既に退場者9人の異常事態、Jリーグで何が起きている?
2022シーズンの明治安田生命Jリーグも開幕して2週間が経過した。
カタール・ワールドカップ(W杯)がシーズン終了後にあることから、今シーズンは非常にタイトなスケジュールとなり、休みなくシーズンが続いていく。
特にJ1では、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)に出場するクラブは4月にグループステージが集中開催されることもあり、4クラブは開幕からミッドウィークを合わせて5連戦に。開幕から10日間で、J1は20試合が開催された。
3連覇を目指す王者の川崎フロンターレが既に黒星を喫していたり、優勝候補にも挙げられていた浦和レッズが3試合未勝利で2敗を喫したりするなど予想外の展開もある中で、FC東京が新型コロナウイルス(COVID-19)のクラスターが発生したことで活動停止に追い込まれるなど、開幕からこれまでのシーズンとはまた違う展開を見せている。
そんなシーズン序盤戦だが、1つの違和感がある。それは圧倒的に退場者が多いということだ。
◆今季は既に9選手が退場に
2021シーズンから明治安田J1ではVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が全試合で導入され、オフサイドのシーンやPKの判定、レッドカードが提示される場面などで介入する。
2022シーズンも同様にVARが介入している中、ここまで20試合が開催され、イエローカードは43枚提示。そして、レッドカードは既に9枚提示されている状況だ。
2021シーズンは20チームで戦うなど試合数も異なるが、3節分の試合が行われている状況と考えて28試合を対象にデータを見ると、イエローカードは46枚、レッドカードは2枚という状況だ。
単純比較はできないが、明らかに今シーズンはレッドカードが多く出ている状況。さらに、2枚のイエローカードで退場になっている選手が既に4名いる。その点は、Jリーグの結果を追っている方は気付いているはずだが、ここまで退場者が出るのは普通ではないと言っても良いだろう。
ちなみに、2021シーズンで9人目の退場者が出たのは第8節で4月7日のこと。今シーズンは開幕が1週間早かったが、2月中に9名も退場しているのだから、異常と言って良いだろう。
◆9人の退場を改めて振り返る
では、なぜここまでレッドカードが増えているのか。無闇矢鱈にカードを主審が出しているということなのだろうか。今シーズンの退場シーンを1つずつ観ていきたい。
【1】パトリック/ガンバ大阪
2022シーズン最初に退場になったのはG大阪のパトリック。この退場は、ボールとは関係ないところでの「乱暴な行為」と判断された。
鹿島アントラーズとの試合で、パトリックは鈴木優磨のタックルを受ける。ただ、こぼれ球を拾いに行こうとしたところ、鈴木がパトリックの足を抱え込む状況に。これを振り払おうとした行為がヒジ打ちと判断され、レッドカードが提示された。
報復行為と取られたプレーだが、VARの介入はなし。主審の一存で決められた訳だが、鈴木が足を抱えていたという行為は見逃されることとなった。公式な見解ではないが、昨季まで主審を務めていた家本政明氏は「妥当ではない」との見解を示していた。
【2】大岩一貴/湘南ベルマーレ
大岩は今シーズン最初に2枚のイエローカードで退場となった。11分に、ハーフウェイライン付近で相手からボールを奪おうとタックル。このシーンは足を上げてのスライディングでイエローが出ても仕方がない。
そして2枚目は34分。フィードに抜け出そうとした細谷真大に対して、大岩が対応。しかし、上手く対応できず、抜け出す細谷の左手を明らかに掴んで倒したため、イエローカードが提示。退場となった。カードをもらっている状況で、明らかに抜け出す相手を手で掴んだ行為はイエローが妥当。軽率なプレーだったと言えるだろう。
【3】扇原貴宏/ヴィッセル神戸
扇原は2-0で追いかけていた58分に退場。前掛りになっていたところを名古屋がカウンター。レオ・シルバのスルーパスに酒井宣福が完全に抜け出ようとしていたが、後ろから追いかけてきた扇原が手を使って倒してしまい一発退場。「DOGSO(決定機阻止)」を取られたものだ。レッドカードが妥当だと言える。
【4】明本考浩/浦和レッズ
明本は報復行為を取られて退場に。ロングボールを小林友希と競り合っていると、小林が腕を掴んでいたため、主審もファウルの笛を吹いた。しかし、その後何かを言い合うと、明本が小林の首元に手を出してしまい、これが報復行為となった。
それまでも厳しいチェックを受けていながらカードが提示されていなかった展開はあるものの、明らかに相手に手を出した報復行為はレッドカードが妥当だ。
【5】山本義道/ジュビロ磐田
静岡ダービーでのプレー。17分にハーフウェイライン付近でベンジャミン・コロリがパスを受けて戻したところ、遅れて後ろからチャージとなりイエローカードが提示された。
