W杯ドイツ戦で同点弾 堂安律が本誌に明かしていた本音

7大会連続出場のサッカーワールドカップで日本代表は過去4度の優勝経験があるドイツ代表に2-1と歴史的な逆転勝利をおさめた。後半途中出場で同点弾を決めた堂安律は過去に本誌が行ったインタビューで普段の強気な発言からは想像できない、意外すぎる繊細な一面を明かしていた。

「お前は何になりたいの?」堂安律を改心させたオリンピアンの一喝

ベンチにいる時から信じていた。1点を追う後半20分、堂安は自分の足元に転がり込んできたこぼれ球を素早く振りぬくと、世界最高峰と評されるドイツ代表GKノイアーの厚い壁をぶち抜いた。自分の足でネットを揺らすことを信じて疑わなかった男にとって、ピッチに出てから得点するまでわずか4分という時間は関係なかった。

「もう俺が決めるという気持ちで入りましたし、俺しかいないと思っていたんで……強い気持ちでピッチに入りました。(この勝利に)一喜一憂せず、チーム一丸となって戦いたい。日本サッカーを盛り上げる、という気持ちでピッチに立っている。皆さん、ぜひ期待してほしいです」

堂安は、日本の未来を担うアタッカーとして昨年夏の東京五輪でエースナンバー10を背負い、特にサッカーに関しては貪欲でハングリー、発言は大胆でストレートだ。多くの人が「怖いもの知らず」という印象を堂安に受けるだろうが、以前、本誌のインタビューで意外といえるほど繊細な一面を明かしていた。

「人よりも考える性格で、小さいことが気になりますね。繊細……って言ったら誰も信じてくれないんですけど最近(笑)。寝る時なんてテレビの主電源の赤いランプがついてたら眠れないです。ホテルだとそこもちゃんと隠していないと寝られない。そんなのも気になります」

主電源のランプが気になって眠れないとは、かなりの繊細さだ。大胆さと繊細さ、極端にその両方を持ち合わせているようだ。

「何も考えず行っちゃえって、飛び込んでみたらなんとかなるわって思うこともあるし、考えすぎることもあるし。極端ですね、確かに。ただ、いろいろ考えてしまうのはサッカーのことだけです。昨日調子悪かったなーと思ったらその試合の映像が頭の中で出てきたりもするし、考えちゃうと興奮してくることもあるし、もちろん調子が悪くて眠れないこともある。でも、多分僕だけじゃないと思います。発言するかしないかの違いだけで、アスリートって人一倍繊細じゃないんですかね」

2015年にG大阪でプロのキャリアをはじめた堂安は、2017年にオランダ1部のフローニンゲンに移籍。今年で欧州での生活は5年が経過した。日本にいれば家族や友人と会って話をし、もやもやをごまかすことができるかもしれないが、海外ではそうはいかない。サッカーに集中できる環境に身を置いている分、あれこれ考える時間が増えた。だが同時に、その対処法も身につけた。

「考えすぎないほうがいいと思うんですよ、ストレスはかかりますし。ただもうこれが俺の性格や、って受け入れるしかない。この性格をもう消すことはできないので、考えすぎちゃう性格を理解して、考えすぎちゃってるなーっていう時はちゃんと考えてその時に対応して、次に進むようにしています」

コロナ禍での一人暮らし、困ったのは食事面だろう。ドイツでは2020年11月から2021年5月までロックダウンし、飲食店はデリバリーか持ち帰り以外の営業が禁じられた。アスリートにとっての食事は我々一般人のそれとは違う。マクドナルドで一食済ますというわけにはいかないのだ。しかもコロナ禍のど真ん中にあたった、20年秋~21年春まで在籍したドイツのビーレフェルトは田舎町で気の利いた店も少ない。

「大概はチームメイトの家に行って、デリバリーでメシ頼んでもらってふたりで食べて、ありがとうごちそうさまーって言って、家に帰ってという感じですよ」と極端に神経質になっていたわけではなかったようだが、日本代表・森保一日本代表監督が「律が食事で困っていると聞いている」と気にかけていることを明かしたこともあり、実際に日本サッカー協会がサポートの手を差し伸べてもいる。

「そのサポートにはすごい感謝してますね。特にコロナ禍で外食などできない中で、本当にありがたかったです」

海外組の中では、個人的に家事スタッフを雇い鍵を渡しておき、遠征などで不在のあいだに掃除や洗濯、食事の作り置きを頼むというケースもあるが、これに関しては堂安の繊細さが顔を出した。

「そういうのイヤです、『勝手に俺のうち入るな』って思います。いやじゃないですか?だって俺の家ですよ」

ただ、そんな繊細さはチームメートとして一緒に戦ってきた仲間に向けられるまなざしに表れていた。堂安は自分のチームで好調を維持していても、日本代表では気負いで空回りして、今年3月、アジア最終予選でW杯切符を得た豪州代表戦の時、堂安は日本代表から外れていた。ドイツ戦後、堂安はこんなコメントを残した。

「3月に落選したときに、仲間がW杯出場を決めてくれたという感謝の気持ちもありますし、それでも今回選ばれなかった人もいる。個人的なことがうれしいという感情は、ピッチに立つとなかった」(「ゲキサカ」)

堂安の脳裏には、3月の豪州代表戦に出場しながらW杯の代表からは外れたMF原口元気や、W杯メンバーに選出されながらも負傷で涙をのんだDF中山雄太らの姿があるのだろうか。仲間を思いやりながら、土壇場で「俺が決める」と強気になれる背番号8がこのW杯期間中、ピッチで躍動し続けるかもしれない。

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