“ポスト大迫”問題を解消するには? 日本代表大型FWの系譜から占う“次世代の期待の星”
【識者コラム】通算75ゴールを誇る釜本邦茂から日本人ストライカーの系譜はスタート
日本代表における”大型FW”の系譜においても大迫勇也(ヴィッセル神戸)という選手が極めて特殊なタイプで、その基準でFWを評価すると可能性を大きく制限してしまうことになる。しかしながら、総合評価として大迫勇也と同等か、それ以上の働きをしうるタレントは複数存在する。
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それでも”ポスト大迫”というテーマなので、例えば古橋亨梧や前田大然(ともにセルティック)、浅野拓磨(ボーフム)といった選手は別枠ということで、今回は割愛して進めたい。歴代の日本代表で正真正銘のストライカーと言えば、76試合75得点という金字塔を打ち立てた釜本邦茂をおいてほかにない。さらに釜本世代に続く大型FWとして、強烈なヘディングと競り合いの強さを誇った原博実も37得点を記録している。
Jリーグ草創期に”カズ”三浦知良(鈴鹿ポイントゲッターズ)とともに、日本代表を牽引したのは”アジアの大砲”高木琢也。身長188センチというサイズもさることながら、空中戦の強さで、迫力のあるストライカーだった。“ドーハの悲劇”経験者であり、1997年まで日本代表でプレーした”アジアの大砲”に代わり、日本代表の主力として台頭したのが城彰二。179センチとサイズ的には”大型FW”ではないが、身体能力と身のこなしで、的確なポストプレーをこなしながらボックス内でアクロバティックにゴールを狙った。
ただ、城彰二が35試合で7得点、さらに2002年日韓W杯のベルギー戦で日本を勝利に導くゴールを挙げた鈴木隆行も55試合で11得点という結果が示すとおり、前線の主力FWがエースストライカーとしての仕事を十分に果たせていたことのほうが少ない。異色な存在は”黄金世代”の1人である高原直泰だ。ブンデスリーガで1シーズン二桁ゴールも記録したストライカーは181センチという上背以上のスケール感があり、日本代表でも57試合で27得点を記録している。
高原が素晴らしかったのは守備からポストプレーまで、幅広くFWの仕事をこなしながら、ボックス内でも勝負強さを発揮していたこと。右利きだが両足で強烈なシュートを打てる本格派のストライカーとして君臨した。ジュビロ磐田でプロをスタートさせた高原の先輩格である”ゴン中山”こと中山雅史も53試合で21得点と遜色ない決定力を代表でも発揮したが、2トップの一角で虎視淡々とゴールを狙う”9.5番”的な位置付けで考えれば、大枠で括るなら現在の古橋に近い存在かもしれない。
ザックジャパン時代は本格派FWが上手く確立されず
柳沢敦はより特殊なタイプで、177センチというサイズながら柔軟なポストプレーと動き出しを組み合わせて、58試合で17得点という結果以上の働きで、日本の勝利に貢献した。同時期に柳沢のライバルとして、時に2トップを組んだ西澤明訓も180センチと特別なサイズはなかったが、フィジカル的な強さと大胆不敵なフィニッシュで、大型ストライカーというイメージは強かった。
”ドラゴン”久保竜彦はさらにダイナミックなストライカーとして異彩を放つ存在だったが、やはり典型的なターゲットマンとは言い難い。釜本邦茂、三浦知良に続く歴代3位の得点数を岡崎慎司(シント=トロイデン)も、本格派のセンターフォワードというよりは2トップで衛星的に動きながらタイミングよくボックス内に走り込むタイプで、高い得点率を誇った”ザックジャパン”での基本ポジションは右サイドハーフだった。
”ザックジャパン”では前田遼一が1トップの主力を担っていたが、そこから2013年の東アジアカップ(現E-1選手権)で大活躍したテクニカルな柿谷曜一朗(名古屋グランパス)、伸び盛りだった当時の大迫勇也が台頭し、ブラジルW杯ではサプライズ招集された大久保嘉人が前線を引っ張るなど、本格派のFWが上手く確立されなかった時期でもあった。
