【番記者の視点】G大阪DF藤春広輝、2年半ぶりゴール にじむ“ワンクラブマン”の矜持

◆YBCルヴァン杯 ▽1次リーグA組第4節 G大阪2―0大分(13日・パナスタ)

90分のフル出場を果たし、藤春は膝に両手をついた。2―0で大分を下し、ルヴァン杯の今季初勝利。前半13分には、相手DFのバックパスを狙い、GKとの1対1を制して貴重な先制ゴールも決めた。自身の得点は19年10月4日の札幌戦以来、約2年半ぶり。試合後のミックスゾーン、久々に奪ったゴールの感想を聞くと「そうっすね…90分やったのも久しぶりやったんで。90分できたことが良かったです」と的外れな答えが返ってきた。

G大阪一筋、12年目。“ワンクラブマン”と呼ばれるJリーグでも数少ない選手のひとりだ。抜群のスピードと無尽蔵のスタミナを武器に、長年左サイドバックのレギュラーとして活躍してきた藤春も33歳となった。今季は負傷で出遅れ、ここまでリーグ戦の出場はなし。25歳DF黒川圭介に、レギュラーポジションを譲っている。それでも「自分の中ではコンディションはまだまだ。圭介のほうが走れるし、コンディションの良さでは圭介が全然上。そういう面では納得しています」と現状を冷静にとらえていた。

大阪体育大卒の1年目から、藤春を取材してきた。スピードは抜群だが線は細く、当時はファストフードが大好物と公言する姿に、不安を抱いたこともあった。しかしJ屈指の左サイドバックへと成長し、2015年には日本代表へ。ポジションを争うDF長友が、食事面に徹底して気を遣う姿に「長友さん、めっちゃ苦いお菓子(ナッツ系?)食べてました。おれは無理ですわ…」と笑う彼に、苦笑いでしか返せなかった。30代の彼がどうなっていくのか、心配に思ったことは何度もあった。

キャリアとともに食事への意識は変わったが、年齢とともに落ちやすいと言われるスピード系のプレースタイルと、リーダータイプとはかけ離れたマイペースな性格もあって、ベテランになった姿は想像しがたかった。30歳をこえたサッカー選手は、ピッチ上だけではなくピッチ外での貢献も求められるようになる。その変化に対応できず、出場機会が減ったベテランが、プライドの示し方を間違えてチームの輪を乱す、などという事態は、プロの世界で何度も目にしたこともある。

しかし藤春は「別に試合に出られていないから、腐ることも全然ないですし。普通に毎日、練習中も100パーセントを出して、試合も出るチャンスがあればやるだけなんで」と当然のように話していた。その事実は、片野坂監督が「藤春はトレーニングも非常に集中して、チームのためにやってくれている」と評し、左サイドのポジション争いが激化したことをうれしい悩み、と語ったことでも証明された。

彼の振る舞いは、出場機会が減っても黙々と準備を続けたMF明神や二川ら、かつての黄金期を支えた選手たちとも重なる。彼らとともにプレーし、背中を見続けてきた藤春は、今や歴史を次世代へと伝える役割を担う。リーグ戦で出場機会が少ない選手たちが数多く起用され、若手たちも必死にアピールして勝利という結果をつかんだこの日の大分戦。出し惜しみのない上下動でチームに貢献した藤春の姿に、後輩たちも感じるものがあったはずだ。

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