【稲本潤一×今野泰幸対談】南葛SCが示す地域密着。元日本代表ふたりの胸を打ったチームの姿とは?

「南葛SCには応援したくなる選手が多いんです」(今野)

稲本潤一今野泰幸。そして関口訓充伊野波雅彦。こういった元日本代表のビッグネームがなぜやって来たのか。それは「南葛SC」という特別な意味を持つチーム名に惹かれたことが大きい。

では、実際に南葛SCに入ってみて、そしてホームの葛飾区やサポーターたちの印象はどういうものなのだろうか。

前回に続く対談後編は、より今の自分たちに近いところに焦点を向けて語り合ってもらった。

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J1から数えればJ5に位置する南葛SC。関東サッカーリーグ1部というアマチュアリーグに属しながら、その知名度、存在感は群を抜いている。この特殊なチームに実際に加わり、具体的に見えてきた“色”などはあるのだろうか。

稲本 南葛SCといったら、なんといっても『キャプテン翼』のチーム。『ボールはトモダチ』を合言葉にしたボールを大事にするサッカー。そのイメージがまずあって、その次に自分たちのスタイルを加えているイメージ。選手以前に“南葛”の名前が圧倒的に大きい。だからこそ、その名前に追いついていかないといけない。名前先行で、そこにサッカーの質が伴っているかとなると、まだまだ足りてない。メディアの取り上げられ方にしても、名前が先に突っ走っていってしまっている。結果もついてきていないし、早く追いつかないと。

今野 ただ、チームにはキャラクターが揃ってますよ。特徴があるというか、おもしろい人物がたくさんいます。みんなでワイワイと楽しくやってます。明るい選手も多い。関口(訓充)とか。

稲本 今シーズンから俺らと同タイミングで入った人を挙げても(笑)。昨シーズン以前からいる選手を挙げないと。

今野 チョイスが間違ってました(笑)? であれば村越(健太)とか最高です。あの特徴であるドリブル突破は見ててファンになります。あんなにドリブルを仕掛ける選手、います? Jリーグの中でも一番だと思いますよ。

稲本 いやいや、まだJリーグに入ってないから(笑)。あと2つ上がらないと。

今野 あ、そうか(笑)。でも気持ちいいですよね、応援したくなります。普段から明るい好青年ですし。そう、南葛SCには応援したくなる選手が多いんです。って僕も南葛の選手なんですが(笑)。村越はボール持ったら、場の雰囲気が変わりますから。2人、3人と相手が来ても“(ドリブルで)行け!”って見てますよ、僕は。みんなには『早くパス出せよ』と言われてますけど。

稲本 たしかに、あそこまでドリブルで持ち上がっていってくれるのはチームとしてもありがたい。でも基本、全部ドリブルで行くよね。明らかにケアされてるし、読まれてるし、試合中に相手選手の全員に『縦、行くぞ!!』って言われてるから(笑)。それでも2人くらい抜く。3人抜いたところは見たことがないけど。ムラに3人寄るってことは他にフリーの選手が2人いるってこと。チームとしてはそっちに渡った方が確実にチャンスになるから、コンちゃんほど“行け!”とは思わないかな。…って、なんでこんなにムラの話してんのよ。

今野 いやいやみなさん、村越には注目ですよ(笑)。

稲本 一方で、チームがおとなしいとは思わないけど、淡々としているというか。ゲーム中のコーチングに関して、リーダーシップをとって話す選手は少ないイメージがあって。そのなかで、今は自分やクニが声を出してる。自分に関して言えば年齢も年齢なので。人を動かさないとやっていけない。コーチングで伝えていくことであったり、バランスを作ることであったりを行うのは、自身が生き残るためにすごく必要なことで。それは30代後半あたりからすごく考えていて、すごく意識してる。コンちゃんはそんなに声出さないよね?

