食野亮太郎の“弟・壮磨”が貫く信念。海外で奮闘中の兄を意識せず「常に矢印を自分に向けて」邁進【インタビュー】
トップ昇格は叶わず。京産大へ進学し1年から出番を掴む
関西学生リーグ1部において、開幕3連勝で首位を走る京都産業大。好調を維持するチームの中枢を担っているのが、ボランチの3年生MF食野壮磨だ。
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足もとのボールコントロールに秀で、スピードに乗りながら上半身の動きと細かいステップを連動させて相手守備網を切り裂くドリブルを繰り出す。一方でドリブル一辺倒にはならず、左右両足ともに精度の高いキックを駆使して、ドリブルを仕掛けると見せかけて相手の逆を突くパスを出したり、ワンツーからボックス内に侵入してフィニッシュに関わるなど、ゴール前でのアプローチは多彩だ。
昨季は関西学生リーグ1部のアシスト王に輝いた食野は、今季はゴール量産態勢に入っている。開幕戦の大阪産業大戦でハットトリックを達成。第3節の関西大戦でも中盤の底からドリブルとパスを上手く使い分けて攻撃のリズムを作り出し、13分には中盤の底からFW原田烈志に縦パスを打ち込むと、間髪入れずにゴール前へダッシュ。混戦からのこぼれ球を逃さず決勝点を突き刺した。
これで今季4ゴール目。得点ランキングで2位につけるなど、まさにチームの絶対的な支柱となっている。
食野という苗字を見てピンとくる人もいるだろう。兄はガンバ大阪からマンチェスター・シティに移籍し、そこからスコットランド1部のハーツ、ポルトガル1部のリオ・アヴェと渡り歩き、現在はエストリル・プライアでプレーしている食野亮太郎だ。
兄と同じくG大阪Jrユース、ユースと進んだ弟は、兄を追うように高3の時には2種登録されると、2019年3月31日のJ3リーグ・Y.S.C.C.横浜対G大阪U-23の一戦では、兄弟アベック弾を挙げるなど順風満帆なサッカー人生を送っていた。
しかし、その年の夏に告げられたのは、トップ昇格ができないという事実だった。食野のサッカー人生で、兄と進む道が別れた瞬間でもあった。その後は京産大への進学を決めると、1年から出番を掴み、現在の活躍に至っている。
「兄を含め周りどうこうとは考えていません」
大学サッカーで成長を遂げている食野に、あえてこのタイミングで「兄と比べて自分は遠回りをしている感覚はありますか?」とストレートに聞いてみた。すると、彼ははっきりとこう口にした。
「まったくないです。なぜかというと、もちろん兄のようにトップに昇格して1年目から試合に出るのが理想でしたが、高3の僕にそのような実力があったかと言われると、正直厳しかったと思います。もちろん悔しさはありましたが、すぐに大学サッカーでしっかりと自分を鍛えようと思った。4年間を積み重ねてプロになった時に、1年目からどう活躍できるかが重要で、その自分になることが目標なので、兄を含め周りどうこうとは考えていません」
胸がすくような答だった。本人にとっては気分の良い質問ではなかったかもしれない。だが、食野は嫌な顔一つせず真っすぐに受け答えをしてくれた。ここから紡がれた言葉は、芯の強さと目標へと突き進む信念が滲み出るものだった。
「僕は、兄だからとか、基本的に他人を意識しません。これは性格なんですかね。人がどうよりも自分がどうかが大事だと思っていて、自分がきちんとやることをやれば誰かは見てくれるし、結果もついてくると思うんです。常に人に矢印を向けないで自分に向けたいですね」
だからこそ、トップ昇格が叶わなくても、すぐに次の道に目を向けることができた。数ある大学の中で、当時1部リーグで苦戦を強いられていた京産大を選んだのも、1年生の時から試合に出たいという気持ちと、京産大の在籍メンバーやサッカーを見て、「自分が入ってからの2年後、3年後には絶対に今以上に良くなっていると思ったから」と、今ではなく先を見据えていたからであった。
さらに兄やG大阪ユースの同期、先輩や後輩の姿を見て、プロの世界で生きていくことの大変さを目の当たりにしていることも大きかった。
「物事は思い通りに行かないのは当たり前やし、兄だけではなくどの選手を見てもそうだなと思う。やっぱり自分が思い描いた通りに行く人生を過ごしている人ってほんの一握りやと思うし、人生ってそんなもんやと思っています。兄貴と僕は違って、楽観的なので、反面教師にする時もあれば、応援する時もある。でも最終的には自分のことは自分次第なんです」
プレースタイル同様、サッカー人生も意欲的
他人がどこにいるかではなく、自分がどこにいるか、どこに行きたいか。食野はその観点を大事にしている。
ここで1つ疑問が浮かぶ。どうしてその心理に至ったのだろうか。聞けば「僕はそれをすでに受け入れているからじゃないですかね」と笑った。
「兄貴がプロサッカー選手という存在である以上、これは自分でコントロールできることではないんです。兄がユースからトップに昇格して、トップで試合に出場してヨーロッパでプレーしているという事実を変えることができないのであれば、自分で『食野壮磨』という一選手として認められる存在になればいいだけの話です。
それに僕はプロになるために大学に入っているので、そこで妥協とかしてはいけないと思っています。自分に対する甘えはないし、それに加えて家族によって大学に行かせてもらっているという感謝の気持ちがあれば、どんな時も自分に矢印を向けることはできると思います」
今季は、まずまずのスタートダッシュを切ることができた。だが、それも持続して1年を通じて活躍することが重要になる。
「まだまだゴールへの意欲は足りないと思っています。ボールを動かすサッカーを体現する、プラス、球際を激しく泥臭く戦うことの2つができれば、関西で圧倒して全国で通用するチームになると思う。個人的には今年で進路を決めるつもりでやっていますし、チームも去年2位という成績を残したので、今年こそは優勝したいと思っています」
野望に燃える20歳。自身のプレースタイルのようにサッカー人生も意欲的に、頭をフル回転させながら真っ直ぐに突き進んでいく。要所で自分と向き合うことを怠ることなく――。
最後に、大学サッカーでの日々について語ってもらった。 「自分にベクトルを向けつつ、一歩引いた視点も忘れない。この考えを持てたことが大学に来て良かったなと思うことの1つでもあります。もし高卒でプロに行っていたら、ここまで一歩引いた目線は持てなかったかもしれない。
周りから見れば大学4年間は遠回りに映るかもしれないですが、大学サッカーだからこそ学べたことだと思うし、この時間を過ごす意義だと思っています。高校の時よりサッカーに対してよりストイックになることができています。
これから先もさらに自分に対して厳しく、人に対して目を向けて感情に流されることなく、ちゃんとした人としての会話ができる選手になっていきたい。そうなることで心身ともにチームを引っ張っていける存在になれると思いますし、プロになって1年目から活躍できる選手になれると思っています」