ブラジルW杯後、短期に終わった”アギーレジャパン”を経て”ハリルジャパン”になると、やはりFW問題が継続されるなかで、2010年の南アフリカW杯と同じくMF本田圭佑を1トップに置く布陣で、アウェーのオーストラリア戦を乗り切った。そこからドイツで結果を出していた大迫が代表復帰し、前線の主力に定着。本番直前の”ハリル解任”で急きょ、2018年W杯で日本代表を指揮した西野朗前監督も1トップに大迫を起用し続けた。
”森保ジャパン”になってしばらく大迫が絶対的な主力であることは変わらなかったが、同時に”大迫依存”を払拭するチャレンジが必要な期間でもあった。大迫と同じ役割を求めるよりも、起用された選手が持ち味を発揮するという考え方だ。ただ、そのなかで186センチの長身でスピードもある鈴木武蔵(ガンバ大阪)、ポストプレーとボックス内の勝負強さを併せ持つオナイウ阿道(トゥールーズ)、”ビースト”の異名を持ち、サイズ以上に懐の深いキープ力を備えた林大地(シント=トロイデン)など、何人か候補は出てきているが、まだ”ポスト大迫”と呼べるインパクトのある存在は出ていない。
しかも、林は靭帯損傷で長期離脱が報じられており、カタールW杯への最終テスト的な意味合いが強い9月の代表活動に向けて、絶望的になってしまった。191センチの原大智は同じくベルギー1部シント=トロイデンで昨シーズン8得点を記録したが、スペイン2部アラベスで開幕時までポジションを掴めておらず、再移籍も取り沙汰されている。その環境次第でカタールW杯滑り込みも可能だが、難しい状況にあるのは確かだ。
大迫の代わりが完璧に務まる日本人選手は今なお不在
大迫と本質的にタイプは違うが、東京五輪の主力でもあった上田綺世(セルクル・ブルージュ)が”ポスト大迫”の筆頭格として期待を集めた。巧妙な動き出しとファーストタッチのコントロール、日本人離れしたシュート力を誇り、前線でボールを収める大迫とはまた違った存在感で、攻撃に奥行きをもたらすことができる。ただ、今夏に鹿島アントラーズから移籍したベルギー1部のセルクル・ブルージュで、一時はトップ下で使われたり、FWでもいいタイミングでパスが出てこなかったりと、苦しい時期が続いている。
その上田が欧州移籍で参加できなかったE-1選手権で3得点を記録して、一躍カタールW杯の滑り込みに名乗りを上げたのが町野修斗(湘南ベルマーレ)だ。”領域展開”がキャッチフレーズの町野は185センチのサイズながら機動力もある。攻守に幅広く関わるが、大事な時は必ずボックス内に入り込んでおり、狭いスペースでも冷静にシュートできる。中断明けの試合で、8得点から数字を伸ばせていないが、9月の欧州遠征に向けたメンバー発表までに、二桁には乗せたいところだ。
カタールW杯の候補という基準では欧州組を含めて限られるが、少し先を考えると”ポスト大迫”の候補は少なくない。E-1選手権に参加したパリ五輪世代の細谷真大(柏レイソル)は177センチながら的確なポストワークと縦の推進力を武器とする。同じ柏レイソルの森海渡は185センチでスピードもあり、筑波大から卒業を待たずにプロ契約した期待の大型ストライカーだ。北海道コンサドーレ札幌の中島大嘉も188センチの上背以上に跳躍力が素晴らしく、ドリブルの突破力も備える。まだ粗削りだがスケール感はライバルの追随を許さない。
いずれにしても、大迫の代わりが完璧に務まる日本人選手はいない。オナイウや林は近いが、それでも同じ役割を求めるのは酷なので、大迫ほど獅子奮迅の働きをしなくても、ボックス内で決定的な仕事ができるような攻撃を日本代表が目指していくべきだろう。それでもカタールW杯に関しては、もし大迫が100%のコンディションを取り戻せるのであれば、招集対象から外す必要はない。
[著者プロフィール]
河治良幸(かわじ・よしゆき)/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。