「堂安律は本田圭佑によく似ている」ガンバJr.ユース時代の監督が「人間力」に太鼓判
日本がカタールW杯出場を決めた3月のオーストラリア戦(シドニー)。かつて南野拓実(モナコ)、中島翔哉(ポルティモネンセ)とともに「三銃士」と称された堂安律(フライブルク)は、この大一番に参戦できなかった。「逆境大好き人間頑張りまーす!あ、怪我してません!!」と本人は自身のSNSを通して冗談交じりに本音を発信。悔しさをバネに所属先のPSVで結果を出し、6月の代表4連戦で復帰。W杯メンバー入りの権利を手中にしようとしている。「自分がうまくいかない時に文句を言う選手は多い。でも律は絶対にそういうことを言わない選手。器の大きいところは(本田)圭佑に似てると思います」。ガンバ大阪ジュニアユース時代の監督だった鴨川幸司氏は、彼の人間力に太鼓判を押した。
堂安律 馴れ合い嫌う「メッシの再来」が口にした強い野心(2020年)
■明るくてポジティブ
──兵庫・尼崎市出身の堂安は西宮少年SSから2011年にガンバ大阪のジュニアユース(U-13=13歳以下)に入りました。
「小学校6年の律は、西宮市出身の西田一翔(JFL・MIOびわこ滋賀)とともに『関西注目の2人』と言われていた。ガンバのスカウトが2人に声をかけたところ、揃って来てくれました。律は今と同じ左利きのテクニシャン。ただ、スピードやキレは、そこまでなかった。当時の印象としては『家長(昭博=川崎)や宇佐美(貴史=G大阪)のレベルではないな』というものでした」
──キャラクターは?
「とにかく明るくてポジティブな選手。誰かが叱られたりしても、率先して声を出して盛り上げていたし、リーダーシップもありました。特にチームの雰囲気が悪い時に引っ張ってくれたので助かりました」
──ポジションは?
「今と同じ攻撃的MFかFWでした。でもU-16日本代表では、左サイドバック(SB)に起用されたことがあった。本人は不本意だろうと思って『代表、どうやった?』と聞くと『このままでは吉武(博文監督)さんに認められない。どこのポジションでも一生懸命にやります』と闘志をむき出しにしてました。『(与えられた)ポジションが(やりたいところと)違うからうまくいかない』と不満を口にする選手は多いけど、律は一切、文句を言わなかった。むしろ、キャプテンとして挑んだアジア予選で韓国に負けてしまい、敗退した責任を痛感していたようでしたね」
──堂安の左SB起用をどう見ました?
「育成年代でいろんなポジションをやるのは『いい経験』と考えていました。ガンバアカデミーの先輩である稲本(潤一=南葛SC)も、95年U-17W杯(エクアドル)で新井場徹(FCティアモ枚方オーナー)と左右のSBでプレーしました。実際、僕も律が中2だった時のスペイン遠征で、左SBとして起用したことがあります。初瀬亮(神戸)が少しテングになりかけていたので『ライバルが現れたら危機感を持ってくれるだろう』という狙いもありました。ある試合で律が物凄く良いプレーをしたので(プレッシャーを感じた)初瀬が泣き出したほど(笑)。競争のある環境が、選手たちを伸ばすんです」
決して弱音は吐かず、ここ一番で大仕事をする
──堂安は中1からレギュラーだったんですか?
