W杯中にJリーグの“勢力図”に変化 最も戦力アップしたのは? 上位陣は差が“縮小”〈dot.〉
日本のサッカーファンがW杯カタール大会に熱視線を送っていた最中、Jリーグの各クラブは来季へ向けた補強を着々と進めた。すでに多くの移籍が発表されているが、その中で戦力アップに成功したチームはどこなのか。注目の移籍、そして現時点での勢力図の変化を見てみたい。
12月18日時点でまず目立つのが、今季4位に終わった鹿島の補強リストだ。2018年を最後に6シーズン連続で国内タイトルから遠ざかっている現状を打破するために、DF植田直通(ニーム→鹿島)、DF昌子源(G大阪→鹿島)と経験豊富な元日本代表のセンターバック2人を獲得。28歳の植田は4年半ぶり、30歳になった昌子は5年ぶりの古巣復帰となる。今季の弱点だったポジションが一気に埋まるだけでなく、「強い鹿島」を知る2人の加入がチーム全体に与える影響は非常に大きいだろう。さらに高い身体能力とシュート力で今季7得点をマークした27歳の万能FW知念慶(川崎→鹿島)、抜群のスピードで右ウイングバックとして今季27試合に出場した24歳のMF藤井智也(広島→鹿島)の獲得に成功。三竿健斗の海外移籍は痛手だが、戦力値は間違いなくアップ。今季途中からチームの指揮を執った岩政大樹監督が続投となった中で、クラブの「本気度」を大いに感じるオフとなっている。
その鹿島以上に大幅な戦力アップに成功しているのが、今季は7位に終わったものの、前半戦は優勝争いに加わった柏だ。守備陣では、J2降格となった清水からDF立田悠悟(清水→柏)、DF片山瑛一(清水→柏)の2人を獲得。特に24歳の立田は191センチの長身で日本代表も狙えるポテンシャルを持ったセンターバックで、新天地で覚醒する可能性も大いにある。そしてボランチに過去3年間でJ1リーグ戦94試合に出場して“非売品”と思われていたMF高嶺朋樹(札幌→柏)を獲得すると、アタッカーでは元U-20日本代表のテクニシャンで今季J2で5得点4アシストと活躍した23歳MF山田康太(山形→柏)、今季J1で34試合に出場して小屋松知哉との“京都橘コンビ”復活が期待されるMF仙頭啓矢(名古屋→柏)を獲得した。
さらに外国人選手として鳥栖で攻守に高い実力を披露していたDFジエゴ(鳥栖→柏)の獲得にも成功した。今季26試合に出場したDF大南拓磨(柏→川崎)は失ったが、大卒新人の2人(熊沢和希、落合陸)も楽しみで、複数ポジションをこなせる選手を多く獲得したことで長いシーズンを戦い抜け、上位争いを続けられる陣容が整った。
アルベル体制1年目を上々の6位で終えたFC東京も期待の持てる補強に成功している。目玉は、2019年に15得点13アシストで得点王&MVPに選出されたFW仲川輝人(横浜FM→FC東京)だ。ブレイク後の2年間はやや低迷したが、30歳となった今季は7得点6アシストと復活。右ウイングとしてFC東京の新たな武器になることは間違いない。さらに豊富な運動力と高いボール奪取能力が武器のMF小泉慶(鳥栖→FC東京)を獲得。今季のパフォーマンスは傑出したものがあり、現在27歳と働き盛り。移籍経験も豊富で、ユニフォームが変わっても間違いなくチームの力になれる男だ。そして、左利きのサイドバックでロングスローも武器のDF徳元悠平(岡山→FC東京)も獲得した。この3人の即戦力に加え、大学生2人(西堂久俊、寺山翼)、ユースからの昇格組4人(土肥幹太、東廉太、俵積田晃太、熊田直紀)、そして高体連から昌平高校の10番(荒井悠汰)と計7人の新人を迎え入れて若手育成にも力を入れる姿勢を継続。「進化」への意欲と期待が高まるオフとなっている。
