中村憲剛と佐藤寿人が気になる今季J1チーム。「彼が抜けたのは大きい」「もっと上に行きそう」
Jリーグ2022開幕特集中村憲剛×佐藤寿人第9回「日本サッカー向上委員会」@中編
1980年生まれの中村憲剛と、1982年生まれの佐藤寿人。2020年シーズンかぎりでユニフォームを脱いだふたりのレジェンドは、現役時代から仲がいい。気の置けない関係だから、彼らが交わすトークは本音ばかりだ。ならば、ふたりに日本サッカーについて語り合ってもらえれば、もっといい未来が見えてくるのではないか。飾らない言葉が飛び交う「日本サッカー向上委員会」、第9回はいよいよ開幕するJリーグ、そしてW杯アジア最終予選が大詰めの日本代表について語ってもらった。
◆第9回@前編はこちら>>「J1戦力分析。フロンターレの不安要素、3連覇を阻む対抗馬は?」
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—- 昨シーズンは3位になった神戸はどう見ていますか?
佐藤 フェルマーレン(→引退)がいなくなりましたからね。
中村 槙野(浦和レッズ→)を獲得して、菊池(流帆)と2CBを形成する感じですかね。あとは扇原(貴宏/横浜F・マリノス→)と汰木(康也/浦和→)を獲った。すでに去年の夏にボージャン(モントリオール・インパクト→)と大迫(勇也/ブレーメン→)と武藤(嘉紀/ニューカッスル→)をいっぺんに獲っていますから、そこまで大幅に手を加えることはなかったんでしょう。
佐藤 僕は名古屋が気になります。監督が(長谷川)健太さんになって、どう変わるか。
中村 出入りが多い印象だけど。
佐藤 レオ・シルバ(鹿島アントラーズ→)、酒井(宣福/サガン鳥栖→)、仙頭(啓矢/鳥栖→)を獲って、前田(直輝/→ユトレヒト)、ガブリエル・シャビエル(→北海道コンサドーレ札幌)、山﨑(凌吾→京都サンガ)が移籍しました。あとは米本(拓司/→湘南ベルマーレ)ですね。彼が抜けたのは意外と大きいのかなと。
中村 前監督のフィッカデンティは、どちらかというとメンバーを固定していた印象があって、出番がなかった選手たちは難しいところがあったと思います。でも、監督が代わったことでそういった選手たちが日の目を見る可能性があるので、そこは期待したいですね。
佐藤 全体的に競争が欠けていた部分は間違いなくあるので、監督が代わってそこがフラットになるのはよかったと思います。
—- 名古屋グランパスと同じく寿人さんの古巣であるサンフレッチェ広島はどうですか。
佐藤 去年はシーズンを通して得点力不足という課題があったので、それをどうやって解消していけるか。なにせ、補強はゼロですから。チーム全体で補っていくしかないでしょうね。
中村 記事を読んだけど、今までと全然違うやり方になるらしいね。ゲーゲンプレスというワードが出ていたね。
佐藤 監督が来日できていないなかで、どこまでそのやり方を落とし込めているか。現段階ではちょっと判断しづらいですね。トレーニングマッチでは結果を出していますけど、そこもあまり評価基準にはならないかなと。
中村 キャンプのトレーニングマッチの勝敗の位置づけはなかなか難しいよね。勝っているのはいいけど、仕上がりが早いからということもあるし。キャンプの結果だけでは読めないんですよ。本当にフタを開けてみないとわからない。ただ、雰囲気を考えれば、負けるよりも勝つほうがいいに決まってる。
—- 期待感はありますか?
