鎌田大地は「ビッグクラブの中心選手を目指してほしい」。風間八宏がその技術の高さとここまでの成長を評価
風間八宏のサッカー深堀りSTYLE
独自の技術論で、サッカー界に大きな影響を与えている風間八宏氏が、国内外のトップクラスの選手のテクニック、戦術を深く解説。今回は、ドイツのフランクフルトで活躍する鎌田大地をピックアップ。現在の充実したプレーぶりには、どんな技術的な背景があるのか。深掘りしてもらった。
◆【画像】フランクフルトほか、2022-23 欧州サッカー注目チーム フォーメーション
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無駄なボールタッチが減っている
2017年6月にサガン鳥栖からフランクフルト(ドイツ)に移籍した日本代表の鎌田大地は、これまでの5年間で着々とレベルアップを果たしてきた。
加入初年度こそ出場機会は少なかったが、2年目にシント=トロイデン(ベルギー)にレンタル移籍したことをきっかけに、そのポテンシャルが開花。すると、武者修行を終えてフランクフルトに戻ってからは、主力として活躍するまで成長を遂げた。
とりわけヨーロッパリーグ(EL)優勝に貢献した昨シーズンの活躍ぶりは目を見張るものがあり、20代半ばにして急激な成長を遂げている印象さえ受ける。
そんな鎌田の成長ぶりを、風間八宏氏はどのように見ているのか。
「一番の変化は、無駄なボールタッチが減ったことですね。以前と比べると、ボールを正確に扱えるようになっていて、それがプレー全体の落ち着きを与えている。
彼のプレーぶりはふてぶてしく見えるかもしれませんが、実はそれこそが自分の技術に自信のある証拠だと思います。技術さえしっかりしていれば慌てることはないし、相手も関係ない。もちろん相手を感じてはいるはずですが、相手のプレッシャーによって自分のプレーができなくなるようなことはありません。
ボールが自分の体から離れることがほとんどなくなっていて、ボールと自分と相手の関係がしっかり整理されている。すごくシンプルにプレーしているように見えると思いますが、あの間合いを維持し続けるのはすごく難易度が高い。ある意味で以前紹介したルカ・モドリッチに通じるものがある。そこが、最も成長したところですね」
確かに、最近の鎌田のプレーには余裕が感じられ、ボールロストやパスミスも減った印象だ。だから、狭いスペースでも平気でボールを受けられて、無駄な時間をかけずにテンポよく次のプレーに移行できる。逆に、そうでなければ、ELの舞台であれだけのパフォーマンスを発揮することはできなかっただろう。
日本代表でチャンスを作れる数少ない選手
もともと鳥栖時代からテクニックに秀でた選手だった鎌田だが、改めてその特長はどこにあるのか。風間氏が、鎌田ならではの武器を説明してくれた。
「一番は、ボールを受けるのがうまいということ。動きながらでも正確にボールを扱える。そのボールコントロールの技術が高いうえに、周りもよく見えているのが、彼の強みになっていると思います。
逆に言えば、正確な技術があるからこそ、周りを見る余裕が生まれ、プレー自体にスピードも生まれる。最近の彼のプレーを見ていると、相手に捕まえられることがほとんどありません。それは、正確性が速さを生み、視野も広がっている証だと思います。
もちろん、サッカーはチームスポーツなので、フランクフルトがダメな時は鎌田も消えてしまう場合がありますが、それはチーム全体の問題。相手がボールを握る試合展開になったら仕方ないことだと思います。
少なくとも、チームがボールを持てる展開なら、鎌田はその中心として必ず絡んできます。そういうレベルの選手になったと思いますね」
今シーズンは、念願のチャンピオンズリーグ(CL)デビューも果たした鎌田。ほかにも、スポルティング(ポルトガル)に移籍した守田英正や、セルティック(スコットランド)組の日本人選手たちも同じ舞台でプレーするが、おそらくヨーロッパ組のなかで現在最も高いレベルを知っているのは、鎌田と言っても過言ではないはずだ。
そんな貴重な戦力を、日本代表でどのように生かせばいいのか。多くのサッカーファンが想像するところだが、果たして風間氏の見解はどうなのか。
「どちらが正しいとかはありませんが、サッカーでは、チームをある程度固定して、そこに選手を当てはめていく方法と、誰かを中心に置いて、そこからチーム全体を考える方法があります。現在の鎌田は、明らかにチームの中心になれる選手だということ。それだけは間違いないと思います。
もしかしたら、中央エリアで高いレベルのプレーができる選手は、現在の日本代表の攻撃陣のなかでは鎌田が一番かもしれません。サイドで待ってプレーするタイプではなく、中央の狭いスペースでも普通にボールを受けることができるうえ、ミスも少なく、試合を動かすことができる。
要するに、日本代表のなかでチャンスを作れる数少ない選手で、もし彼を中心に置いて、彼の持っている時計に周りが合わせることができれば、チーム全体のプレーの速度も変わってくると思います」
いずれにしても、カタールW杯では鎌田が森保ジャパンのキーマンになることは間違いなさそうだ。
ビッグクラブの中心選手を目指してほしい
そんな鎌田がさらなる進化を遂げるためには、あと何が必要なのか。最後に、敢えて風間氏に聞いてみた。
「これまでの鎌田を見てわかるように、最初はうまくいかなくても、最終的にはその環境のなかでしっかり成長してきましたよね。プレーの正確性がアップしたのはそのひとつの例で、それによって、今では速い時間のなかでも普通に自分のプレーができるようになってきました。
それを考えると、今後も成長を続けるためには、さらにもうワンランク上の環境でプレーすることも必要なのかもしれません。もっと速い時間のなかでプレーすれば、彼ならきっとそのレベルに合わせられるようになるのではないでしょうか。そういう意味では、CLでもうワンランク上の試合を経験できるのは大きいと思います。
過去を振り返っても、日本人でビッグクラブの中心になれた選手はまだいません。年齢的にも十分に成長できるはずなので、そこを目指してほしいですね」
鎌田大地かまだ・だいち/1996年8月5日生まれ。愛媛県伊予市出身。ガンバ大阪ジュニアユースから東山高校へ進み、2015年にサガン鳥栖に入団。初年度から出場機会を得て活躍すると、2017年にはフランクフルトへ移籍。2018-19シーズンのシント=トロイデンでのプレーを経てフランクフルトに戻ってくると、昨シーズンはヨーロッパリーグ優勝に貢献する実績を残した。A代表は2019年3月にデビュー。カタールW杯での活躍が期待されている。
風間八宏 かざま・やひろ/1961年10月16日生まれ。静岡県出身。清水市立商業(当時)、筑波大学と進み、ドイツで5シーズンプレーしたのち、帰国後はマツダSC(サンフレッチェ広島の前身)に入り、Jリーグでは1994年サントリーシリーズの優勝に中心選手として貢献した。引退後は桐蔭横浜大学、筑波大学、川崎フロンターレ、名古屋グランパスの監督を歴任。各チームで技術力にあふれたサッカーを展開する。現在はセレッソ大阪アカデミーの技術委員長を務めつつ、全国でサッカー選手指導、サッカーコーチの指導に携わっている。