鹿島、柏、FC東京の3クラブの戦力アップが目立つ一方で、横浜FMと川崎の“常勝”2チームの補強戦線は停滞気味だ。今季J1優勝を果たした横浜FMは、右サイドからスピードを生かした突破と精度の高いクロスを武器にJ2で活躍した24歳の井上健太(大分→横浜FM)の獲得に成功したが、その他では空中戦に強いDF上島拓巳(柏→横浜FM)とレンタル復帰のGK白坂楓馬(鹿児島→横浜FM)に、あとは大学生2人(村上悠緋、木村卓斗)という補強。FW仲川輝人(横浜FM→FC東京)が抜けたことを考えると、現時点で戦力値がプラスになったかどうかは疑問だ。
今季惜しくも2位となった川崎は、インサイドハーフでも起用可能な万能FW瀬川祐輔(湘南→川崎)に加えて、右CBと右ウイングバックをこなすDF大南拓磨(柏→川崎)、足元の技術の高い攻撃的GKの上福元直人(京都→川崎)を獲得したが、いずれもバックアッパーの域を超えず。今季7得点の知念慶(川崎→鹿島)の流出の方が気になり、日本代表DF谷口彰悟も海外移籍のためにチームを退団した。大学生1人(山田新)とユース昇格2人(大関友翔、松長根悠仁)、高体連1人(名願斗哉)のルーキー組の成長によって若返りを図りたいところだが、まだ来季へ向けたワクワク感はない。今季は2位と3位以下の間に勝点10以上の差が開いたが、鹿島、柏、FC東京の“第2集団”の積極補強で、戦力値の差は間違いなく縮まったと言える。
下位チームの中では、今季14位と辛くもJ1残留を果たした福岡が好感触だ。J2で今季13得点を挙げた地元出身の23歳FW佐藤凌我(東京V→福岡)の獲得成功が朗報で、独特のリズムを持つ左利きのドリブラーであるMF紺野和也(FC東京→福岡)も期待できる。外国人勢はデルガド(福岡→長崎)、クルークス(福岡→C大阪)がチームを離れ、ルキアンはどうなるかは気になるところだが、獲得オファー報道のあったDF松原后(磐田)を獲得できれば大きい。
今季12位で終わった湘南は抜け目がない。FW瀬川祐輔(湘南→川崎)を失ったが、右サイドを切り裂きながら攻守にハードワークできるMF小野瀬康介(G大阪→湘南)を獲得し、レンタルの立場だった阿部浩之と杉岡大暉を完全移籍への移行に成功。何より、流出の噂が絶えなかったエースFW町野修斗の残留が大きい。守護神GK谷晃生の退団が濃厚だが、韓国代表GKソン・ボムグン(全北現代→湘南)の獲得を発表。全体的にポジティブなオフを過ごしている。
今季11位の鳥栖は、ボランチの位置から今季J2リーグ最多の12アシストを記録した河原創(熊本→鳥栖)、同じくJ2から今季11得点を決めたFW富樫敬真(仙台→鳥栖)、球際に強い26歳のDF山崎浩介(山形→鳥栖)、さらに傑出したドリブル能力を持つMF樺山諒乃介(山形→鳥栖)らを獲得。レンタル中だった岩崎悠人の完全移籍移行も大きい。だが、MF小泉慶(鳥栖→FC東京)、DFジエゴ(鳥栖→柏)とチームの中心だった2人が他クラブへ移籍したことがどう響くか。獲得リストだけを見ると「楽しみ」だが、放出選手の名前を見ると「不安」もある。
その他、これまでに移籍が決定した中では、元日本代表のMF小林祐希(神戸→札幌)、今季J2で14得点を決めたFW高橋利樹(熊本→浦和)、今季J1で30試合出場の万能MF和泉竜司(鹿島→名古屋)、天皇杯制覇に貢献したMF山田陸(甲府→名古屋)、経験豊富なターゲットマンFWパトリック(G大阪→京都)、J2で今季9得点4アシストと結果を残したサイドアタッカーのFW杉山直宏(熊本→G大阪)といったところが注目の面々だ。
彼らが来季、どのような活躍をするのか。そして今オフ、さらなる大物選手の移籍成立はあるのか。すでに上位2強と第2集団の差が縮まり、勢力図に変化の兆しが見えつつある今、来季の優勝争いは果たしてどうなるのか。W杯でサッカーへの注目度が上がっている今だからこそ、Jリーグの各クラブもより魅力的でエキサイティングな試合を展開し、日本サッカーの“面白さ”をアピールしたい。その「準備」として、今後の移籍市場からも目が離せない。(文・三和直樹)