佐藤 ないというか、不安なんですよね(笑)。ただ、点が取れるように育つ可能性のある若手がいるので、そこは注目したいですね。
中村 大幅な選手たちの入れ替わりがない分、新監督が来たことによる既存選手たちの新たな可能性の広がりに期待したいところ。
佐藤 憲剛くんがそう言ってくれるとうれしいですね(笑)。戦力的には守備能力の高い選手が揃っているので、そんなに崩れないとは思います。あとはボールを握った時に何ができるか。そこの部分が作れないと厳しいかなと。
中村 監督が変わるということは、間違いなく昨季とは違うものが出てくるはずだから、そこはいちサッッカーファンとして楽しみ。
佐藤 そうですね。そのアプローチは楽しみですし、新しい監督がどういうふうに導いていくのか。ミシャさん(ペトロヴィッチ監督)が来た時のように、新しいものを見せてくれるんじゃないかという期待感はもちろんあります。ただ、現状はそれが何か全然わからないという(笑)。
中村 この時期は見えないからこそ面白いし、ワクワクするよね。
—- 昇格組の2チームについては、どういった印象を持っていますか。
中村 今年の昇格組も、楽しみですね。磐田は(伊藤)彰さんで、京都はチョウ(キジェ)さん。監督のスタイルがはっきりしているから、ブレずに戦えるのではないかと思います。特に京都はかなり補強もしましたし、力のある選手たちがチョウさんの下で鍛えられたら面白そうですね。
佐藤 磐田はルキアン(→アビスパ福岡)が抜けたのは痛いですよね。
中村 だからこそ、彰さんの戦術がどこまで浸透するか、でしょう。新監督という意味では、ガンバもそう。大分で成果を上げた片野坂(知宏)さんのサッカーを、ガンバの選手たちがどれくらいやれるのか。
佐藤 前線は個性が強い選手が多いですからね。
中村 個人的には、宇佐美(貴史)が片野坂さんのスタイルでどういうプレーをするのかが楽しみです。これまではある意味自由度が高かったので、逆にやることが多くなり負担が大きかった気がします。今年は片野坂さんがそこを整理するでしょうから、そのなかで仕事をまっとうすれば、結果も出せるのかなと思います。おそらくシャドーになると思いますが、トップクラスのクオリティを持っていますから。
佐藤 (山口)智さんの湘南も興味深いですね。去年は途中からでしたけど、今年は最初から指揮を執れますから。
中村 智さんになって湘南は、智さんの色が少しずつ出てきているなという印象があります。これまでの湘南のよさにプラスして、ガンバで結果を出した時のエッセンスも加えながらチームを作っていると思います。今季は昨季の途中登板からではなくキャンプからできるので、より智さんの色が出てくるんじゃないでしょうか。
—- そのほかのチームはいかがでしょう。北海道コンサドーレ札幌やセレッソ大阪、アビスパ福岡など昨年中位だったチームがどこまで上位争いに食い込めるか。
佐藤 札幌は(興梠)慎三(浦和→)とガブリエル・シャビエル(名古屋→)が入ったので、得点というところが増えていきそうな感じはしますね。ただ、ふたりとも去年は結果を出したわけではないので、新しいチームでどこまで本来の力を発揮できるか。
中村 慎三はミシャのもとでプレーをしているので、スタイルの面では問題ないでしょう。ただ、コンディションをどこまで上げられるかがカギかなと。シャビエルもミシャのサッカーには合いそうな選手。ミシャは攻撃的な選手の力をマックスまで引き出す監督ですから。
佐藤 セレッソは小菊(昭雄)監督の2年目で、どうなるか。(大久保)嘉人は辞めたけど、昨季飛躍の年になった加藤陸次樹もいますし、清武(弘嗣)と乾(貴士)の2枚看板もいますしね。
中村 小菊さんのスタイルをより出しやすいのは、今シーズンからかもしれないね。昨季は途中からだったから、自身のスタイルを前面に出しづらかったのかなとも思えるし。今年、最初から指揮を執るなかで、どういったサッカーを目指していくのか。そこは興味深いところではあります。
佐藤 福岡は去年8位と躍進しましたけど、ルキアン(磐田→)が加わったことで、もっと上に行けそうな可能性もありますよね。
