PSGの選手が観光気分ではなく、レッズ相手に本気となった理由。代表クラスでもミスすれば売却される「背水の陣」

パリ・サンジェルマン真夏の短期集中講座<第6回>~浦和レッズ戦@埼玉スタジアム2002

【画像】エムバペ、ネイマール、メッシ…。パリ・サンジェルマントップ選手たちのセレブな写真

「調整の初期段階にあることが影響して、安定感と強度を欠く場面もあったが、全体的にはチームは確実に前進している。コンビネーションやいい得点シーンを作れたことも含め、ポジティブな材料もいくつかあった」

ジャパンツアー2試合目の浦和レッズ戦を3-0で勝利したあと、今シーズンからパリ・サンジェルマン(PSG)を率いるクリストフ・ガルティエ監督はそう振り返った。

その一方で「(我々は)できるだけ早くボールを奪い返そうとするスタイルのため、(守備の)バランスを欠くことにつながっている。そこは改善しなければならない」と語るなど、3日前の川崎フロンターレ戦で露呈した守備の課題については、まだ改善の余地があることも認めていた。

6万1175人の観衆でスタンドが埋め尽くされたこの試合、PSGはキリアン・エムバペ以外の10人を川崎戦から入れ替えてスタメンを編成。新布陣3-4-1-2の最終ラインには、ティロ・ケーラー、ダニーロ・ペレイラ、アブドゥ・ディアロの3人が並んだが、開始早々の前半3分、さっそく浦和の鋭いカウンターアタックを浴びた。

左ウイングバックのフアン・ベルナトのパスを伊藤敦樹にカットされ、小泉佳穂、松尾佑介と素早く縦につながれると、最終ラインの背後に抜け出した松尾がGKケイロル・ナバスとの1対1に。幸い、このピンチはケーラーの素早い戻りとナバスのセーブで失点を防いだが、ハイライン時の背後のスペース管理の問題は今後も守備の課題として大きくクローズアップされることになるだろう。

もっとも、「開始10分は相手の激しいプレッシングに苦しんだ」(ガルティエ監督)ものの、その後は次第にPSGがリズムを取り戻し、16分にはエムバペ、マウロ・イカルディとつなぎ、最後はパブロ・サラビアの正確なミドルシュートで先制する。

さらに35分にはエムバペの異次元の個人技から追加点を決めると、後半76分にはマルキーニョスのパスを起点にすばらしいコンビネーションプレーからアルノー・カリムエンドが2試合連続となるダメ押しゴールを決め、危なげなく勝利を飾ることに成功している。

熾烈なポジション争いが勃発

この試合で印象的だったのが、選手個々のコンディションが上向いていたことだ。高温多湿の気候により、トレーニングができる時間帯は夜に限られているという実情を考えれば、わずか3日間で目に見える変化が見て取れたことはポジティブな材料と言える。

とりわけこの試合のスタメンを飾った11人のなかで、レギュラー組は昨シーズンの累積警告によって7月31日のトロフェ・デ・シャンピオン(フランス・スーパーカップ)を欠場するエムバペのみ。それ以外の10人は現段階における控え組ということもあり、新体制下のチームで生き残るためにも存在感を示さなければならない、という事情がプラスに働いているのかもしれない。

今夏に就任したガルティエ監督は、過密日程のシーズン前半戦を乗りきるために同じレベルを保てる2チーム分の陣容で開幕を迎えたい意向を示し、そのために余剰戦力の売却を進めることも公言している。

実際、オランダ代表MFジョルジニオ・ワイナルドゥムやドイツ代表MFユリアン・ドラクスラーを来日メンバーから除外。ワイナルドゥムは現在ローマへの移籍話が取り沙汰されているが、そのほかにも放出可能リストに名を連ねる11人におよぶ選手たちの去就は、夏の移籍市場が閉じるまでは予断を許さない状況だ。

つまり多くの選手たちにとって、今回のジャパンツアーはお気楽な観光気分では過ごせない事情があり、現在のPSGでは各ポジションで熾烈なチーム内競争が勃発している。

「今日のケイロル(ナバス)は重要かつ決定的な仕事をしてくれた。ただ、最初に話したとおり、私はGKのポジションでも優先順位をはっきりさせるつもりで、彼にはセカンドGKとして私が期待していることを話している」

ナバスとジャンルイジ・ドンナルンマというふたりのGKをローテーション起用した昨シーズンのマウリシオ・ポチェッティーノ監督とは違い、すでにガルティエ監督はドンナルンマを正GK、ナバスをセカンドGKとすることを明言している。

当初はナバスの移籍も噂されたが、本人は現在の序列を覆す自信があるようで、残留の可能性は高い。そうなると、2試合とも途中出場したセルヒオ・リコは、今夏も移籍の道を模索することになる。

ガンバ戦が最後のチャンス?

最終ラインも、マルキーニョス以外は不透明だ。チェルシーから熱烈なオファーを受けるプレスネル・キンペンベは残留を希望しているが、提示額によっては売却の可能性も否定できず、ディアロの去就はその動き次第。

また、現在秒読みとなっているライプツィヒ(ドイツ)のノルディ・ムキエレが加入すれば、セルヒオ・ラモスも控えに回る可能性があるうえ、放出候補のケーラーは本腰を入れて移籍先を探さなければならなくなるはずだ。

今夏にヴィティーニャが加わったボランチは超激戦区。マルコ・ヴェラッティが軸となることは間違いないが、そのほかにもイドリッサ・ゲイェ、レアンドロ・パレデス、あるいは今回の来日メンバーから外れたアンデル・エレーラも控え、仮に残留すればワイナルドゥムとラフィーニャもいる。今回は右ウイングバックでプレーしているエリック・ジュニオール・ディナ・エビンベも、本来ボランチを主戦場とする選手だ。

さすがに今回のツアーで才能を見せつけている16歳のウォーレン・ザイール=エメリがトップチームに残る可能性は低いと思われるが、本職がボランチのダニーロ・ペレイラがCBで固定されている現状を考えても、このポジションの人員整理は確実に断行されるはず。この2試合で、来日前にガラタサライ(トルコ)からオファーを拒否したゲイェのパフォーマンスが予想以上に高かったのは、そういう事情も影響していたのだろう。

前線は、リオネル・メッシ、ネイマール、エムバペの「MNMトリオ」がレギュラー組で、トップ下もできるサラビアはサブとして残留の方向だ。2トップの控えは、20歳のウーゴ・エキティケのローン加入が決定したため、現在はイカルディとカリムエンドのどちらかが移籍する可能性が高まっている。

いずれにしても、ヨーロッパ屈指の選手層を誇るPSGで居場所を確保することは、代表クラスの選手にとっても至難の業だ。そういう意味でも、当落線上にいる選手たちにとって、今シーズン最初の公式戦となるトロフェ・デ・シャンピオンの前に残された最後のアピールの場になる7月25日のガンバ大阪戦は、要注目。

その試合では、新戦術の浸透具合に加え、ポジション争いの行方にも注目したい。

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