村俊輔や駒野友一らが現役引退を決断したが、その姿に思うことはあったのか。
はたして、彼の頭のなかにも”引退”の文字が浮かぶことはあるのか。「余裕で、あるよ」とあっさり認めたうえで、考えを聞かせてくれた。
「同世代の選手が引退していく姿を見ても、また年齢を考えても、自分もそこに近づいているという自覚はあるし、”引退”の文字も頭にはあります。でも、だからどうしようと考えることもないし、自分が引退していく姿を想像することもない。
そもそも誰かと比べて自分の人生を決断することはないし、他の選手の決断に刺激をもらうタイプでもないですしね。同世代の引退を聞いても、素直に『寂しいな』とか、『よく頑張ったよな~』って思うくらいだし。逆に、(大井)健太郎やカズさん(三浦知良)が海外にチャレンジするという話を聞いても、『いいぞ、頑張れ!』とは思っても、自分の刺激にするという感覚はないです。
それで言うと、若い選手の引退についてのほうが考えることも多いかも。自分に置き換えるということではなく、その選手の才能を思えばこそ、『もっと頑張れたんじゃないか』『違う選択をしていたら、違った結果になっていたかもしれないな』って考えさせられることはある。これは、サッカーというより、人生とか、生き方みたいなところに置き換えて考えている気もするけど。
でも、サッカーについては……自分の思うがままに、楽しくサッカーをやって、引退したいなと思った時に、自分の意思で引退する、というのが理想。どこのクラブからも求めてもらえない、プレーするチームがないからやめる、ではなく、自分の意思で引退する。決めているのはそのくらいかな」
プレーでも、思考の部分でも、ありのままの自分を受け入れ、そこに身を委ねる。抗うことも、無理をすることもない。自分に正直に、気持ちの赴くままに、ゆらゆらと、ふわふわと。
一見、緩くも見えるその姿を、ともにプレーしたことのある多くのチームメイトの多くが「ヤットさんらしさ」だと表現してきたが、実は、遠藤の”らしさ”は取材の最後に聞いた言葉に集約されている。今シーズンの自身についての”見どころ”を尋ねた時のことだ。
「見どころは……特にないな。注目してもらいたいとも正直、思わない(笑)。目標も……チームとしてはJ1昇格になるだろうけど、当たり前すぎて、掲げるほどでもない。
ただ、個人的なところで強いて挙げるなら……今年は若手に一生懸命ついていくのが目標。近年はずっと追いかけられる立場にあったけど、そろそろ、年齢的にも追いかける側に回っていいんじゃないかと(笑)。そういう意味では、プロに入りたての時のような気持ちに戻っていけたらいいなって思う。
上の選手を目指して、もっともっと、と戦っていた時のような自分というか。これまで、いろんな経験をして所属チームでも日本代表としても、獲得できるタイトルはすべて獲って、ありがたいことに個人タイトルもいろいろいただいて、いろんなことをやり尽くしたように見えるかもしれないけど、この年齢でプロに入ったばかりの頃のメラメラしていた自分を思い出して、他の選手を引きずり落としていく、みたいな気持ちでサッカーをするのもいいな、と。そして、引きずり落とす(笑)。楽しみです」
生粋の負けず嫌いは、43歳になった今も変わらない。ピッチの上ではもちろん、人知れずさまざまな戦いを続けてきたピッチ外でも、だ。そして、そのことが遠藤保仁の輝きを今も支えている。
(おわり)
遠藤保仁(えんどう・やすひと)1980年1月28日生まれ。鹿児島県出身。鹿児島実高卒業後、横浜フリューゲルス入り。同クラブが消滅後、京都パープルサンガを経てガンバ大阪へ。チームの”顔”として数々のタイトル獲得に貢献した。同時に日本代表でも主軸として活躍。2020年10月にジュビロ磐田へ移籍。J2に降格した今季、1年でのJ1復帰を目指す。



