「オレが一番ヘタや!」日本代表・守田英正が明かす「4年前、“第一志望”地元のガンバ大阪ではなく、フロンターレをあえて選んだ理由」
日本サッカーが世界で戦うために最も足りないものは何か? サッカー日本代表・守田英正(27歳)は“ずる賢さ”だと即答する。全国的には無名の高校生だった守田はそのメンタルを武器に、流通経済大から川崎フロンターレ、そしてポルトガルの名門クラブへとステップアップしていく。
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そんな守田が“勝つためにやってきたこと”を明かした自著『ずる賢さ」という技術 日本人に足りないメンタリティ』(幻冬舎)。そのなかから、第一志望だったガンバ大阪ではなく、川崎フロンターレをあえて選ぶ場面を紹介する。(全3回の2回目/#1、#3へ)
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練習参加で受けた衝撃「俺が一番ヘタや」
大学4年のとき、僕のもとにはいくつかのJリーグのクラブからオファーが届きました。
当初、僕が行きたいと考えていたのはガンバ大阪です。
JリーグだけでなくAFCチャンピオンズリーグで優勝した実績もある名門で、何と言っても大阪は僕の出身地。自分の力とチームの戦力を照らし合わせて、先発できる可能性も高いと予想していました。
流通経済大学の中野雄二監督にも「ガンバにしようと思います」と伝えていました。家族にもそう言いました。僕はすでに地元での華やかな生活を想像し始めていました。
しかし、ふとした瞬間に浮かれている自分に気がつき、漠然とした危機感が湧き上がってきたのです。
そんな中、熱心にスカウトの人に誘ってもらっていたので、一応、フロンターレの練習にも参加してみることにしました。
初日の衝撃は、今でも生々しく覚えています。
「俺が一番ヘタや!」
フロンターレの選手たちは狭い中でもボールをピタリと止め、その瞬間にフリーになった仲間にパスを出し、経験したことがないスピードでプレーしていました。 「ここにいたら間違いなくうまくなる」
「試合に出られないかもしれないぞ」
その日のうちに中野監督に「フロンターレに決めました」と連絡しました。 「フロンターレには、Jリーグを代表するボランチの大島僚太とエドゥアルド・ネットいる。試合に出られないかもしれないぞ」
中野監督はプロになっても試合に出られず、2、3年で契約満了になってしまった卒業生をたくさん見てきたのでしょう。試合に出られる可能性が高い方を選ぶべきという意見でした。
僕の決心は揺るぎませんでした。
「日本一のチームで日本一のボランチからポジションを奪ったら、すぐに日本代表も見えてくる。一番強いチームだからこそ川崎へ行きたいんです」
直感は間違っていませんでした。
フロンターレで競争にさらされ、新たなサッカーの概念を授かり、何より普遍的な技術を習得できたことで、僕がもともと持っていた「ずる賢さ」が飛躍的に進化したんです。
ここでは僕がフロンターレで何を得たかを書きたいと思います。
「止める・蹴る」基本の習得に2年かかった
フロンターレでは全体練習後、自主練をするのが恒例になっていました。今も変わらずやっていると思います。疲労や必要度に応じてやらない選手もいますが、若手はほぼ全員参加します。
強制的な感じは一切なく、技術の習得がめちゃくちゃおもしろいし、うまくなっていくのが自分でもわかるので、鬼木達(とおる)監督が止めないといつまでも続くような感じです。絶妙にプライドをくすぐられるメニューなので、子供のようにのめり込んでしまいます。
僕が入団したとき、まず取り組んだのがL字形に並んでパスをする「止める・蹴る」の練習でした。
パスの出し手2人がL字の上端と右端に立ち、角に受け手が立ちます。
受け手の足元にはマーカーで小さな正方形の枠がつくられ、トラップしたボールが枠から出たり、マーカーに当たったりしたらアウトです。
また2人が対面で並んでパス交換する「止める・蹴る」も、毎日のようにやりました。うまくなればなるほど足元の正方形を小さくし、難易度を上げていきます。
YouTube で「止める・蹴る」と検索するとこのメニューをやっている様子がたくさん出てくるので、興味がある人は調べてみてください。
なぜこんな基本的なメニューが難しいかと言うと、フロンターレには「トラップはボールを完全静止させなければいけない」というルールがあるからです。
トラップ後にボールが少しでも跳ねたり、わずかに横へコロッと動いたりしてもダメ。
ホントの完全静止を求められます。
「それは止まっているとは言えないよ」
よく選手の間で話題になるんですが、YouTuber がトライしている「ビタ止め」動画は、フロンターレの基準で見るとほぼ誰も止まっていません。
「それは止まっているとは言えないよ」
そうツッコミたくなります。
僕が在籍していたときは、久野智昭コーチと吉田勇樹コーチが付き添って教えてくれたんですが、2人は選手よりもうまかったくらいです。「止める」の基準がすごく厳しく、おかげで僕も厳しい「目」を持つことができました。 (中村)憲剛さんは「守田は割と最初からできていたよ」と言ってくれたんですが、フロンターレU-18出身の脇坂泰斗や(田中)碧を見たら、とても自分ができているとは言えませんでした。
もちろんできるときもあって10回中5回は完全静止させられるのですが、なかなか10回全部の域には到達できない。パスの軌道、スピード、バウンドが毎回異なり、完璧に実行するにはすべてを一瞬で読み取る必要があります。
ちなみに「完全静止」が極めて厳しく定義されている一方で、トラップのやり方は自由です。骨格や関節の柔らかさによって、体の使い方や軸足を置く位置が変わってくるからです。僕はノボリくん(登里享平)と同じで、トラップする瞬間、少しだけフワッと体を浮かすやり方に行き着きました。
L字形がある程度できるようになると、ワンタッチでパスをはたいて正方形の外に出てから、バックステップで正方形内に戻ってトラップするといった「動き有り」のバージョンをやります。
T字形に立って、ターンの動きが入るものもあります。最も難しいのは270度の角度をつけ、前から来たボールを左回りで右にパスする(もしくは右回りで左にパスする)というメニューです。
10回中10回止めるレベルの「止める・蹴る」を習得するまで、僕は2年かかりました。
<続く>
守田英正(もりた・ひでまさ)
1995年5月10日、大阪府生まれ。金光大阪高から流通経済大に進み、2018年に川崎フロンターレ加入。1年目から定位置を確保し、2度のリーグ優勝に貢献。2021年にポルトガルリーグのサンタ・クララに移籍。2022年に同国の名門クラブ・スポルティングへ。2018年9月に代表初招集され、2021年に定着。日本代表17試合出場、2得点。177cm、74kg



