堂安律は「もっとゴールを獲れる」理由。風間八宏がストロングポイントを分析
風間八宏のサッカー深堀りSTYLE
独自の技術論で、サッカー界に大きな影響を与えている風間八宏氏が、国内外のトップクラスの選手のテクニック、戦術を深く解説。第7回は、ドイツのフライブルクへの移籍が決まった、堂安律のプレーを取り上げる。ヨーロッパでのプレーで確実に進歩している彼の特長と成長している部分、そして気になる日本代表での活躍の可能性について分析してもらった。
◆【画像】識者が選ぶ、カタールW杯本番のサッカー日本代表メンバー(フォーメーション)
◆ ◆ ◆
相手に捕まらないドリブル
2018年9月の日本代表デビュー戦の約1年前に、19歳でガンバ大阪からオランダのフローニンゲンに旅立った堂安律。ヨーロッパ6シーズン目にあたる今季は、オランダの名門PSVからドイツのフライブルクへの移籍も決定するなど、選手としても着々と成長を続けている印象だ。
とはいえ、その間、すべてが順風満帆だったわけではない。フローニンゲンからPSVに移籍した2019-20シーズンはレギュラー獲得には至らず、翌シーズンにドイツのアルミニア・ビーレフェルトにローン移籍。そこで復調のきっかけをつかんだことが、公式戦10ゴールを記録した昨季のPSVでのパフォーマンスにつながった。
左利きのアタッカーとして進化を続ける堂安を、果たして風間八宏氏はどのように見ているのか。まずは、堂安の特長を聞いてみた。
「もともとボールを持つ時の懐が深く、ボールを失わないので、時間を作れるという特長がありました。それに加えて、最近は右足を使えるようになったこともあり、よりプレーの幅が広がった印象があります。
相手からすると、右に行けば左を突かれ、左に行けば右を突かれる。とてもわかりにくい選手になりましたね。
それと、ドリブルの時のステップが細かい。しかも、相手に向かっているように見えて、実は相手から逃げるのがうまいという特長もあります。相手から逃げながらドリブルをするなかで、いざ相手がボールを奪いにきたら、逆を突いて入れ替わる。
相手を抜いているように見えますが、実は相手に捕まらないドリブルによって置き去りにしている。そういったドリブルのうまさが、彼の武器のひとつになっていると思います」
パスを出したあとのもらう動き
もうひとつ、風間氏が指摘してくれた堂安の特長が、パスを出した直後の動きだった。
「彼はパスを出して終わりではなく、パスを出したあと、ほとんどのケースで自分がボールをもらう動きをする。日本代表でもよく見るのが、堂安が右サイドでボールを受けてからのプレー。ドリブルしてから内側の選手に一度ボールを預け、次に自分がシュートを狙えるようなポジションにそのまま動いて、もう一度ボールを受ける動きです。
もちろん、この類のプレーは周りの選手とのコンビネーションが重要になりますが、こういった動きを続ければ、相手を動かすこともできる。これも、相手にとって堂安がわかりにくい選手になっている要因のひとつだと思います」
日本代表の右ウイングのポジションは超激戦区で、伊東純也や久保建英をはじめ、ライバルが多い。そんななか、今後のポジション争いで優位に立つためのストロングポイントはどこにあるのか。
「とくに最近は、シュート力が強みになってきていると思いますね。シュートの時の足の振りが速いうえ、ドリブルとの見分けもつきにくく、タイミングもわかりにくい。自分が得意とするかたちも持っていますし、そこは非凡なものがあると言えるでしょう。
それと、所属クラブでのプレーを見てもそうですが、彼の場合、シュートを狙う場所とタイミングを見つけたら、全力でそこに入っていく。だから、ペナルティーエリアに入っていく回数も多いうえ、シュートの精度も高くなってきました。それが、昨季のゴール数増加につながっていると思います。
そういう意味では、ペナルティーエリアでボールを受けられる選手なので、もっとゴールに近いポジションでプレーさせると面白いかもしれません。そうすれば、もっとゴールを獲れる選手になると思います。
こうして考えてみると、日本代表にはそれぞれ特長を持ったアタッカーが多いので、使い方を工夫すれば、チームとしても違った武器を持つことができるかもしれません。
たとえば、伊東、堂安、久保を30分ずつ使うとしたら、どの順番で起用するのが最も相手が嫌なのか。そんな斬新なアイデアがあっても、面白いと思いますよ。日本は、大砲はいないかもしれませんが、鉄砲や機関銃は持っているわけですから」
最後の4分の1のゾーンで持ち味を発揮
カタールW杯アジア最終予選で、一時はメンバーから外れた時期もあった堂安だが、6月の4連戦では2試合に先発し、2試合に途中出場を果たすなど全試合に出場。とくにパラグアイ戦では鎌田大地のゴールを演出するなど、改めて存在感を示した。
カタールW杯に向けて、堂安がメンバーに生き残り、またスタメンの座を狙うには何が必要なのか。期待をこめて、風間氏に課題を聞いてみた。
「堂安は、最後の4分の1のゾーンで持ち味を発揮する選手で、そこでは時間や場所がなくても自分の強みを出せるという優位性を持っています。
ただ、試合によっては4分の3までのところで相手に止められてしまい、自分が得意とするゾーンでプレーできない。たまに堂安が消えてしまう試合があるのは、そういった原因があります。そこは、自陣からでも相手に攻撃をしかけられる伊東とは違ったキャラクターなので、対戦相手や試合展開によって、どうすれば自分のよさを発揮できるのか、工夫する必要があるでしょう。
とはいえ、堂安はプレーの幅もあって、トリッキーなプレーもできるので、相手選手や見ているファンを驚かせることができる貴重な選手です。起用方法によっても、まだまだ新しい一面が見られる可能性を秘めていると思います」
絶対的なストライカーが存在しない現在の森保ジャパンでは、とくに2列目の選手がゴールに絡めるかどうかが試合を大きく左右する。そこが、堂安にも求められている。
果たして、フライブルクへの移籍によって、堂安のプレーにまた何らかの変化が現れるのか。これまでの成長過程を振り返ってみても、新しい環境で新しい自分を見つける傾向があるだけに、新シーズンの堂安のプレーは要注目だ。
堂安律どうあん・りつ/1998年6月16日生まれ。兵庫県尼崎市出身。ガンバ大阪ユース時代の2015年にトップチームでデビューし、3シーズンプレー。2017年のFIFA U-20ワールドカップでの活躍後に、オランダのフローニンゲンへ移籍。2019年には同じオランダのPSVでプレー。2020-21シーズンはドイツのアルミニア・ビーレフェルトへローン移籍でプレーしたが、PSVに戻った昨シーズンは、同チームのリーグ2位、国内カップ優勝に貢献。2022-23シーズンからはドイツのフライブルクでプレーする。日本代表は2018年の森保ジャパンスタート時から招集されている。2021年には東京五輪に出場。
風間八宏かざま・やひろ/1961年10月16日生まれ。静岡県出身。清水市立商業(当時)、筑波大学と進み、ドイツで5シーズンプレーしたのち、帰国後はマツダSC(サンフレッチェ広島の前身)に入り、Jリーグでは1994年サントリーシリーズの優勝に中心選手として貢献した。引退後は桐蔭横浜大学、筑波大学、川崎フロンターレ、名古屋グランパスの監督を歴任。各チームで技術力にあふれたサッカーを展開する。現在はセレッソ大阪アカデミーの技術委員長を務めつつ、全国でサッカー選手指導、サッカーコーチの指導に携わっている。