かつての“名門”も抜け出せず 想像以上に深い「J2の沼」にハマったチームの現状〈dot.〉

 今季は、開幕から8戦負けなし(5勝3分)という絶好のスタートを切ったが、第9節からシーズン折り返しとなる21節までの13試合で1勝5分7敗と急降下し、第38節終了時点で勝点49(12勝13分13敗)の12位。大卒2年目のFW佐藤凌我が2年連続2ケタ得点を記録するなど攻撃力は高いが、38試合で55失点と守備組織が整わなかった。すでに在籍期間はJ1時代よりもJ2時代の方が長くなっており、伝統の緑のユニフォームに対するイメージは変貌した。

今後、「東京のクラブ」として“どこ”を目指すのか。下部組織のブランド力と育成力は維持しており、「育成型クラブ」としての存在価値はある。中島翔哉、小林祐希、安西幸輝、畠中槙之輔、三竿健斗、井上潮音、渡辺皓太、藤田譲瑠チマ、山本理仁……。時計の針を戻し、アカデミー出身者たちの流出を阻止すれば確実に「強い」はずだが、そのチームを維持のためにも資金力がどうしても必要になる。

延べ8シーズンのJ1経験がある甲府も、苦しい戦いを強いられている。6年ぶりのJ2となった2018年に9位となった後、2019年から5位、4位、5位とJ1昇格へ“あと一歩”の戦いを続けて来たが、そのチームを作り上げた伊藤彰監督が退任(J1磐田の監督に就任後、現在はJ2仙台の監督)した今季は、開幕8試合を1勝3分4敗と出遅れた後に4連勝を飾ったが、5月以降は勝ち切れない試合が続き、第38節終了時点で勝点42(9勝15分14敗)の17位と低迷。

クラブは「J1復帰」を目標として明言したはずだったが、吉田達磨監督体制1年目はクラブのJ2過去最低順位(2001年の12位)を下回ることになりそうだ。選手個々では、守備で須貝英大、攻撃では長谷川元希の大卒の若手2人が印象的なプレーを見せているが、チームとしては一体感を欠いて試行錯誤の日々。2006年から持ち上がっていたサッカー専用スタジアムの建設構想も、2019年の最終判断で財政面を理由にストップがかかって計画見直し。現時点でポジティブな要素は少なく、このまま「J2沼」から抜け出せなくなってしまう危険性が高まっている。

さらに低い順位にいるのが、2005年からJ1舞台で10年間戦った実績を持つ大宮だ。J2降格1度目は1年の即J1復帰を果たしたが、2度目に降格した2018年以降は2年連続でのプレーオフ敗退の後に15位、16位と低迷。迎えた今季は、「変革のシーズン」と謳いながらも、開幕9戦未勝利(3分6敗)と躓いてJ3降格争いに巻き込まれる緊急事態となり、第18節終了時点(4勝5分9敗)で霜田正浩監督を解任して相馬直樹監督体制へ移行となった。

それでもなかなか結果が出ず、第38節終了時点で消化試合が1試合少ないとはいえ、勝点38(9勝11分17敗)の19位と後ろに3チームしかいない順位に甘んじている。ただ、攻守両面で高いインテンシティを求める新指揮官の戦術が徐々にではあるが確実に浸透し、8月に入った第30節以降の8試合は4勝1分3敗と成績は上向いた。まずはJ2残留を決め、今年4月にフットボール本部長に就任した原博実氏の人脈にも期待しながら、来季は精度を高めた「相馬スタイル」で勝負することになる。ここでチームが変わらなければ、当分は「J2沼」にハマったままになってしまうだろう。

前例を振り返ると、浦和、G大阪、広島、神戸、名古屋、柏のように降格初年度に“即昇格”を果たし、J1仕様の戦力を保持したまま危機を乗り切ることが「J2沼」にハマらない“コツ”だろう。あるいはC大阪のように2、3年かけて若手主体のチームに作り直すという方法もある。だが、J2暮らしがと長引くと、人件費や選手自身のキャリア選択の問題で戦力低下は避けられなくなり、「J2沼」に片足から両足、さらに胴体までも沈んでしまう。

もちろん「沼」の戦いも熱く激しく、魅力的なものではあるが、プロのクラブであるならば「上」を目指すべき。J1舞台で戦った記憶がまだ僅かでも残っている間に、勝者のメンタリティー、J1クラブのプライドを取り戻してもらいたい。Jリーグ発足30年が経った今、そろそろ「伝統復活」、「栄光再び」と言えるクラブの出現を期待したい。

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