【記者のJ1優勝予想】2022シーズンの本命は三連覇目指す川崎Fではなく…対抗、有力、サプライズ、大穴候補は?

いよいよ開幕する2022シーズンの明治安田生命J1リーグ。川崎フロンターレが三連覇を目指しているが、他のクラブも充実のオフシーズンを過ごして万全の準備を進めている。『Goal』では、広く国内外のサッカーを取材する河治良幸氏に優勝予想をお願いした。

本命:横浜F・マリノス

[昨季成績]

J1:2位

天皇杯:2回戦敗退

ACL:不出場

ルヴァン杯:PO敗退

■過密日程も乗り切れる陣容

非常に拮抗した優勝争いが予想される中で、前線の爆発力が1つ抜きん出ている。前田大然の穴埋めではないが、西村拓真はパサーが充実するほどボックス内で得点力を発揮できるタイプで、どうしても走る距離の長いカウンターが多かったベガルタ仙台よりも、得点を量産できるお膳立ては用意されている。また仲川輝人が左サイドに回るプランも。ストライカー色の強い仕事をイメージして、MVPを獲得した2019年の再現を狙っている。ただ、左サイドのアシスト源として期待される永戸勝也の怪我は気がかりなところだ。

さらにアンデルソン・ロペスの加入も大きい。昨年の北海道コンサドーレ札幌で夏の移籍まで12得点を叩き出していたストライカーだけに、波に乗れば得点王争いには確実に入ってきそうだ。逆にレオ・セアラが触発されて、前線の競争が活性化されてくればACLを含めた過密日程も乗り切れるはず。中盤も経験豊富な扇原貴宏が神戸、天野純が蔚山現代に移籍したが、パリ五輪世代の有望株である藤田譲瑠チマと日本代表を経験するなど、チームの中心として自覚が出てきた渡辺皓太などが十二分に埋めるはず。またチャンスメークに加えて、セットプレーのキッカーとしてはJ2の町田で10得点10アシストを記録した吉尾海夏の左足に期待だ。

ネックはやはりチアゴ・マルチンスが抜けた最終ラインのディフェンス。サガン鳥栖から加入したエドゥアルドは統率力、デュエル、左足のフィードと三拍子揃った実力者ではあるが、チアゴの理不尽なまでの対人能力とカバー範囲は全体で補っていくしかない。その意味で、昨年の後半戦をケガで棒にふった畠中槙之輔の早期復帰は心強い。また中盤、右サイドバックをこなす岩田智輝が引き続きセンターバックでも有力候補になる。

有力:川崎フロンターレ

[昨季成績]

J1:優勝

天皇杯:ベスト4

ACL:ベスト16

ルヴァン杯:ベスト8

■若手の突き上げが急務

チームの総合力は本命に値する。ただ、三連覇という偉業はプレッシャーもあり、一筋縄では行かないだろう。戦力的には現時点で、旗手怜央がフル稼働でまかなっていた攻守のトランジションの質と量をカバーできているとは言い難い。機動力の高い瀬古樹や高度な技術を備えるチャナティップが期待通りに戦力化されていくかどうかも大事な要素になってきそうだ。

主力の選手たちが少しずつ高年齢化している中で若手の突き上げは急務だが、その筆頭株である橘田健人や遠野大弥、宮城天が、浦和との富士フイルムスーパーカップでベンチ外だったのは気がかりなところ。ただ、彼らが順調にチームの主力に定着していっても、大卒ルーキーの佐々木旭や松井蓮之、トップ昇格の五十嵐太陽、高卒の永長鷹虎などの突き上げが求められてくる。

ライバルも進化してきている中で、鬼木達監督も今までの同じことをやっていたら三連覇はできないと公言しており、世界基準の強度に引き上げる準備を進めているようだ。そうした環境こそが川崎Fのベースだが、そこについていけない選手が出てくると、結果として主力とサブの戦力格差につながってしまうリスクも無きにしもあらず。

ただ、そうした不安要素を並べてみたところで川崎Fは川崎F。富士フイルム杯の敗戦も振り返れば“良い薬”だったとなるかもしれない。ただ、昨年惜しくもPK戦で涙を飲んだACLのリベンジもある。同大会が集中開催ということもあり、史上初めてJリーグとACLの二冠を達成するチャンスではあるが、そこが三連覇の難易度をさらに上げる要素でもある。

対抗:浦和レッズ

[昨季成績]

