荒木遼太郎、松木玖生に続け。パリ五輪世代がJリーグでじわじわと高める存在感
2024年パリ五輪に向け、すでにU-21日本代表が始動している。今年3月にドバイカップで初陣を戦い、5月にも強化合宿を行ない、6月にはウズベキスタンで行なわれるAFC U-23アジアカップに挑む。新たな時代のうねりだ。
五輪に向けて新チームが発足された時には、Jリーグでレギュラーをつかみきれていない選手がほとんどだった。しかし直近の招集メンバーを見ると、細谷真大(柏レイソル)、鈴木唯人(清水エスパルス)、西尾降矢(セレッソ大阪)、本田風智(サガン鳥栖)、藤田譲瑠チマ(横浜F・マリノス)、畑大雅(湘南ベルマーレ)など、チームでレギュラー、もしくは準レギュラーと言える選手が増えてきた。
3月のドバイカップでは、3試合すべてに出場した鹿島アントラーズのMF荒木遼太郎は日本代表への招集経験もあり、この世代では頭ひとつ抜けた実績、実力がある。昨シーズンは二けた得点を記録し、ベストヤングプレーヤー賞を受賞。トップ下でパスを引き出し、繰り出す技術やタイミングは天才的で、判断力・技術力の高さで試合を決めることができる。香川真司、南野拓実に次ぐ背番号10番的な英才か。
FC東京のMF松木玖生は、新たな旗手として注目されるアタッカーだろう。パリ五輪世代の中では年下選手にもかかわらず、ピッチで見せる風格は高卒ルーキー離れしている。腰の強さは破格で、ボールを受け、当たられても崩れず、力強く持ち出し、シュートまで体の軸が乱れない。そのプレー強度のおかげで、持ち前の技術も出せ、プロの世界でも遜色のないプレーができている。
そしてJリーグ王者、川崎フロンターレのアタッカー、宮城天は分厚い選手層に阻まれてレギュラーポジションこそ奪えていないものの、強烈な魅力を放つ。
5月14日、等々力陸上競技場。アビスパ福岡戦で、宮城は後半35分から交代出場している。わずか10分だったが、異彩を放った。2-0でリードした状況で、試合をクローズする比重が高いゲームだったが、左サイドで相手のサイドバックをフタしながら、敵陣に入るとワンツーで抜け出ようとしたり、逆サイドからのボールを信じて走り込んだりしていた。
三笘薫とは違うリズムのドリブル
「Desborde y Gol」
スペインで「崩しとゴール」を意味するビジョン、技術は直結したものだが、それが体に染みついている。ボールを持っているときも、持っていないときも、ゴールが意識のなかにある。
後半40分、宮城は橘田健人からのすばらしいサイドチェンジを受けると、右足アウトサイドの完璧なトラップで持ち出し、シュートに持ち込んでいる。相手ディフェンスと対峙しても恐れることがなく、ボールを受けた時の重心も低いため、容易に飛び込ませない。敵が足を出してきても、右足を躊躇なく振っている。簡単なプレーに映るが、これは天性の素質と鍛錬の賜物と言える。シュートそのものはインパクトがズレ、右ポストをかすめるように逸れていったが、一瞬でゴールの気配を作り出した。
宮城はひとりでも守備陣形を崩し、ゴールを狙える。それは単純に才能と言える。三笘薫とはまた違ったリズムのドリブルで、シューターとしてどこまで飛躍できるか。昨シーズンは、ワールドクラスのミドルを放り込んでいる。
左利きのアタッカーとしては、ガンバ大阪の中村仁郎を推したい。日本人では、マジョルカの久保建英に一番似たタイプだろう。バルサの下部組織の攻撃的選手にいそうな空気がある。相手の逆をとる、タイミングを外すというアクションを、息を吸って吐くようにできる選手で、そこにスピードと技術が身についている。左足でのボールタッチも天分で、下がって受け、プレーメイクに関われるが、ゴールまでのビジョンもある。
ガンバでは2トップの一角でプレーしているが、適性ポジションが見つかったら、一気に飛躍できるだろう。
ただし、現時点では90分間は厳しく、チームのプレーがうまくいかないと自身も影響を受ける。先発しながら後半15分に退いた直近の柏レイソル戦はその典型だった。ただ、失敗後に改善が見られる選手で、ユース、U-23では自分への不甲斐なさから涙を流した。クリスティアーノ・ロナウドがそうだったが、感情量の豊富さは成長の起爆剤と言える。
最後に、サガン鳥栖の中野伸哉も異才だ。
中野は左利きだが、両利きに近く、ボールを持った時、アドバンテージを持てる。サイドバックとして”攻撃の入り口”になることができるのだ。スピードや体格も十分で、ポジション的優位をとる賢さもあるだけに、攻守両面でほとんど隙がない。チームのシステム上、今シーズンは先発を奪えずにいるが、左サイドバックとして今後10年以上、日本代表の座を保てるだけのポテンシャルがある逸材だ。
レギュラーの座を確保できるかどうか。Jリーグの舞台に立った彼らがメインキャストになった時、新しい時代は幕を開けるはずだ。パリ五輪までには、欧州移籍組も増えるかもしれない。その流れのなかで、新たに台頭する選手も出てくるだろう。日本サッカーの未来は暗くない。