西野朗氏「絶妙な采配」「まず長友で抑えて、勝負どころで三笘の爆発力を生かす策」

◆カタールW杯 ▽1次リーグE組 日本2―1スペイン(1日・ハリファ国際スタジアム)

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スポーツ報知にカタールW杯特別評論を寄稿する前日本代表監督の西野朗氏(67)が、好調のMF三笘薫ブライトン)を先発ではなく、勝負どころで切り札として起用するなど、采配がさえる森保一監督の手腕を「絶妙」と高く評価した。決勝トーナメント1回戦のクロアチア戦に向けては、2018年ロシアW杯での西野ジャパンも手が届かなかった史上初の8強入りを期待した。

何と表現して良いのか。ドイツに続き、スペインにまで逆転勝ちした。ただただ、素晴らしいのひと言しか出てこない。日本代表は今大会、最も世界にインパクトを与えたチームだと断言できる。試合後に偶然会った(元日本代表監督)ザッケローニさんも、とにかく「スゴイ、スゴイ」と興奮していた。日本代表の監督としてバトンをつないできた彼も、そして私も、非常に誇らしい夜だった。

3バックを敷いた前半は、主導権を握られて5バックの形を強いられた。その中でも、1トップと最後尾の間を30メートルぐらい、コンパクトに保ちながらラインを押し上げて良く守った。圧倒的にボールを保持したスペインだが、攻めあぐねていた。一方でドイツ戦の経験がある日本からは、0―1での折り返しならOKだという余裕があった。

ここから大胆に「変化」できるのが日本のストロング(強み)だ。森保監督は後半開始から攻撃的な三笘、堂安を投入した。ドイツ戦と同じく、選手たちへの「攻めろ」「ゴールを奪え」というメッセージだった。後半の立ち上がりで追加点への意識が薄いスペインは、攻勢に出た日本に面をくらった。その隙を突き、3分間で2得点。まさに電光石火だった。

三笘、堂安など「切り札」が控えていることは非常に大きい。ピッチの選手たちは劣勢にあっても、彼らが出れば何かが変わると信じて耐えられる。その中で、攻めのスイッチが入れば、日本は0から100へとギアチェンジができる。ボールはコントロールされたが、試合結果をコントロールしたのは日本で、肉を切らせて骨を断つといった内容。的確なベンチワーク、それを実行できる選手たちによる一体感が生んだミラクルだった。

三笘について、私は正確なコンディションを把握していないが、1、2戦目での突破力を見ると先発で、と期待していた。しかし、森保監督は出場時間を制限しながら起用している。左ウィングバックで先発した場合、強豪相手だと前半は守備に追われる時間が多く、体力的にかなり消耗する。それなら、まず長友で抑えて、勝負どころで三笘の爆発力を生かす策。ここまで功を奏しており、戦略的で、絶妙な采配が光っている。

森保監督は第2戦でドイツ戦から先発を5人代えて敗れ、批判を浴びた。本人は「悔いはない」と語っていたと聞くが、いかにチームを良い状態でベスト16に持って行けるかを考えれば当然だ。リスクはあったが、森保監督にはスペインに勝つという覚悟もあったのだろう。結果論だが、第2戦の先発変更がスペイン戦の勝利に生きた形だ。

クロアチアは37歳のモドリッチらベテランに加え、20歳の若手もおり、世代交代がスムーズにきた印象だ。際立ったストロングはないが技術、フィジカル、組織と全てが高いレベルにある。ただ、日本はドイツ、スペイン相手に劣勢を挽回して勝った自信が確実に生きる。今回は、これまでのように、やっとたどり着いたベスト16ではなく、余力も十分だ。私が指揮したロシア大会も含め、これまで届かなかったベスト8へ。日本代表が新しい景色を見る、そして見せてくれる瞬間は、そこまで来ている。(前日本代表監督)

◆西野 朗(にしの・あきら)1955年4月7日、浦和市(現さいたま市)生まれ。67歳。早大時代にFWで日本代表入り。卒業後は日立製作所(現柏)に加入し90年に引退。94年U―23日本代表監督に就任し、96年アトランタ五輪でブラジルを破る“マイアミの奇跡”を演出。その後は柏、G大阪などの監督を歴任してJ1最多270勝。2016年に日本協会の技術委員長となり18年4月、日本代表監督に。16強入りしたロシアW杯後の同7月末退任。19年7月、タイ代表監督に就任し、21年7月に退任した。

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