宇佐美貴史「自分を更地にする」。王者からオファー受けるも残留を決めたエースの覚悟

Jリーグ2022開幕特集ガンバ大阪宇佐美貴史インタビュー

宇佐美貴史にとって昨シーズンは、ガンバ大阪に在籍していたなかで最も苦しい時間になった。

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「点をとることで、自分の存在価値を示すのが使命。応援してくれている人たちに『ガンバには宇佐美がいる』と心強く感じてもらえる存在でありたい」

開幕前にはそう話していたにもかかわらず、これほどまでに「点をとること」から遠ざかったシーズンはなかったからだ。

事実、J1リーグで挙げたチームの総得点が40を下回ったのは、1999年以来のこと。物心がついた時からガンバとともにサッカー人生を歩み、FWとしての強い使命感のもとで戦ってきた彼にとって、この結果がどれほど屈辱的だったのかは想像に難くない。

開幕直後に選手、スタッフ合わせて数名が新型コロナウイルスに感染。約2週間の活動休止を余儀なくされ、猛暑のなかで怒涛の21連戦を戦わざるを得なくなるなど、日程に苦しめられた部分も大いにある。

だが、だからといって、そのことが本人の悔しさを軽減してくれるはずはなかった。それゆえ、シーズンが進んでもチームの攻撃が形づくられていかないことに、点をとれない自分に、そして何より彼が常日頃から口にしてきた「ガンバを勝たせる」ことができない事実に、苦しんだ。

異例の連戦でも、フィールドプレーヤーで唯一、リーグ戦全試合に出場を続けたのはある意味、彼のエースとしての自覚、プライドがあってこそだが、一方でピッチに立ち続けるほど、自身へのジレンマを募らせていたのも確かだった。

「2014年、2015年もそうですが、自分が点をとれていたシーズンは上位を争い、自分がとれなかったシーズンは昨シーズンも含めて下位に低迷してきたと考えても、少なからず自分の結果とチームの結果がリンクしてきたところはあったと思う。それだけにチームの結果には責任も感じているし、そういう悔しさや自分への不甲斐なさは、今後のエネルギーに変えてやっていかなければいけない」

そうして迎えた今シーズン。宇佐美は「自分を更地にする」ことから着手した。自分らしい”成果”を求めるために、だ。

「ピッチでの結果を意識すればこそ、今一度自分の強みが何かを考え直すことから始めたい。これは、過去の自分から強みを考え直すということではなく、自分がドリブラーなのか、シューターなのか、パサーなのか、もっといえばFWかDFかさえもわからないくらいまで一旦叩き潰したうえで、自分に何が残るのか、本当の武器は何なのかを知りたい。

それが結果的に過去の自分の強みと重なるかもしれないけど、結局、プロの世界は自分の強みからしか”成果”は生まれないと思うから。もう一度、自分の強みが何かを整理し、磨き上げることで、結果に近づけるシーズンにしたいと思っています」

昨年の戦いでは、チームとしても得点シーンをつくり出し、点をとることに苦しんだなかで、宇佐美自身の役割も多岐に渡り、それが結果的に彼をゴールから遠ざけた印象もあったが、そのことも”強み”を見直すことにつながったのだろうか。

「昨年は、前で待っていてもなかなか(ボールが)入ってこなかったというか……。チームとして、攻撃の構築の部分がスムーズにいかないことも多く、結果的に自分も降りて、つくりに参加して、というプレーが多くなっていた。

ただ本来、サッカーは同じピッチに立つ11人が(それぞれの)持ち味、強みを際立たせながら、互いを機能させてゴールを目指すべきですから。たとえば、僕がフィニッシャーの役割を担うなら、ボールを前に運んでくるとか、チャンスメイクすることは他の選手に任せて、自分は仕留める部分に集中したほうが、点をとる確率は間違いなく上がるし、チームにとってもプラスに働く。

そう思えばこそ、今シーズンは、僕の思う”強み”と、カタさん(片野坂知宏監督)が感じてくれる”強み”がイコールなら、当然それを発揮することに集中したいし、仮に自分が思っている以外のプレーに”強み”を感じてくれるなら、それは自分のプレーの”幅”にもつながることやと、ポジティブに受け止めて向き合っていきたいと思っています」

