G大阪パトリックへの“一発退場”を識者はどう見る? 判定そのものは誤審の可能性、VARの在り方にも議論の余地
【識者コラム】G大阪対鹿島で発生、物議のジャッジへ見解
2月19日のJ1リーグ開幕戦・ガンバ大阪対鹿島アントラーズの一戦で、G大阪のブラジル人FWパトリックが一発退場となった一場面を巡って賛否が巻き起こっている。問題のシーンでは、パトリックへ背後からタックルした鹿島FW鈴木優磨に対し、パトリックが腕で押し退けた行為がレッドカードの対象と見なされた。
【動画】G大阪のFWパトリック、鹿島FW鈴木優磨とやり合い一発退場となった問題シーン
しかし、問題のシーンを振り返ると、鹿島FW鈴木優磨が右手でパトリックの左足を抱える形となっていたことから、このジャッジを疑問視する声が続出。議論を巻き起こしている判定に対して、あくまで一意見として識者へ見解を訊いた。
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結論から言うと、ジャッジは誤りと考えられる。筆者の見解では鈴木にイエロー、パトリックにはカードなしだが、いかなる理由であれボールに向かっていないので、その場で振りほどこうとした時点でイエローは妥当という意見もあるだろう。いずれにしてもレッドはあり得ない。
現場で試合を裁く荒木友輔レフェリーは視野が確保できていたように見えるので、その場でのやりとりを見逃していたということは考えられない。ただ、タックルに行ったあとで鈴木がパトリックの左足を掴んでいたことまで、その瞬間に、正確に視認できていたかどうか。
またパトリックがホールドされた状態から、即座に体勢を整えようとしたところで左肘を立てており、レフェリーの視野からだとそれが“肘鉄”での報復に見えたのかもしれない。そこからさらに鈴木の腕を振りほどこうとした流れで、パトリックの左手が身体に触れてはいるが、筆者の見解では不可抗力だ。
問題はこの判定にVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が介入できたのかどうか。鈴木のカードに関してはレッドに相当しない限り、VAR側から介入できないのが現状のルールだ。タックルの角度、ボールの位置、直接ボールにチャレンジしていたかどうか。そして相手の身体をアフターでホールドしたこと。明確な定義が難しいシチュエーションだが、イエローには相当するだろう。
ただ、ゴールに直接関わるシチュエーションでない限り、カードなしかイエローかという領域では介入できない。判定そのものが間違っていても、レフェリーのジャッジが優先されるのはルール上、致し方ないところはある。
レッド取り消し、もしくはイエローに変更することは可能
最大の焦点はパトリックの退場をその場で取り消せたかということ。問題が複雑なのはそこに結局、鈴木の行為も関わってくるからだ。ただし、しっかりと映像確認すれば、少なくともパトリックが報復行為でないことは分かるので、レッド取り消し、もしくはイエローに変更することは可能だ。
これに関してはVARチェックを確認して、主審が必要と判断すればオンフィールドレビュー(OFR)はできたはず。つまり、この時の荒木主審は必要だと判断しなかったと言うことだ。主審が必要ないと判断すればVAR側から強制できない。結局のところVARは主審の目を助ける機能であって、判定の権限は主審にあるからだ。
要するに荒木主審は視野が確保できていた上で、パトリックの反応を退場に相当する行為とみなしてレッドを提示したわけで、VAR側がどういう見解であれOFRは強制できない。
もう一度繰り返すと判定そのものは誤審というのが筆者の見解だが、VARの機能を考えると、主審からのアクションがない限りはこの場で覆せなかったという流れも理解できる。現状のVARの限界と言ってしまえばそれまでだが、ジャッジで大事なのは試合が公正に行われるように導くこと、両チームの選手を守ること、そしてファンができる限りストレスなくプレーに集中できることだ。
その観点から言えば現行のVARは十分に機能しているとは言い難い。ただ、VARが効果を発揮するケースも多々あるなかで、ここからどう運用していくべきなのか。他競技ではより厳格なVTR判定が介入したり、判定に対する異議まで認められているが、サッカーは世界的にもそこまで踏み切っていない。基本的にはピッチのレフェリーが正しくジャッジしていくことが第一だが、ルールのためのルールになってはいけないので、VARの在り方も含めて議論されていく余地は大いにあるだろう。
[著者プロフィール]
河治良幸(かわじ・よしゆき)/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。