“疑惑の判定”G大阪パトリックは退場になるべきではなかった、VARは役割を果たせたか
ついに開幕した2022シーズンの明治安田生命J1リーグ。オープニングマッチとなったフライデーナイトJリーグの川崎フロンターレvsFC東京の“多摩川クラシコ”では、アルベル・プッチ・オルトネダ監督率いる新生FC東京が良さを見せるも、王者が意地を見せて1-0で勝利した。
【動画】改めて見るパトリック退場シーン、レッドカードは妥当なのか
注目を集めた高卒ルーキーのMF松木玖生の高いパフォーマンスなど、開幕ゲームに相応しい内容となり、翌19日に行われるJ1の試合や、開幕を迎える明治安田生命J2リーグに期待が寄せられた。
J1の9試合では、4試合がドローという状況。さらに試合終盤にゴールが決まるという劇的な展開もあった。12年ぶりのJ1となった京都サンガF.C.は優勝候補にも挙げられている浦和レッズを相手に1-0で勝利。同じく3年ぶりにJ1に戻ったジュビロ磐田は後半アディショナルタイムのゴールでアビスパ福岡に1-1で引き分けた。
その中でも一際注目を集めることとなったのが、ガンバ大阪vs鹿島アントラーズの一戦だ。
片野坂知宏監督を招へいし、昨季は長らく残留争いに巻き込まれていたG大阪と、これまでのブラジル路線から大胆な方針転換を行い、スイス人指揮官のレネ・ヴァイラー監督を招へい。そのヴァイラー監督は来日できておらず、今季からコーチに就任した岩政大樹氏が暫定的に指揮を執る鹿島の一戦だ。
リーグ優勝経験もある実力クラブ同士の対戦。新指揮官同士の対決など注目される要素は色々あった。
試合も20分に上田綺世がゴールを決めて鹿島が先制するが、26分には小野瀬康介が決めてG大阪が追いつく展開に。すると30分にはシント=トロイデンでの海外挑戦から復帰した鈴木優磨が勝ち越しゴールを決める点の取り合いとなった。
激しいやり合いになると思われた試合だったが、1つのプレーが試合の流れを大きく変えた。38分、反撃に出たいG大阪のFWパトリックが一発レッドカード。退場処分となった。
◆“乱暴な行為”で一発退場
退場になったシーンを改めておさらいする。37分、鹿島が攻め込む展開の中、ディエゴ・ピトゥカの浮き球のパスを土居聖真がボックス内でシュート。これはクロスバーに嫌われる。
しかし、このこぼれ球を鹿島が回収。G大阪が必死に守るという展開となるが、鹿島はボールを繋ぎ、ボックス手前でボールを受けた鈴木がクロスを入れた。しかし、これはG大阪の昌子源がヘディングでクリア。このクリアボールが鈴木のもとに飛ぶが、石毛秀樹との競り合いでボールは流れることに。これをパトリックが拾い、ドリブルで前に運び出そうとした。
すると、ここで鈴木がスライディングタックル。これはボールに届かなかったが、パトリックも堪え、ルーズボールを拾いに行こうとする。パトリックは鈴木を振り払おうと左手をあげると鈴木は胸を押さえて転がり痛がる。すると、主審が笛。何もしていないとパトリックはアピールするが、荒木友輔主審はすぐさまレッドカードを取り出してパトリックに提示した。
それまでなかなか手を使ったプレーにも笛を吹いてこなかった主審だが、この場面では即座に判断。レッドカードを提示した。公式記録では退場の理由は「S2」。“乱暴な行為”とされている。しかし、この判断は甚だ疑問が残る。
まず、荒木主審のポジショニングだが、パトリックと鈴木が競り合っていた場所からは離れていた。もちろん、鈴木がスライディングをし、パトリックが耐えた後に腕を振り上げる行為は見えたはず。そして鈴木が腹部を押さえてもんどり打つ姿もしっかりと見ていただろう。そのシーンだけを見れば、パトリックが振り上げた腕が当たり、スライディングに対する報復行為だと見える。レッドカードの判定は間違ってはいない。