その中で迎えた74分、1点を追いかける磐田だったが、後方からの清水のビルドアップのパスが滝裕太に入ると、山本が足元にタックル。滝は起き上がれなかったが、プレーを主審が止めてイエローカードを提示。2枚目で退場となった。このシーンは、山本のタックルは遅れてかなり深かったものの、途中で止まるような動きを見せたがヒザに接触した。これは今シーズンの「レフェリングスタンダード」の影響もありそうだ。
【6】ファビアン・ゴンザレス/ジュビロ磐田
1点を追いかける磐田。山本義道が退場となり、数的不利の中でも果敢にゴールを目指していた。そんな中、自陣からのロングフィードをファビアン・ゴンザレスが競り合うと、空中で鈴木義宜と接触。映像では、左腕を振り鈴木の顔面を叩いているようにも見えて一発退場となった。これも山本同様、「レフェリングスタンダード」が関わってきそうだ。
【7】岩尾憲/浦和レッズ
こちらも2枚のイエローカードでの退場となったケース。まずは30分にドリブルを仕掛けて抜け出そうとしたレアンドロ・ペレイラを追い掛けた岩尾の足が引っかかりイエローカードが出された。
そして2枚目は81分。左サイドでのパスが繋がらず、ルーズボールに対して石毛秀樹が反応。これに遅れて岩尾がタックルしたが、深く足にタックルしてしまいイエローカード。退場となった。イエローカードとしては妥当であり、1枚もらっていた中でのプレーだが、防ごうとした結果と言えるだろう。「レフェリングスタンダード」の案件とも言えるかもしれない。
【8】畠中槙之輔/横浜F・マリノス
畠中も2枚のイエローカードで退場した。まずは30分、右サイドを仕掛けたドウグラスと接触した。スローインを受けようとしたドウグラスが胸トラップ。そこに遅れて入った畠中が体ごと衝突し、イエローカードを受けた。
そして2枚目は5分後。左サイドをドウグラスがドリブルで突破しようとしたところ、一対一の局面で体をぶつけに行って突破を止めることに。この行為がオブストラクションを取られてイエローカードとなった。このプレーの少し前に畠中はハムストリングを気にしていた中で、スプリントができない状況だったのだろう。その結果がコンタクトとなり、退場となってしまった。
【9】岩田智輝/横浜F・マリノス
数的不利で2-1という状況の中、84分に柏レイソルがカウンター。右サイドを突破しようと細谷真大が抜け出そうとしたところ、対応した岩田が競り合いで倒してファウル。イエローカードが提示された。
このプレーにはVARが介入。主審はオン・フィールド・レビューを実施した。映像では細谷が一瞬前に出てボールを持ち出そうとした瞬間に、岩田が手を使って倒しているようにも見える。厳しい判定となったが、主審が自身の目でチェックしてイエローカードからレッドカードへと変更した。DOGSOということになるだろう。
◆ジャッジの基準ともなる「レフェリングスタンダード」
9つの退場シーンを見直したところ、ほとんどは妥当な判定だったと言える。
パトリックの退場に関しては、VARが介入してチェックをしていればレッドカードではなかったようにも思える。岩田の退場も、主審によってはイエローカードのままだった可能性もある。ただ、残りは全て妥当と言って良いだろう。
その中で、磐田の2選手、そして岩尾に関しては、「レフェリングスタンダード」が影響したようにも思える。
「レフェリングスタンダート」とは、ジャッジの基準となるもの。FIFA競技規則に基づくものとなっている。今年のテーマの1つには「選手生命を脅かすようなプレー」というのがある。
「選手生命を脅かすようなプレー」とはいわゆる危険なプレー。相手の選手がケガをする可能性がある激しいタックルや、ヒジ打ちやハイキック、など明らかに危険なプレーを指す。
磐田の山本の場合、2枚目のイエローカードをもらったシーンは、激しく接触はしていないものの、遅れたタックルで深く足元に入っている。その結果、足にスパイクが入ったわけではないが、ヒザが接触。危険なプレーとなった。一発退場ではなくイエローカードということを考えれば、1枚もらっている状況で行うべきタックルではなかったと言えるだろう。
ファビアン・ゴンザレスはより明確に「選手生命を脅かすようなプレー」だった。故意かどうかは定かではないが、不必要に左腕を振り、鈴木の顔面を叩く形となっていた。当たりどころが悪ければ、大ケガにになっていた可能性もあり、レッドカードは妥当と言える。また、岩尾のプレーは山本と同様に、傷つけるためのプレーではなかったが、結果的に遅れて深く入ってしまった。石毛に完全に接触しており、1枚イエローカードをもらっている状況で選択すべきプレーではなかったと言える。
試合の流れ、試合を通してのレフェリングなど、ファウルになる、カードが出る要因は様々だ。また、年々プレースピードが上がり、強度も上がっている状況を考えると、ファウルになるプレーが増えることも致し方ないと言える。
ただ、この9人の退場の場合、ほとんどは誤ったジャッジとは言えない状況。開幕して2試合、3試合では異常とも言えるが、審判側も、そして選手側もジャッジの基準を作っていかなければいけない。この先もこのまま退場者が続出するようではいけないが、シーズン開幕したての状況で、一種の基準があるとも言えるだけに、選手側がまずはアジャストしていく必要がありそうだ。