G大阪が見せたACLへの本気度 痛感したアジア勢力図の激変と対応策 下薗昌記 2015年10月27日(火)

2008年に一度だけその頂に上り詰めたことがある、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)という「山」に今季再び挑戦したガンバ大阪。準決勝で広 州恒大に2戦合計1−2で敗れ、「今年、1番取りたかったタイトルというか、一番大事にしていたタイトルが終わってしまった」と宇佐美貴史が呟いた言葉は チームの総意でもあった。

昨年、クラブ史上初の3冠を勝ち取った大阪の雄は、国内外合わせると計6つの大会でタイトルの可能性が あっただけに、一部のメディアは「6冠制覇」がチームの目標であるかのように書き立てた。しかし、「出るからにはどの大会も優勝を目指す」という長谷川健 太監督らの言葉を曲解しただけにすぎない。

昨年、3冠を獲得した直後「ACLは本当に楽しみ」と早くも長谷川監督が言えば、始動 直後の1月にはエースの宇佐美が「アジアで一番強いチームだと証明することが、今のガンバにとって必要なこと。どのタイトルも大事だけれど、やはりACL を取りたい」と語っていた。Jリーグでも最も過密日程を強いられたG大阪が、今季最優先してきた大会がACLだった。

アジアの勢力図の変化を目の当たりに

しかし、チームは3年ぶりのACLで序盤から思わぬ苦戦を強いられた。ホームで広州富力にまさかの黒星(0−2)を喫し、グループステージの序盤3 試合で得た勝ち点はホームのブリーラム・ユナイテッド戦の引き分け(1−1)による1のみ。守備の要である今野泰幸を負傷で欠いていたことや、新戦力とし て期待された小椋祥平らのフィット感のなさも災いしたが、ACLという「山」の形も7年前とは異なり、より険しさを増していたのもまた事実だった。遠藤保 仁も言う。

「昔はグループステージでタイのチームに苦戦するなんてことはなかったけれど、相対的にアジアのレベルは上がっているなと感じた」

遠藤の言葉を補足すると、アジアのレベルが上がったと言うよりは資金力を持つクラブに苦戦を強いられたのがグループステージの実情だ。広州富力のモロッコ 代表FWアブデルラザク・ハムダラーやブリーラムの元ブラジルU−23代表のジオゴ・ルイス・サントらは近年のJリーグには見当たらない個の強さを持つア タッカー。3試合を終えて、グループステージ敗退の危機に立たされていた当時、強化本部長の梶居勝志も「3試合が終わって感じるのは強烈な個を持つFWさ え前にいれば、という戦い方をするチームが増えているということ。中国勢もそうだし、タイもどんどんレベルが上がっている。そういう意味でも高みを目指す 上では外国人枠の充実は最低限だと思った」とアジアの勢力図の変化を感じ取っていた。

ユースからの昇格組4人とベガルタ仙台から 赤嶺真吾、横浜F・マリノスから小椋を加えたにすぎない開幕当初の新戦力は、7年ぶりの頂を目指すには心もとない“軽装備”だった。だが、新スタジアムの 稼働に向けたクラブハウスの移転など、必要不可欠な出費を抱えているクラブにとって大型補強ができなかったのもまた事実。「当然、久々に出て優勝するのは 簡単じゃない。移動もある中で、選手のレベルと選手層の厚みを考えたら疑問符もあったけれど、国内で結果を残したメンバーでアジアでの立ち位置を確認する のが一番の狙いだった」と梶居は今大会の狙いをこう振り返る。

クラブが講じたACL対策

戦力補強には決して楽ではない財政事情が反映する格好となったが、クラブもバックアップを怠ったわけではない。今季、チームに加わった和田一郎 コーチはクラブの「ACLシフト」の一環だ。「ACLを戦う上で数多くのアジアの情報を持っている和田をリクエストした。ACLに出ていなければ、和田の 獲得はなかった」(長谷川監督)。日本代表でテクニカルスタッフやアシスタントコーチとして4度のワールドカップを経験した分析の第一人者は、長谷川監督 のたっての願いでチームに加入。クラブ側もバックアップした格好だ。

さらに、1月の始動直後にはアジアでの知名度を高めるべく、 クラブが力を入れるアジア戦略の一環として、インドネシア遠征を実施。現地のペルシジア・ジャカルタとの親善試合を行ったが、この遠征も3年ぶりにACL を戦うチームに東南アジアのアウェーを体感させる狙いも込められていた。クラブでアジア戦略を担当する河合直輝氏は「実際にACLでアウェーに遠征する際 と同じ日程で、2日前に現地に入り、前日にはスタジアム練習と公式会見という設定で試合に挑んでもらった」と水面下での努力をこう説明する。

