〈J2降格危機〉「ガンバらしさ=遠藤保仁らしさ」はアップデートされたのか 有能な片野坂監督“解任劇の本質”、変えるべきもの
Jリーグは終盤戦を迎え、優勝争いや残留争いに向けて監督交代に打って出たチームもある。リーグ優勝やアジア王者の経験がありながらJ2降格危機に陥る関西の雄、ガンバ大阪では何が起こっているのか。番記者に記してもらった。
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三顧の礼で迎え入れたはずの指揮官は、選手やスタッフが情報を共有するグループLINEに、こんなメッセージを残してガンバ大阪を去っていった。
〈最後まで勝たせてあげられなくて、申し訳なかった〉
勝利から遠ざかる選手への謝意を表す言葉だった。
今年1月、新体制会見でガンバ大阪の復権を誓うとともに「ガンバのスタイルという部分がある。またガンバのスタイル、カラーを取り戻したいし、そういうスタイルは継承しながら、また、やっていきたい」と力強く公言した片野坂知宏監督は8月17日、その肩書きを「前監督」に変えていた。
解任を告げられた前日、小野忠史社長と和田昌裕取締役との話し合いの場で、片野坂前監督は「試合ごとに少しブレてしまった」と自らの足取りを振り返ったという。
「ガンバらしいサッカー」とはそもそも?
ただ、早すぎた片野坂体制の終焉の根本には、クラブが掲げる「妄執」があるように思えるのだ。
ガンバらしいサッカー――。歴代の社長や、新たに就任した監督は新体制会見など所信を表明する場で、お題目のようにこの言葉を口にしてきた。
かつて「超攻撃」をスローガンに掲げたシーズンがあった西野朗元監督が率いた当時「2点取られれば、3点を取る」という破天荒なスタイルで、攻撃サッカーの雄としての立ち位置を確立。J2リーグ降格からの立て直しを託された長谷川健太元監督の時代にはファストブレイクを軸に、勝負強いサッカーで二度目の黄金期を迎えた。
だが、ガンバ大阪が手にしてきた9つのタイトルを振り返れば、唯一、欠かせない存在だったのは遠藤保仁という稀代のプレーメーカーだった。
遠藤と二川、橋本や山口、明神らを擁して
「ガンバらしさ」という概念は実のところ「遠藤らしさ」と同義だった。
西野監督が率いた当時、遠藤と二川孝広という二人の天才MFが全盛期を迎え、橋本英郎や山口智、明神智和といった日本のサッカー史に残る名バイプレーヤーを擁していたからこそ、魅惑のパスサッカーは成立したのである。
二川が徐々に出番を失い始めた長谷川体制下でも要所では、華麗な崩しを見せることがあったが、やはりその中心には今、ジュビロ磐田で50番を背負う男の存在があった。
2018年以降の5シーズンで実に3度の監督解任を経験し、その度に残留争いに巻き込まれているガンバ大阪。新型コロナウイルスによるクラスターが発生し、クラブ史上例を見ない超過密日程を余儀なくされた昨年の低迷こそ不可抗力の側面が強いが、近年残留争いの常連になりつつある現状は、単に指揮官だけの問題ではないはずだ。
取締役に問うてみた“クラブ側の責任”
これだけ低迷が続くのはクラブに根源的な問題があるのでは――。会見で和田取締役にこんな質問を投げてみた。
「2年連続でこうやって監督を交代してしまっている部分ではクラブとしては当然反省しないといけない」という言葉の後、和田取締役は話を続けた。
「しっかりと人選した中でお願いをして来て頂いている監督なので、目指すサッカーというのを、我々フロント側とまず契約する前にもっと話をして行く必要がある」
つまり、片野坂前監督にはフロントが考える「ガンバらしさ」が十分に伝わっていなかったということなのである。
片野坂前監督が手腕の一端を見せる試合はあった
片野坂前監督がその手腕の一端を見せた試合があったのは事実である。
3月6日のホーム、川崎フロンターレ戦では宇佐美貴史がアキレス腱断裂で負傷交代するアクシデントに見舞われながらも連覇中の王者に真っ向勝負を挑み、終了直前まで2対1でリード。GK石川慧のミスでドローに持ち込まれたものの、鬼木達監督が「敗戦のゲームだと思っています。勝点1を拾わせてもらったということだけ」と振り返ったのも納得の内容だった。
そして6月29日のホーム、サンフレッチェ広島戦でも片野坂色が強く表れた変則的な3バックとハイプレスが機能し、2対0で快勝。今季のガンバ大阪は違う、と感じさせた。
ただ、片野坂前監督は有能ではあるが、全盛期を知るサポーターが考える「ガンバらしさ」とは異なるスタイルを持つ指揮官だったと思うのだ。
その象徴が、6月1日に行われた天皇杯2回戦のFC岐阜戦である。
この試合、ガンバ大阪はターンオーバーで主力を温存して来たFC岐阜に前半14分までに2点を献上。延長戦の末に4対2で振り切ったが、試合後に片野坂前監督は「横山(雄次)監督になられてリーグ戦で3バックで戦われることが多かったというところで、今日、我々は3-4-3で入るようにした。
マッチアップさせて、ミラーゲームになるという狙い。ただ、蓋を開けてみると岐阜も4-4-2の戦いをされてきた」とシステム面での誤算を口にした。だが、格下のJ3勢に対して、相手に合わせ、しかも後手に回るのは「ガンバらしさ」のかけらもない戦い方である。
松田監督の後任探しをフロントは進めていくという
松田浩監督を新たに迎え、J1残留に向けて背水の陣を敷いたガンバ大阪は、就任初戦となった8月20日のサンフレッチェ広島戦は2対5で痛恨の逆転負け。10年ぶり2度目のJ2リーグ降格は、リアルな危機として迫りつつあるが、当面今季限りの契約となる松田監督の後任探しをフロントは進めていくという。
「これからガンバは、皆さんが求める攻撃的なサッカー、主導権を取るサッカーというのは当然目指さないといけないと思っています」と和田取締役は言い切ったが、その道のりは前途多難である。
現役の日本代表の肩書きを持つ選手は不在で、常に逸材を輩出し続けて来たアカデミーも、近年は好素材の獲得合戦が激化していることもあり、やや小粒になりつつあるのが現実だ。
常勝軍団だった時代の記憶が染み付いたエンブレムを変え、マスコットも新たにしたガンバ大阪だが、次に変えるべきは今の時代に応じた「ガンバらしさ」の定義である。
そして、フロントがかつての「ガンバらしさ」にこだわるのならば、長期的な視点と指揮官と選手を選ぶ側へのテコ入れも不可欠だ。
ローマのみならず、攻撃的サッカーも一日にして成らず、なのである。