中村 トップハーフ以上は行くんじゃないですかね。長谷部(茂利)さん仕込みのゾーンディフェンスを攻略するのは、どこも苦戦している印象です。昨年、久しぶりに残留できたことで、クラブの機運も高まっているはず。残留して2年目は勝負できますから。
佐藤 ほかのチームで言うと、柏にはドウグラス(神戸→)が入って、清水はその柏から神谷(優太)を獲得して、白崎(凌兵/鹿島アントラーズ→)も戻ってきた。こうやって見ていくと、今年は選手の動きが活発でしたよね。広島を除いて(笑)。
ただ、心配なのは鳥栖。監督も代わって、選手もだいぶいなくなりましたから。
中村 川井(健太)さんの監督就任は、川井監督の目指すところが金(明輝)監督のやり方とそんなにかけ離れてはいないからこそなのかなと思っています。ただ、去年の主力がほぼいなくなったのは、かなり大変だと思います。
佐藤 藤田(直之/C大阪→)や小野(裕二/G大阪→)が戻ってきて、いい若手もいるので、彼らの成長というところがカギになりそうですね。
—- ひと通り、J1全クラブについて言及していただきましたが、全体的に見てどのような印象を受けますか。
佐藤 不安視するクラブはそんなに多くない気がしますね。もちろん、まだ始まっていないこの時期だからというところもありますけど、全体的にポジティブ要素が多いと感じます。
中村 どのチームも、チャレンジしようとする気概は感じますよ。
—- 順位予想、してみます?
中村 ……断ります(笑)。いつも思うんですが、予想は本当に難しいし、リスクしかない(苦笑)。
佐藤 誰が2012年の広島が優勝すると予想しましたか。ミシャ体制が終わって、監督経験のない森保(一)さんが監督になって、ほとんどのメディアは残留争い予想でしたよ(笑)。
中村 新たな船出という意味では、2017年のフロンターレもそうだった。風間(八宏/→名古屋)さんが辞めて、(大久保)嘉人(→FC東京)もいなくなって。そのなかで鬼木さんが監督になってどうなるのか、という見られ方をしていたから。
佐藤 たしかに、そういう見方をされていましたよね。
中村 でも、初タイトルを獲得した年になり、そこから今のフロンターレがある。つまり、誰も先のことはわからないんですよ。
佐藤 どのチームにも優勝する可能性があるし、下に行く危険性もありますからね。どこが勝っても、負けても、おかしくない。
中村 そうなんだけど、前ほどでもない気もする。
佐藤 ある程度、序列ができてきたと?
中村 そこはスタイルが確立されてきたチームが増えてきたことも影響しているかもしれない。スタイルが確立されてきたことで、選手補強も的確になり、総合値の最大化の精度が年々高くなってきたことで試合結果に差が生まれやすくなってきているのかなと、個人的には思っています。その流れは確実にきていますね。
佐藤 そこは思いますね。
中村 そういうクオリティを求める監督が増えてきて、そこに反応できる選手たちも増えてきた。そこは30年という月日の積み重ねなんだと思います。
(後編につづく)
【profile】
中村憲剛(なかむら・けんご)1980年10月31日生まれ、東京都小平市出身。久留米高校から中央大学に進学し、2003年にテスト生として参加していた川崎フロンターレに入団。2020年に現役を引退するまで移籍することなく18年間チームひと筋でプレーし、川崎に3度のJ1優勝(2017年、2018年、2020年)をもたらすなど黄金時代を築く。2016年にはJリーグ最優秀選手賞を受賞。日本代表・通算68試合6得点。ポジション=MF。身長175cm、体重65kg。
佐藤寿人(さとう・ひさと)1982年3月12日生まれ、埼玉県春日部市出身。兄・勇人とそろってジェフユナイテッド市原(現・千葉)ジュニアユースに入団し、ユースを経て2000年にトップ昇格。その後、セレッソ大阪→ベガルタ仙台でプレーし、2005年から12年間サンフレッチェ広島に在籍。2012年にはJリーグMVPに輝く。2017年に名古屋グランパス、2019年に古巣のジェフ千葉に移籍し、2020年に現役を引退。Jリーグ通算220得点は歴代1位。日本代表・通算31試合4得点。ポジション=FW。身長170cm、体重71kg。