今野が感じた「本当のビッグクラブ」

現有戦力をベースに、クラブが取りうる最善の策を講じてACLを戦い抜いて来たG大阪。そんなクラブの立ち位置が鮮明に現れたのが「間違いなく優勝候補の筆頭」と百戦錬磨の遠藤でさえその力を認めざるを得なかった広州恒大との準決勝だ。

グループステージの序盤で思わぬ苦戦を強いられたものの、絶体絶命だったブリーラムとのアウェー戦(2−1)ではJリーグ勢で初めてとなる勝利を勝ち取 り、準々決勝の全北現代モータース戦ではKリーグ王者に対して、フィジカルコンタクトでもまったく引けを取らない球際の強さも発揮。近年のJリーグ勢がし ばしば指摘されがちな課題に関しても、力を見せてきたのが「攻守の切り替え」「球際で負けないこと」を全面に押し出してきた長谷川ガンバだった。準々決勝 のセカンドレグ(3−2)ではアディショナルタイムの劇的な決勝点で準決勝に勝ち上がり、7年ぶりの頂はうっすらと視界に入ったかに見えた。しかし、やは りアジアの頂点は“軽装備”のチームに安易な登頂を許さなかった。

13年にACL初優勝を達成した広州恒大は年間予算100億円 規模を誇り、今大会途中にもルイス・フェリペ・スコラーリ監督を新たに招聘(しょうへい)し、元ブラジル代表のパウリーニョらセレソン経験者をズラリと並 べる超アジアレベルの外国人枠をフル活用。その金満ぶりに対しては今野も素直にシャッポを脱いだ。

「完全にアジアのビッグクラブ。日本ではタイトルを取った数とか、まずまずお金をかけているのがビッグクラブの定義なんだろうけれど、ブラジル代表なんかもいる広州恒大みたいなのが本当のビッグクラブなんだろうなと思う」

個対組織――。アウェーでの準決勝第1戦を1−2で落としたG大阪は第2戦、夏場以降調子を落としている宇佐美をベンチに温存し、パスサッカーの申し子、二川孝広を先発起用し、パスサッカーで敢然とアジアの巨人に立ち向かった。

「広州恒大は強力な外国人選手と中国代表に金も使っているだろうけれど、僕らにはお金で買えない戦術的な武器がある。健太さんが監督になって3年間積み上げてきた組織としてのサッカーはこちらの完成度が高い」(丹羽大輝)

前半早々にカウンター狙いの戦いに切り替えてきた広州恒大に対して、押し込む場面は作るものの決定機らしいチャンスは90分作り切れず、スコアレスのまま 無情のタイムアップ。エウケソンとリカルド・グラル、そしてパウリーニョが攻めを担い、中国代表と韓国代表でゴール前にかんぬきをかける赤い巨人は、攻守 両面でG大阪を確かに上回っていた。

必要不可欠な外国人枠の充実

準々決勝で対戦したKリーグ王者・全北現代にはアウェーで劣勢を耐え切り、ホームでは土壇場で突き放しきる戦いを見せたG大阪だが、準決勝では攻守両面で甘さを見せた。ピッチ内で常に冷静な判断を見せる背番号7の総括は、やはり的確だ。

「残 念な結果だけれど、トータルスコアで負けてしまった事実があるのでもう少し力をつけてやっていきたい。アウェーでも先制しながら逆転されているので、守り 切る力もちょっと足りなかったし、今日のような試合でも得点を奪って勝ちきれなかった。攻守ともにもう一つ上のレベルにしたい」(遠藤)

2ステージ制への移行もあって、「勝てば勝つほど日程が厳しくなる」(遠藤)ACLをタフに戦い抜いてきたG大阪は、限られた選手層で準決勝まではたどり 着いた。「前回、ACLで優勝したメンバーが数人しか残ってない状況の中で、新しいガンバのプレーヤーたちがこういう素晴らしい大会を経験できたのは大き な財産になるんじゃないかと思う」(長谷川監督)。自身にとって初となるACLの挑戦を終えた指揮官が口にした“財産”を無駄にしないためにも必要になる のが、まず来季のACL出場権を得ることだ。

そして、次回大会では質量ともに外国人枠を充実させることも不可欠だ。開幕当初、梶居強化本部長は「久々に出るACLでどういう内容になるのか。それを見て、16年の新スタジアム元年にどういうチーム作りをするか見極めるのが狙いだった」と話していた。

今大会のACL決勝に進出した広州恒大にはパウリーニョらセレソン経験者4人が、アル・アハリにはブラジル代表のエヴェルトン・リベイロやベンフィカの エースだったリマらが、大一番でモノを言う“重装備”として備わっていた。もはや、ACLが単なる組織力や精神論だけでは頂点に立てない遥かなる高みであ ることを3冠王者は肌で感じたはずだ。

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