加えて、30歳を迎える節目の年に、宇佐美が担うべき役割として考えているのがプレー以外での貢献だ。沖縄キャンプ終了後には片野坂監督から副キャプテンに指名された宇佐美だが、そうした役職に関係なく、本当の意味でチームをまとめ、牽引するために、必要な行動をとっていきたいと話す。

「今年は日本人選手では上から5番目という年齢になったなかで、このクラブを支えていく、チームを引っ張っていくことに対して、どんな役割を担うべきか、自分なりに考えてシーズンをスタートしました。そのなかでひとつ整理できているのは、自分本位に言葉を吐き出すのはやめよう、ということ。

今シーズンは若い選手が増えたからこそ、ピッチ内の判断にしても、それ以外のことについても、僕から一方的に『これをしろ、あれをしろ』というのではなく、その選手にとってベストなコミュニケーションを心がけたいな、と。

というのも、ドイツ時代ならふだんの練習から遠慮なく自分の考えを言葉にしてぶつけ合うのが日常でしたけど、今のガンバで、とか、日本のサッカー界のなかでそれを年長者がすると、どうしても自分の考えを押しつけることになりかねない。

実際、今の若い選手って、たとえば僕が『この選択のほうがよかったんじゃない?』と伝えた時に、自分の我を通す選手が少なくなったというか、素直に受け入れる選手が多いですから(笑)。その素直さはよさでもあるけど、ともすれば若い選手の勢いや個性を潰すことになってしまうので、今年はできるだけ相手がポジティブな感情になれるような声かけをしていきたいな、と。

ひいては、それが若い選手がのびのびと、いいトライをしていけるような空気につながっていけばいいなと思っています」

目標として描くのは「去年よりよくすること」。片野坂監督が掲げた「3位以内」は当然頭に置いているが、近年の戦いを踏まえ、闇雲に高みを目指すというよりは、チームづくりにまつわるさまざまなことを一つひとつ、着実に積み上げることを意識してシーズンを戦っていきたいという。

「ここまでのチームづくりは、すごくいい雰囲気で進んできたし、『この戦術をモノにできたら、面白いサッカーができるやろうな』という期待感を常に持ちながら進んでいるのもすごくいいことだと思う。

ポジショニングやボールの動かし方などの”狙い”が明確に提示されたうえで、選手の個性が置き去りにされずにチームが形づくられていっていることも、選手が迷いなく、躍動感をもってプレーすることにつながっている。これを続けていけば、どんどん前線に人が出ていくような面白いサッカーができるようになるという確信もあります。

ただ、それがすぐに結果につながるほど、甘い世界ではないというか。近年、継続のもとで結果を出してきた川崎フロンターレや横浜F・マリノスに、たった1、2カ月積み上げただけの僕らがすぐに追いつけるとは思っていない。

そう考えてもやはり大事なのはこの先、日々の練習で、また公式戦を戦いながら、自分たちがどんな”積み上げ”をしていけるか。そんなふうに、昨日より今日、今日より明日と少しずつでも何かを積み上げていくことの先に、理想とする結果があればいいし、それを1年、2年と継続していくことで、『ガンバのサッカー』と呼ばれるものが、本当の意味で形づくられていくんじゃないかなと思っています」

昨年のシーズン終了後、宇佐美にはディフェンディングチャンピオンである川崎からビッグオファーが届いた。そのことについて彼自身は「今、自分がガンバにいることがすべて」と話すに留めたが、答えを出すには時間を要したと聞く。

30歳を迎える自身のキャリア、川崎のサッカースタイル、点をとることへの渇望、幼少の頃から憧れ続けた家長昭博の存在――。それらを総合的に考えても、一プロサッカー選手として頭を悩ませたのは当然だろう。

だが、結果的に宇佐美は今もガンバにいる。そこに、どれほどの思いと覚悟を秘めたのか。きっと我々は今シーズンのピッチで目の当たりにすることになる。

宇佐美貴史(うさみ・たかし)1992年5月6日生まれ。京都府出身。ガンバ大阪のアカデミー育ちのエリート。高校2年時にトップチームに昇格し、20歳になったばかりでドイツの名門バイエルン・ミュンヘンへ期限付き移籍した。その後、ホッフェンハイム、ガンバ、アウクスブルク、デュッセルドルフでプレー。2019年から再び古巣のガンバに復帰。チームの”顔”として奮闘している。

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