しかし、現在のJリーグにはVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が導入されている。PKのシーンやオフサイド、そしてレッドカードのシーンなど、VARが介入できるシーンは試合を決定づける重要な局面だ。仮に主審や副審の判定が誤っていた場合は、VARから助言がなされ、映像チェックなどで判定が変わることもある。
このシーンも荒木主審の判断でレッドカードが出されたが、VARも妥当な判定かをチェック。問題があれば、主審に助言をし、OFR(オン・フィールド・レビュー)を促すことなどもあったはずだ。しかし、このシーンではそれはなし。G大阪の選手たちは猛抗議をしていたが、一度出されたレッドカードが変わることはなかった。
◆VARは役割を果たせたのか
ただ、主審から見えていない部分もある。このシーン。鈴木のスライディングでバランスを崩したパトリックだったが、ルーズボールを拾いに起きあがろうとした。しかし、そのパトリックの左太ももを鈴木が右腕で完全に抱え込んでいるのが映像を見ればわかる。VARがこのシーンを見逃したのであれば、怠慢としか言えない。スライディングはファウルに値しなくとも、相手選手を完全にホールドしているのだから、そこはファウルだ。
また、このプレーがパトリックが疑わしい行為に出た理由でもある。1点ビハインド。反撃に出たい状況でカウンターを仕掛けようとして倒されたパトリック。ルーズボールはラインを割る可能性は低く、目の前にあるボールを拾って、攻撃につなげようとしたはずだ。しかし、自分の左足は明らかに相手に抱え込まれ、動きを封じられている。それを離せと相手を剥がす行為は正当だろう。なぜなら相手が明らかなファウルだからだ。
さらに、パトリックは鈴木の胸の辺りをヒジ打ちしたとも見られるが、映像を見る限り鈴木の左太もも辺りを触って剥がそうとしている。ただ、その際にヒジが胸に接触した可能性はある。ただ、故意にヒジ打ちをしたとは映像を見る限り思えない。仮に狙ってするのであれば、明らかにヒジを当てに行くのではないだろうか。鈴木のリアクションもオーバーには見える。
いずれにせよ、VARがしっかりとこの映像をチェックしているはず。レッドカードに値するのかどうかはチェック済みだ。ただ、最終的に決断を下すのは主審。仮にVARからOFRを促す声があったとしても、それを行う義務はない。主審がレッドカードと言えば、レッドカードだ。
◆元審判員の見解も
ただ、全てを加味すれば、このシーンでパトリックにレッドカードを出すのは良い判定とは思えない。悪くても、パトリック、そして鈴木の両者にイエローカードだろう。パトリックにはイエローカードすら出ないかもしれない。いずれにせよ、“乱暴な行為”とは言い難く、喧嘩両成敗というところが妥当ではないだろうか。
この件はG大阪のファン・サポーターだけでなく、他クラブのファン・サポーター、そして鹿島のファン・サポーターからも疑問が投げかけられている。
また、昨シーズン限りで審判を引退された家本政明氏は、自身のツイッターを更新。「みなさんが注目しているガンバ大阪v鹿島アントラーズのパトリック選手のシーン、僕の考えはジャッジリプレイで話しますね」とツイートした。ただ、「あくまで個人的な考えであって、JFA審判委員会の公式見解とは異なる可能性があることはご理解ください」と投稿。DAZNで配信されている「Jリーグジャッジリプレイ」で言及するとしている。判断が妥当だったのか、それとも誤審だったのか。公式見解としてではなく、多くの舞台で笛を吹いた審判員としての判断をするようだ。どのような見解が示されるのかは楽しみにしてもらいたい。
この退場劇でプランが崩れたG大阪は、その後1点を奪われ1-3で敗戦となった。退場が原因とは言えないが、試合を大きく左右するジャッジ。覆るものではないが、ジャッジの理由は誰もが知りたいところだろう。