ジュビロ遠藤保仁が移籍後初対戦となった古巣ガンバを震え上がらせた”凄み”とは?「スペースと時間を与えるな」と敵将警戒も
明治安田生命J1リーグ第4節が12日に行われ、ジュビロ磐田の元日本代表MF遠藤保仁(42)が、約19年9ヵ月にわたって在籍した古巣ガンバ大阪と対戦した。
ホームのヤマハスタジアムにガンバを迎えた昇格組の磐田は前半15分、遠藤の縦パスを起点に敵陣でテンポよくパスをつなぎ、最後は元ガンバのFW大森晃太郎(29)が先制ゴールをゲット。しかし、勝利目前の後半43分にFWレアンドロ・ペレイラ(30)に同点ゴールを喫し、そのまま1-1で引き分けて今シーズン2勝目を逃した。
2020年10月に磐田へ期限付き移籍し、今シーズンから完全移籍に切り替えた遠藤がガンバを敵に回すのは、京都パープルサンガ(現京都サンガF.C.)時代の2000年8月12日以来、実に7882日ぶり。衰えを見せないパフォーマンスに対して、試合後にはガンバの片野坂知宏監督(50)やキャプテンのMF倉田秋(33)から称賛の言葉が相次いだ。
遠藤が作った先制点への起点
J1リーグ戦における通算出場試合数を歴代最多の「645」に伸ばした遠藤のキャリアのなかで、対戦相手がガンバとなっているのはわずか「6」しかない。
しかも、これまでの最後の対戦は京都時代の2000年8月12日。敵地・万博記念競技場で先発フル出場するも、0-3の完敗を喫した20世紀にまでブランクが生じる状況でも、稀代のパサーは喜怒哀楽を共有した盟友たちに対して、つかみどころのない飄々とした存在感を放ちながら、それでいて試合を動かす役割を担い続けた。
ガンバのトップチームコーチおよびヘッドコーチを計5年間務め、大分トリニータの監督をへて、今シーズンからはガンバの指揮を執る片野坂監督が試合前に選手たちに与えた指示を聞けば、遠藤が相手チームに与える“怖さ”が伝わってくる。
「ヤット(遠藤)に時間を与えると攻撃の起点になられて、すごくいいボールを前線に供給されるので、できるだけスペースと時間を与えないように、という話はしました」
しかし、ミッションは完遂されなかった。両チームともに無得点で迎えた前半15分。遠藤が振りかざした“右手”が、磐田に先制点をもたらす起点になった。
まずはガンバのMF山本悠樹(24)が自陣左サイドの中央で、至近距離にいた磐田のMF松本昌也(27)のほぼ正面にパスを出す痛恨のミスを犯した。まさかの展開に松本もマイボールにできず、後方に弾んでいったこぼれ球を必死に追いかけた。
次の瞬間、右手を介して松本に“待った”をかけ、右足のスパイクの裏でボールを止めたのが、センターサークル付近に下がっていた遠藤だった。
顔を上げた遠藤は状況を確認し、すかさず前方のDF鈴木雄斗(28)へ縦パスを通した。攻撃に移りかかっていたガンバの対応が遅れ、後手を踏んでいくなかで鈴木からFW杉本健勇(29)、そして再び鈴木へとテンポよく短いパスが回っていく。
そして、鈴木がワンタッチで放った横パスを杉本がスルーする。ガンバの選手たちはまったく反応できない。左サイドからペナルティーアーク付近へ、フリーで走り込んできた大森が狙いを定めて右足を振り抜き、ゴール右隅を正確に射抜いた。
ガンバの下部組織で育ち、ガンバでプロデビューを果たした大森がFC東京時代の2019シーズン以来、3年ぶりとなるJ1でのゴールを満足そうに振り返った。
「雄斗(鈴木)からいい形でボールが来たのと、あとは前方の守備陣があまりプレッシャーに来ていなかったので、コースも見えていたなかで流し込むだけでした」