「2つ上に井手口陽介(セルティック)と鎌田大地(フランクフルト)ら良い選手が多くいたので1年の時は出場が難しかった。2年から試合に出るようになりました。その12年度は高円宮杯U-15など3冠を取ったチームの一員でした。初瀬や林大地(シントトロイデン)、田中駿汰(コンサドーレ札幌)らヤンチャ坊主が多い中で堂安は揉まれましたが、決して弱音は吐かなかった。そういうところは圭佑によく似ている。弱みを見せなかったり、前向きな考え方、負けず嫌いな精神力、人としてのスケール感の大きさは、2人に共通する部分だなと思います」
──大舞台にも強いと。
「そうです。中2の高円宮杯U-15決勝で大宮と戦った時も律は2点目を奪い、3-2と追い上げられた後半もダメ押しの4点目を取った。それもつま先でちょっと触ったシュートが、ポストに当たって中に転がって入った。『律、持ってるな』としみじみ感じたことを覚えています。17年U-20W杯(韓国)のイタリア戦の5人抜きゴールもそうだったけど、彼はここ一番で大仕事をします」
──02年日韓W杯2ゴールの稲本、10年南アからW杯3大会連続で計4ゴールの本田の系譜を継ぐ可能性がありそうですね。
「イナと圭佑は、本番で結果を出せるだけのずぬけたメンタルの強さを備えている。律もその要素を持ち合わせているし、十分にチャンスがあると思います。そのためにもクラブで結果を出すことが重要。この夏に移籍したフライブルクは欧州ELにも参戦しますし、今が勝負どころだと思います」
■新天地フライブルクで猛ダッシュ
──堂安は森保ジャパン発足時はエース候補に位置付けられていました。しかし、W杯最終予選の重要局面でまさかの落選を強いられました。
「代表から外れて『怪我してません!!』ってユーモアを交えたコメントを出せるのは、やっぱり関西人ですね(笑)。そこでも『監督のせいやない、自分のせいや』と考えられるのは中学時代と一緒。彼のところは両親の育て方がいいんだと思います。だから素直で明るいメンタリティーになれたのでしょう」
──堂安がW杯メンバーに食い込むには何が必要ですか?
「右の伊東純也(ランス)、左の三笘薫(ブライトン)の両サイドアタッカーのようなスピードタイプではない。なので中寄りの位置でSBの攻め上がりを引き出したり、右サイドから一瞬で中に入って左足でシュートを放ったり、そういった良さを出していくことが必要だと思います。一方、タテに強引に出ていくのも律の持ち味。そこもなくさずにやってもらいたい。タテに行くのか、味方を生かすのか……というバランスの取り方は、中学時代も苦労してました。何でもソツなくやるだけでは怖くない。やっぱりフィジカルの強さ、シュート力といった良さを押し出してほしいです。最終的には、タイプの似た久保(建英=レアル・ソシエダ)との競争かもしれないですね。ただ、登録人数が3人増えて26人になったので2人ともチャンスは広がったと思います」
──ガンバで28年間育成に携わり、代表選手を数多く指導してきた鴨川さんから、堂安にアドバイスがあるとすれば?
「僕が言うのもおこがましいけど、クラブでどれだけ良いキャリアを積むか、これが大事だと思います。イナも圭佑も欧州で長くプレーして数々の修羅場をくぐったからこそ、W杯本大会でも活躍できたんです。(4年に1度の)W杯は巡り合わせも大きい。でも、クラブで結果を出し続けていたら、必ず監督は呼んで使ってくれるはず。律は今季、新天地のフライブルクで開幕から猛ダッシュを見せてほしいです」
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▽堂安律(どうあん・りつ) 1998年6月16日生まれ。兵庫県出身。ガンバ大阪ジュニアユース時代にU-15年代全国3冠を達成。ユース時代に16歳344日でトップデビュー。2017年6月にオランダ1部フローニンゲンに移籍。同国1部PSV-独1部ビーレフェルト-PSVでプレー。22年7月5日に独1部フライブルクに完全移籍。18年8月に日本代表初招集。21年夏の東京五輪に背番号10で出場。身長172センチ・体重70キロ。
▽鴨川幸司(かもがわ・こうじ) 1970年7月28日生まれ。大阪府出身。釜本FCのコーチを経て92年に発足したガンバ大阪アカデミーの育成部門で辣腕ぶりを発揮。稲本潤一、本田圭佑、宇佐美貴史、昌子源、鎌田大地、林大地ら日本代表選手を育てた。2004年から16年までガンバ大阪ジュニアユース監督。19年12月にガンバ大阪を離れ、翌20年2月に大阪府の枚方市、寝屋川市、交野市など北河内地域を中心に活動するJFL・FCティアモ枚方のアカデミーダイレクターに就任。ジュニアユース監督を兼務している。