原口元気の父・一さんがエール「もっと強気な自分を出してやんちゃなプレーでゴールを」【W杯まで1カ月 日本代表欧州組を直撃】
【W杯まで1カ月 日本代表欧州組を直撃】#11(番外編)
(31歳・ドイツ1部/ウニオン・ベルリン)
【写真】日本代表ドイツ遠征“W杯メンバー最終選考テスト”で見えた3つの課題と解決策
11月1日に2022年カタールW杯の日本代表メンバー26人が発表される。そこに滑り込み、本番の舞台に立てるか否か──。ハラハラしているのは選手本人だけではない。家族も落ち着かない日々を過ごしている。18年ロシアW杯の決勝トーナメント1回戦・ベルギー戦(ロストフ)で先制点を挙げた原口の父、動物病院経営者で大学までサッカー経験のある一さんもそのひとり。「4年前に『ロストフの悲劇』を現地で見た時は脱力感でいっぱいでした。カタールでは、息子に完全燃焼してほしいと思います」と熱いエールを送る一さんに聞いた。
◇ ◇ ◇
──ロシアW杯から4年以上が経過した。
「ロシアには妻(玲子さん)、娘(野恵瑠さん)と家族ツアーで観戦に行きました。初戦のコロンビア戦の前にモスクワに入り、(試合会場の)サランスクに行く前に湖のあるリゾートに宿泊。岡崎慎司選手(シントトロイデン)の兄・嵩弘さんたちとロシア人のチームとサッカーの試合をしたことがいい思い出です。お兄さんが、弟さながらのオーバーヘッドのジャンピングボレーを決めたんですが、アシストは私でした(笑)。試合にも勝ったし、いい前哨戦になりました」
──コロンビア戦は?
「昌子源選手(ガンバ大阪)のご家族と(スタンドの席が)隣になり、サッカー経験者のお母さん(直美さん)が『ラインを上げろ!』と熱くなっている様子が印象的でしたね。お父さん(力さん=元姫路独協大サッカー部監督。チェント・クオーレ・ハリマ取締役兼COD)は恐縮されていました。2-1で勝利して安堵した後、代表キャンプ地のカザンへ行って元気と会いましたが、心からホッとした顔をしていた。嫁(るりこさん)と2人にしてあげたいと思い、我々はカザン・クレムリンへ観光へ行きました」
──セネガル戦とポーランド戦は?
「エカテリンブルクはいい街でしたね。山口蛍選手(神戸)、香川真司選手(シントトロイデン)のご家族と食事をする機会にも恵まれました。ボルゴグラードは、ホテルにドライヤーが1台しかないような酷いホテルでしたね。蚊も凄かった(苦笑)。それでも日本のベスト16進出が決まったのは良かったです」
──ベルギー戦はロシア西部のロストフだった。
「娘は帰国して妻と2人で残りました。大半の(代表選手の)家族も帰りましたが、蛍君のお父さんやオカちゃんの兄さんも残っていましたね。バス移動が本当に大変でした。ボルゴグラードからロストフまで約10時間もかかって心底、疲れましたね(苦笑)」
──試合は?
「もちろんスタジアムで見ました。前半の0-0はプラン通りで『後半勝負だ』と思ったら、開始早々の3分に元気の先制点が生まれた。実は私の好きなゴールじゃなかったんです(苦笑)。柴崎岳選手(レガネス)のタテパスを受けた瞬間、CBの前に体を入れて(相手GKと)1対1になって流し込む形が頭に浮かびましたからね。それなのに本人は止まってフェイクを入れたじゃないですか。『バカやろう、おまえ』と思ったら『あれ、入った』という感じでした(笑)」
4年前に味わったロストフの悲劇
──その狙いを本人に聞いたことは?
「だいぶ後になって『何やってたんだよ』と言ったら『俺だってびっくりしたよ』と返してきた。2メートルの長身GKクルトワ(レアル・マドリード)を前にして『彼が出てこなかったんで一瞬、間合いを外して決めた』と言っていました。『CBの動きが遅くて余裕があった』とも話していた。納得した覚えがあります」
──後半52分に乾貴士(清水)の追加点も生まれ、一時は2-0でリードした。
「『こんなこと自分が生きてるうちに起きるんだ。勝てる』と思いました。でも1失点目のフェルトンゲン(アンデルレヒト)のゴールが全てだった。2失点目のフェライニ(山東泰山)も、あの場面しか彼は仕事をしていなかったのに……やられてしまった。そして元気は後半81分に本田圭佑選手と交代しました。経験値を考えると仕方ないな、という感じでした」
──そして後半ロスタイムに悲劇が起きた。
「呆然としました。妻とホテルに戻ったけど、脱力感で着替えもできない状態でした。テレビ局の取材が入っていたので行きましたが、彼らも慌てていたのか、(収録した)データが飛んでしまい、やり直しになりましたね。その時、ロシアの軍人が通りかかって『今日の試合で日本の魂を見た』と声をかけられ、私に帽子をかぶせてきた。帰国後に海上自衛隊勤務の長男(嵩玄さん)に見せたら『本物だよ』と言われて驚きました」
■親の目から見ても凄まじい向上心
──その後の4年間、原口は代表の常連でありながら苦しい立場にいる。
「元気は実家に戻ってきても多くを語らないのですが、『俺は大丈夫』『何としても這い上がる』と言い続けています。ドイツではハノーファーで2年間2部で戦うことになり、21年夏からウニオン・ベルリンでプレーしてますが、ドイツでタフな経験を積み重ね、何事にも動じない強さを身に付けたのかな。ドイツ語も『生き抜くために必要な手段』と割り切って努力して学んでいる。向上心は、親の目から見ても凄まじいですね」
──カタールW杯で期待することは?
「息子が出る試合というのは、全てにおいてワクワクします。ベルギー戦のゴールも後々になって『凄かった』と実感することになるでしょう。今は目の前にカタールが迫っているし、今度は<ヤンチャなプレー>をしてほしいかな。浦和レッズ時代によくやっていたカットインからのシュートを大舞台で見たいというのが私の願いです。最近は、そういう大胆さが少し物足りない。人間的には大人になりましたけど、選手としてはもっと強気な自分を出していい。インサイドハーフでも他の中盤のポジションでも、そういう仕事はできると思うので、ガンガンやってもらいたいです」
──本人は今、どんなことにトライしているのか?
「ヘルタ・ベルリンの頃から師事している筑波大の谷川聡准教授の指導の下、スプリント力を高める練習に取り組んでいるようです。これまで<止まる練習>から<効率的な走り>とメニューを消化し、最終段階の今はスタートダッシュ、トップスピードで<走る力>に磨きをかけている。ウニオンの試合を見ていると『成果が出ているのかな』と感じます。スペイン人の分析官と個人契約を結んでいるので課題を抽出し、反復練習もやっています。彼との関係はハノーファー時代からで試合後、映像分析をやってオンラインでディスカッションを重ねていると聞いています。守備の行き方、スペースの埋め方、出ていくタイミングなど細かい部分に目を向けるのは、現代サッカーでは重要。元気はどこまでも貪欲なんですよ」
──カタールW杯の現地観戦予定は?
「もちろん今回も妻と一緒に行きます。元気の立ち位置はロシアとは全く違いますし、今回はどこまで試合に出られるか分かりませんけど、ロストフの悲劇を実際に味わった分、完全燃焼してほしい。日本代表も『やり切った』と思えるような内容と結果を見せてほしいと願っています」