今野 そんなに出すタイプじゃないです。僕は基本、必要最低限でいいと思っていますから(笑)。思ったことがあったらプレー後に言う感じで。

「ホームでしっかり結果を出さないと、という思いは強くなった」(稲本)

南葛SCにやって来た選手が口々に語るのは、地元・葛飾区のぬくもりだ。下町情緒あふれる土地柄だけでなく、Jリーグからやって来たことで感じる斬新な距離感。これまでもサポーターの存在の大きさを十分に感じ取ってきたであろう2人が、新たに思ったこととは。

今野 地元のイベントに参加して、メチャクチャ斬新でした。楽しかったし、“俺にもファンがいるんだ”って本気で思いました(笑)。「FC東京時代から応援してました」「ガンバ大阪の時から応援してました」という声が直に聞けて。FC東京を離れたのが2011年なので、もう11年も前のことなのに、その時から応援してくれている方と会って話すことなどなかったので。すごい「サッカーがんばろう!」って力になりました。

稲本 葛飾の街の空気感って、なんとなく東京っぽくない雰囲気があって。自分が知っているなかだと、どちらかというと大阪みたいな雰囲気で。だから、結果に対してすごく厳しいサポーターもいるのかな、と思っていたの。でも、この前ホームで1-4の敗戦を喫した後、それでも温かい声援が多かったのは正直意外で。チームを見守って、心の底から応援してくれるサポーターが多いというイメージ。メインスタンドだけでなく芝生席にも観客が入ってくれるのは、選手全員にとってありがたいこと。そして、今シーズンから見に来てくれて観客数が増えているのだとすれば、それもすごくありがたいことで。なおさらホームでしっかり結果を出さないと、という思いは強くなった。

今野 みなさんやさしいですよね。株式会社南葛SCの社員選手と商店街に行ったこともあるんですが、すごく仲良さそうに喋っているのを見て。選手と地元の方との距離がすごく近い。Jリーグが推し進めている「地域密着」ってこういうことなんだって思わされました。実際、Jリーグでも地域に密着したイベントや活動はしているんですけど、ここまで密接に触れ合えてはいないと思うんです。

稲本 Jリーグだったら試合後はバスに直行だから、試合が終わってからの道中でサポーターと触れ合う機会なんてほぼない。海外のクラブでもなかった。でも南葛SCでは、それこそメンバー外になった選手がスタジアムでグッズを販売していたりする。この距離感が関東リーグのものなのか、葛飾独特のものなのかは分からないけど、とてもいいことだし、大事にしていきたいことだよね。

今野 Jリーグだと、サポーターと触れ合ってはいるんですが、どうしても垣根を感じてしまうんです。でも南葛SCの選手が商店街の方々と話している感じは、本当に近所のお兄ちゃんと談笑している感じで。これだけ距離感が近ければ、チームを応援したくなると思うんです。なにせ近所のお兄ちゃんが試合に出てるんですから。

稲本 僕とかコンちゃんが今シーズンから南葛SCに加わったことで、もし葛飾の人たちが新たに興味を抱いてもらったのだとしたら、それはとても嬉しいことで。まず「南葛SCを知ってもらう」ということは、すごく重要なこと。なので、知ってもらう可能性を高められることはどんどんやった方がいい。ただ、さっきの話ではないけど、“南葛SC”という名前に対して自分たちを含め、選手たちが追いついていない感じは否めなくて。こればっかりは自分たちが努力するしかない。そこで結果が出れば、今よりもっと楽しいことが待っているはず。そういう意味でも、これからの夏の連戦は大事になるよね。

【選手プロフィール】

稲本潤一(いなもと・じゅんいち)/1979年9月18日生まれ、大阪府出身。181センチ・77キロ。G大阪―アーセナル、フルアム、WBA(以上イングランド)、ガラタサライ(トルコ)、川崎、札幌など。日本代表82試合・5得点。ワールドカップ3回(02年・06年・10年)出場の実績を誇る日本サッカー界を代表するボランチ。日韓W杯での2得点は今なお記憶に新しい。

今野泰幸(こんの・やすゆき)/1983年1月25日生まれ、宮城県出身。178センチ・73キロ。札幌―FC東京―G大阪―磐田。日本代表93試合・4得点。ワールドカップには10年・14年の2回出場。ピッチを広く見渡せる視野の広さと類まれな洞察力で、ボランチ、センターバック、サイドバックと様々なポジションをハイレベルにこなす。日本を代表する「ポリバレント」な選手だ。

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