ガンバ大阪を強くするためにやってきた齊藤未月。「Jリーグでもう一度、自分の価値を示したい」
Jリーグ2022開幕特集ガンバ大阪/齊藤未月インタビュー チームの始動日からはやや遅れて、沖縄キャンプからチームに合流した齊藤未月は、ガンバ大阪への期限付き移籍に自身の”再生”を誓った。
「2016年にプロになってから、僕は大きなケガもしたことがなく、正直プロ生活のなかでつまずいたというような経験をしたことはありませんでした。ただ、ルビン・カザン(ロシア1部リーグ)に行って初めてケガをして、手術もし、チームの問題や僕自身の実力不足もあって、あまり試合に出られず……。
結果的に、コンディション的にも、プレーとしてもうまくいかないという悔しい時期を過ごして日本に戻ってくることになりました。ですが、そのことが一概に悪いとは思っていないというか……。当然ながら、ケガをせずに戦えるのも選手としての実力、能力だとは思いますけど、それも含めてサッカー選手だと考えれば、大事なのはこの先のキャリアにおいて『あの時、ケガをしてよかったな』『ロシアでいろんな経験をしてよかったな』と思えるようにすることだと思っています。
そのためにも、ガンバで試合に出て、ガンバを勝たせたいという気持ちは強いです。個人的にはまた海外にチャレンジしたいという気持ちもあるし、日本代表としても戦いたいと思っているので、そこに近づくためにもガンバで活躍を見せなければいけないし、もう一度、しっかりとJリーグの舞台で自分の価値を示していきたいと思っています」
アカデミー時代から在籍していた湘南ベルマーレに戻る選択肢もあったなかで、あえて初めての関西、ガンバでのプレーを選んだのは、オファーに際してクラブから伝えられたビジョンに気持ちが動かされたからだ。そのうえで、今年からチームの指揮を執ることが決まっていた片野坂知宏監督の存在も決め手になった。
「昨年のガンバは、新型コロナウイルスの影響もあって大変なシーズンになったと聞いていますが、それ以前のガンバには前線にタレントがいて、攻撃も守備も手厚く戦ってくるチームだなというイメージがありました。そのなかで今回、クラブから伝えていただいた、強いガンバをとり戻したい、その一員として戦ってほしいという言葉に感銘を受けて、僕も強いガンバをとり戻す、その輪のなかにいれたらいいなと思いました。
また、勝っていない時期のガンバにはチームとしてのベースになるものがあまりなかったんじゃないかという印象を持っていましたが、今シーズンから監督に就任されたカタさん(片野坂監督)には大分トリニータの監督をされている時から、チームとしてのベースをしっかり作られる監督という印象があります。実際、大分と対戦した際にもそれを体感したし、Jリーグであれだけのサッカーをされてきたことを考えても、学べることは多いんじゃないかと思っています」
加えて言うならば、その片野坂監督のサッカーに自身のプレースタイルが合致すると思えたことも、気持ちを動かされた理由のひとつだ。事実、ボールを握りながら攻守にアグレッシブに躍動するサッカーを目指すにあたり、齊藤が湘南時代や世代別代表で示してきた持ち味は間違いなくリンクしていくことだろう。
「僕の特徴はハードワークと、ボールを奪いきれること。攻守において『ボックスto ボックス』でプレーできるのは一番の良さだと思う。また、先輩後輩に関係なく、チームを良くするための発言ができるのも持ち味だと思うので、そういった部分はチームにもプラスの影響を与えられるんじゃないかと思っています。
ただ、守備の部分で自分からアクションを起こすプレーは僕の特徴ではあるとはいえ、今は守備だけをやっていればいいという時代ではないからこそ、攻撃でももっと自分からアクションを起こしていきたい。ガンバの前線には特徴のある選手がいるからこそ、そこに一旦預けて、自分が中に入っていってゴールを狙うといった攻撃面でのプレー精度はもっともっと高めていきたいし、ゴール、アシストといった明確な結果も自分に求めたいところです」
その言葉にある”攻撃でのアクション”は、実はロシアでの1年間で自身に足りていないと気づいた部分だという。残念ながらルビン・カザンではケガもあって公式戦から大きく遠ざかったが、普段の練習を含め、新たな環境に身を置くことで感じられたことも多かったようだ。
「日本では、周りの選手を助けてあげよう、とか、このプレーをしてあげようというマインドでプレーする選手が多い気がしますが、海外ではどちらかというと『そこは自分でやれよ』感が強く、ボールを持っても孤立することがすごく多かった。それを体感したことと、ロシアでは毎日、対人の練習が多く、必然的にゴールに向かう、ゴールを決める意識をより強めることができたなかで、自分からアクションを起こして攻撃に、という意識はこれまで以上に強くなりました。
湘南でプレーしていた時代は曺貴裁監督(現京都サンガF.C.監督)の目指すサッカースタイルもあって、僕自身がボールを持つ時間はすごく短かったですが、ガンバではボールを保持したサッカーを目指すなかで、僕自身ももう少し自分でボールを持って仕掛けていくとか、ゴールに直線的に向かっていくプレーを出していければいいなと思っています」
それによって、バージョンアップした齊藤の姿をピッチで楽しむことができれば、また、彼が描く「チームの多くの勝利のために、多くの数字を残す」という目標が実現できれば、間違いなくそれは、新たなチャレンジへの活路を見出すことにもつながっていくだろう。
「日本代表はどの選手も目指している場所。僕自身もサッカー選手である以上、日本代表に選ばれて、日本という国を背負って戦いたいという気持ちは強く持っています。
世代別代表で一緒だった同世代の選手が選ばれていることに刺激を受けて、なおさら『自分も』とも思います。森保一代表監督は、チームで結果を残している選手を招集している印象もあるので、自分もしっかりチームでの結果を出すことで狙っていければと思います」
ジュニア年代から湘南ひと筋でプロに上り詰め、10代の頃から湘南の顔として活躍を見せてきた齊藤。世代別代表ではU-20日本代表のキャプテンとして、2019年U-20ワールドカップに出場したこともあり、東京五輪での活躍を期待された選手のひとりだった。結果的にルビン・カザンでのケガが響いて、五輪の舞台に立つことはできなかったが、その事実は彼のキャリアを否定するものではない。いや、そのことはきっと、”ガンバ大阪・齊藤未月“が教えてくれる。
齊藤未月(さいとう・みつき)1999年1月10日生まれ。神奈川県出身。湘南ベルマーレのアカデミーで育ち、2016年にプロ契約。2017年シーズンからはチームの主力として活躍した。2020年シーズン終了後、ロシア1部リーグのルビン・カザンへ期限付き移籍。ケガなどもあって思うような活躍ができず、今季からガンバ大阪に期限付き移籍。攻守において安定感のあるプレーが売りのミッドフィルダー。