G大阪戦疑惑のPKはノーファウルが適正 ネイマールはなぜレフェリーを欺き続けることができるのか、元主審・家本政明氏が語るダイブの高等技術
【専門家の目|家本政明】G大阪との親善試合でのPKは「ノーファウルで良かった」
フランス1部パリ・サンジェルマン(PSG)のブラジル代表FWネイマールは、トッププレーヤーとして知られる反面、PK獲得を誘う“ダイブ”がこれまでも指摘されてきた。7月25日に行われた、日本ツアー最終戦のJ1ガンバ大阪戦(6-2)でも、PK獲得時の“疑惑のプレー”は反響を呼んだ。PKの判定は正しかったのか。ネイマールはなぜレフェリーを欺き続けることができるのか。2021年シーズン限りでサッカー国内トップリーグの担当審判員を勇退した家本政明氏に聞いた。
【動画】PSGネイマールがG大阪DF三浦弦太からファウルを誘発したシーン
◇ ◇ ◇
フランス代表FWキリアン・ムバッペ、アルゼンチン代表FWリオネル・メッシとともに世界最強の3トップで日本を沸かせたネイマール。PSGは日本ツアー3戦目となるG大阪戦の前半30分、海外メディアを騒がすシーンが起こった。ネイマールがペナルティーエリア内で仕掛けた際、G大阪DF三浦弦太のスライディングで倒れ込み、PKを獲得。冷静にこれを決めて、しっかりと得点を記録した。
ゴールライン際をえぐって左足で中央へ折り返そうとしたネイマールに対して三浦が足を投げ出して止めに行き、キックフェイントに引っかかる形となったが、映像ではネイマールとは接触していないようにも見える。その後、ネイマールが小さく飛んでピッチに倒れ込み、右足を押さえる格好になった。
スペイン地元紙「マルカ」は「ダイブは必要だったのか?」と疑問を突きつけ、地元ブラジルメディア「グローボ・エスポルチ」も「亡霊」と揶揄するほど、疑惑のプレーとなった。
果たして、PKという判定は正しかったのか。家本氏はこのシーンについて、「ポイントは3つです。まずはコンタクトがあるのか。2つ目はそのコンタクトは反則となるようなものなのか。3つ目は、そのコンタクトを利用して反則と見せかけていないか、になります」と語る。
ネイマールのダイブは見極めるのが困難
「コンタクトがあったのかについてですが、中継映像ではコンタクト有無がよく分からなかったのですが、SNSに上がっている映像を見る限り、コンタクトはあります。反則となるコンタクトだったのか、についてですが、コンタクトはとても小さくて軽いものです。反則と見せかけていないかという部分については、そのコンタクトのわりに反応はとても大きいと感じます。ですので、不用意な反則と言えなくはないです。ただ、個人的にはいわゆるダイブの類と判断しますので、ノーファウルで良かったと思います」
家本氏は、PKではなくノーファウルの判定が適正との見解を述べた。
ネイマールと言えば、華麗なドリブル突破とともに、接触プレーで大袈裟に倒れるシミュレーションも広く知られている。なぜレフェリーを欺き続くことができるのか? 「ネイマール選手の場合、過剰な演技というよりも、巧みな表現という言い方のほうが合っていると思います。彼のそういった行為にはオーバーに感じる時と、かなり自然に感じる時があります。ですので、ダイブの見極めはとても難しく、審判の見る場所によって見え方や感じ方はかなり変わります」と分析した家本氏。仕掛けから倒れ込むまでのアクションは、レフェリーにとってもあまりに自然でダイブの見極めるのが困難だという。
「彼がもっと若い頃は、オーバーリアクションなものが多かったので、ダイブしたなというのがすぐ分かったのですが、この頃はかなり自然な感じになりました。個人的には、ダイブは勝つための戦術の1つであるとはいえ、正々堂々と戦ってるとは言えない行為なので好きではありません。ただ、コンタクトを利用して、さも反則を受けたかのように見せる技術はとても高いと思います」
キャリアを重ねるにつれて、ダイブという技術の洗練度が高まっているネイマール。レフェリーがネイマールのようなプレーに欺かれないためにはどうすべきなのか。
「ポイントは最初に言った3点。コンタクトの有無、コンタクトの程度、ダイブの可能性です。そのためには、クリアな視野、いい角度、適切な距離を確保すること。そしてできるだけ静止して監視すること。2番目は先入観を持って見ないこと。最後は勇気を持ってノーファウルと決断することです。難しい部分は、軽いコンタクトでもタイミングや体勢によって反則となることもあります。その見極めは相当難しく、本当に反則なのか、悪意を持って反則をもらおうとしているのか、はっきりしないことも多いです」
現在スポーツチャンネル「DAZN」の判定検証番組「Jリーグ ジャッジリプレイ」でも活躍する家本氏は、8月7日のJ1リーグ第24節の川崎フロンターレ対横浜F・マリノス戦で「家本政明LABO」というオンライン同時視聴イベントを開催することが決定。国内外のトップレベルの試合を700回以上担当してきた元プロフェッショナルレフェリーならではの視点による解説、そして、質疑応答も楽しめるというこれまでになかった新たなスタイルのサービスにも注目が集まる。