韓国×ブラジルで2つのVAR介入→PK判定、元主審・家本氏の見解は? 「現場で見極めるのは難易度が高い」
【専門家の目|家本政明】韓国対ブラジルで2度VARが介入し、2つともPKの判断が下された
韓国代表は6月2日に行われた国際親善試合で、ブラジル代表と対戦し1-5で敗れた。一時は元ガンバ大阪のFWファン・ウィジョが同点ゴールを決めて追いついたが、前半42分にビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の介入で与えたペナルティーキック(PK)をブラジル代表FWネイマールに決められ、勝ち越しを許した。さらに後半12分にもVARが介入しPKの判定。2021年シーズン限りでサッカー国内トップリーグの担当審判員を勇退した家本政明氏は、この一戦で主審を務めた佐藤隆治氏の2つの判断を「正しいジャッジ」と評価し、「現場で見極めるのは難易度が高い」と分析した。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部)
【動画】元国際主審・家本政明氏が「現場で見極めるのは難易度が高い」と話すVAR介入でPKの判定となったシーン
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1-1で迎えた前半38分、ブラジルはFWリシャルリソンがワンバウンドのヘディングシュートを放つと、韓国GKキム・スンギュが弾く。そのこぼれ球にアプローチしようとしたDFアレックス・サンドロと韓国代表DFイ・ヨンは、接触してその場に倒れる。だが、プレーは続行となり、プレーが途切れた段階でVARの介入によりオン・フィールド・レビューが行われ、PKの判断が下された。
家本氏はこの判定について、「すごく微妙なので、現場で見極めるのは難易度が高い」としながらも、「VARがあったからこそ、正しい判定になった」と評価した。
「ブラジルの選手がボールに触れたあと、(韓国代表の)DFはボールに行こうとするけれど、結果的に相手を蹴ってしまう。すごく微妙なので、現場で見極めるのは難易度が高い。日本人の佐藤さんがレフェリーだったんですけど、非常にタイトな状況で見極められなかった。ボールに行っているようにも見える。映像でコマ送りすると分かるレベル。肉眼ではなかなか難しい。ボールに先に触れているのがブラジル人選手で、そのあとに韓国人選手が足を出すけど、触れることができずに相手を蹴ってしまう、という状況。VARがあったからこそ、正しい判定になった」
続く後半にも同じようなシーンが訪れる。ペナルティーエリア内でブラジルが短くパスをつなぎ、サンドロにボールが渡った時、相手DFキム・ヨングォンがアプローチする。この時もプレーは続行されたが、VARの介入によりPKの判断となった。このプレーについても「ノーマルスピードではDFがボールに行ったように見える」と、肉眼では厳しいジャッジだったとするも、「映像上の事実」とPKの判定は正しいとした。
「ノーマルスピードでは、DFがボールに行ったように見える。同じようにアングルを変えてコマで送っていくと、DFはボールに触れずに相手の足にチャレンジしている。(1つ目のシーンと2つ目のシーン)両方ともボールに行こうとしているのは間違いないけど、結果的にボールに触れることができずに相手の足に当たってしまったというのが映像上の事実」
VARを進言した韓国の審判団は「フェアだった」
今回、主審は日本人の佐藤氏だったが、VARの進言をしたのは韓国の審判団だった。親善試合ならではのレフェリーの配置だが、家本氏は「同じ国民だったら応援したい心情が働いてもおかしくないけど、心情を横に置いて、判定の正しさに徹したところはフェアだった」と正当なジャッジが下された経緯を称えた。
2つのシーンとも、現場で肉眼レベルの判断は難しいとのことだったが、これはなぜか。どちらも「レフェリーのポジションが縦位置になってしまって判断が難しいポジションで見ているというのが原因」としながらも、特に1つ目のシーンについては「流れから正しいポジション、正確に見えるポジションを取るのはほぼ不可能だった」という。一方で2つ目のシーンについては、正しい位置にいると、見えた可能性はあったと分析した。
「2つ目のシーンはいいポジションにいれば、最終的な前後関係が、ボール、FW、DFだったので、その方向にDFがいくということはボールに行く前にFWに当たる可能性が高いという準備ができる」
どちらにせよ、2つのVAR介入による判断は正しいものだった。だが、審判の心情として、1試合に2度のVAR介入は「つらい。だいぶヘコむし気持ちが落ちちゃう」と、佐藤主審を思いやった。
「ただ、落ち込む半面、安心感もある。正しい判定を選手、応援している人たちに提供できている。両方の感情があったと思う」
難しい環境にもかかわらず、結果的に正しい判断を下し、試合を円滑に進めた佐藤主審、韓国の審判団はこの一戦で影のMVPだったかもしれない。
[プロフィール]
家本政明(いえもと・まさあき)/1973年生まれ、広島県出身。同志社大学卒業後の1996年にJリーグの京都パープルサンガ(現京都サンガF.C.)に入社し、運営業務などに携わりつつ、1級審判員を取得。2002年からJ2、04年からJ1で主審を務め、05年から日本サッカー協会のスペシャルレフェリー(現プロフェッショナルレフェリー)となった。J1通算338試合、J2通算176試合、J3通算2試合、リーグカップ通算62試合で主審を担当し、J通算516試合担当は主審として歴代最多。2021年12月4日に行われたJ1第38節の横浜F・マリノス対川崎フロンターレ戦で勇退。今年からJリーグのフットボール本部・フットボール企画戦略部のマネージャーに就任した。