足裏を駆使した遠藤のトラップから、大森がゴールネットを揺らすまでに要した時間はわずか6秒。しかし、試合後にJリーグが発行する公式記録の得点経過欄には、磐田の先制点に関しては杉本と鈴木、そして大森の背番号が記されていただけだった。
瞬時にガンバの守備陣形を確認し、攻守を逆転させるきっかけとなる素早い縦パスを放った遠藤の背番号「50」は見当たらない。コロナ禍で実施されてきた、両チームから2人ずつが対応する試合後のオンライン取材にも選ばれなかった。
もっとも「黒子」や「いぶし銀」という言葉で形容される存在感は、遠藤自身が望むものでもあった。歴代最多の「152」のキャップ数を誇る日本代表にも通じる自身の存在価値を、遠藤は「目立ちたいとは思っていない」と語ったことがある。
「僕の役割は守備と攻撃のつなぎ役なので、自分が一番になりたいとも思わない。ただ、目立つ、目立たないは別にして、チームにとって絶対に必要な選手にはなりたい」
出場機会を求めて2020年10月にガンバから期限付き移籍で加入し、今シーズンからは完全移籍に切り替えた磐田でも、必要不可欠な存在になって久しい。
1年目こそ自身が加わる前の取りこぼしを挽回できず、J1復帰を逃した。一転して開幕前のキャンプから時間を与えられた昨シーズンは、J2リーグ戦で最多の総得点「75」を叩き出し、リーグ優勝を果たした磐田の中心で攻撃のタクトを振るい続けた。
遠藤が貫き通した矜恃は、現代サッカーに対するアンチテーゼでもある。
「ハードワークやフィジカルが重視される世の中になっているけど、試合に変化を与えられる選手は見ていて美しいと僕自身はずっと思ってきたので」
1対1の勝負は極力挑まない。味方との何気ないパス交換の繰り返しにも、ボールを回し続ける展開にこそ意味があると胸を張る。そして、すべてのプレーでシンプルを心がける。黒子に徹しながら、わずか1年半で磐田のカラーを変えた。
今シーズンからガンバのキャプテンを務める倉田にとって、国内三冠を独占した2014シーズンを含めて長く中盤で共演した遠藤と敵味方で対峙するのは、セレッソ大阪へ期限付き移籍していた2011シーズン以来、11年ぶりだった。
敵となった遠藤を問われると、抱き続ける憧憬の思いを言葉に変えた。
「やっぱり上手いですね。上手いというか、イヤらしいというか、独特な間合いでボールを持たれるので、飛び込めへん、という久々の感覚を味わわされました」
期限付き移籍する場合には、保有権を持つチームとのすべての公式戦に出場しない、という契約を交わすケースが少なくない。しかし、遠藤の場合は3シーズンぶりにJ1へ復帰する磐田への完全移籍が昨年末に発表された。
敵味方になって戦う光景を承知した上での決断。ガンバの公式ウェブサイト上で、遠藤は古巣へ感謝の言葉を綴りながら再会を約束している。
「めちゃくちゃ楽しい時間を過ごすことができました。これからもガンバ大阪のさらなる発展を期待しております。(中略)またお会いしましょう」
最初の再会を果たした敵地に駆けつけたガンバのファン・サポーターからは、先発メンバー発表で「遠藤」の番になると、ひときわ大きな拍手が起こった。
そして、開幕から4試合連続でボランチとして先発した遠藤は後半34分までプレー。もうひとつの古巣である京都を4-1で一蹴した前節に続く、今シーズン2勝目をベンチから託していた終了直前に、意地を見せたガンバに追いつかれた。
リーグ戦での次なる再会、すなわち慣れ親しんだパナソニックスタジアム吹田へ乗り込むのは、最終第34節のひとつ前の10月29日。J1の舞台で戦いながら、そのときには磐田をどのような位置に導いているのか。MF小野伸二(42、北海道コンサドーレ札幌)に次ぐ、今シーズンのJ1で2番目の年長プレイヤーのチャレンジは続く。