J1:6位

天皇杯:優勝

ACL:不出場

ルヴァン杯:ベスト4

■優勝のポテンシャルは間違いなくある

筆者の見立てでは横浜FM、川崎Fともかなり接近した位置にあり、最終的に三つ巴の優勝争いも予想している。唯一、上記の2クラブより確実に劣るのは過去数年の優勝実績だ。ただ、天皇杯のタイトルを獲得し、さらにプレシーズンとはいえ富士フイルム杯で川崎Fを下した自信は確実にプラスになるはず。

クラブとしては“三カ年計画”の三年目となるが、リカルド・ロドリゲス監督は2年目で戦術的に完成途上なところもある。その中でも徳島ヴォルティスから指揮官のサッカーをよく知る岩尾憲が中盤に加わり、一つ芯ができた。富士フイルム杯を見れば分かる通り、岩尾のポジショニングが周囲を的確な方向に動かしている。相棒の柴戸海が水を得た魚のようにプレッシングで本領を発揮できたのも岩尾のサポートが大きいだろう。

岩尾は過密日程も苦にしないタイプではあるが、昨年の浦和戦で違和感による交代からしばらく休養したように、彼もロボットではない。その意味でも柴戸や伊藤敦樹、さらにゲームメークを強みとする平野佑一などが、戦術理解度を埋めていくことで“ピッチ上の監督”とも呼ばれる岩尾に依存しない体制を作っていくベースにもなる。

新戦力としては突破力のある松尾佑介、左右のサイドをこなせる馬渡和彰、センターバックで主力級の働きが期待できる犬飼智也など、実績のあるタレントに加えてパリ五輪代表候補の大畑歩夢もいる。外国人アタッカーのモーベルグがいつ合流できるのか、西野努テクニカルダイレクターが示唆する“ラストピース”の加入がいつ正式に決まるのかなど、気になるところはあるが、優勝に足るポテンシャルがあることは間違いない。

サプライズ:鹿島アントラーズ

[昨季成績]

J1:4位

天皇杯:ベスト8

ACL:不出場

ルヴァン杯:ベスト8

■監督の合流時期に懸念

いかなる状況でも上位に来る鹿島の安定感はタイトルから数年遠ざかっていても信頼できる。ただし、今年のリーグ優勝の可能性は横浜FM、川崎F、浦和に比べると薄いと予想している。やはりレネ・ヴァイラー新監督の来日が遅れているのが最大の理由だ。

理論派で知られる岩政大樹コーチの指導力に疑いの余地はないが、J1の監督代行としては未知数な部分が大きい。ミヒャエル・スキッベ監督が就任したサンフレッチェ広島も同じ状況にあるが、選手や関係者の話を聞く限りにおいてはオンラインでの頻繁なミーティングを重ねている同クラブと違い、鹿島では岩政コーチに現場が一任されているようだ。

どちらが良いということは言えないが、ヴァイラー監督が合流した時に多少のラグが出てくるかもしれない。ただ、基本的な方向性は示されている。ボールに関わっている選手も、そうでない選手も状況に適した立ち位置を取りながら、ゴールに矢印を引いて攻撃を仕掛けていくのが基本コンセプトだろう。「いばらきサッカーフェスティバル」の水戸ホーリーホック戦で、新戦力のMF樋口雄太とセンターバックのキム・ミンテが早くも存在感を示したことは大きい。

前線ではベルギーから復帰した鈴木優磨の爆発的な活躍が期待される。昨年はコンディション不良に泣かされたエヴェラウドが完全復調の気配を見せており、上田綺世、染野唯月と前線のハイレベルな競争が予想される。その中から得点王争いに加わる選手が出てくれば優勝も近づくが、昨年ブレイクした荒木遼太郎のさらなる輝き、キャプテンに就任した土居聖真の奮起にも期待がかかる。

大穴:ヴィッセル神戸

[昨季成績]

J1:3位

天皇杯:4回戦敗退

ACL:不出場

ルヴァン杯:PO敗退

■若手選手の台頭が鍵

最も最終順位が読みにくいチームの1つだ。タレント的には横浜FMや川崎Fにも引けを取らないが、一人ひとりの粒が大きい分、ケガ人などのアクシデントがそのままチームのパフォーマンスに直結してしまうリスクも、ライバル以上に大きい。

三浦淳宏監督は全体的な方向性を示しながら、適材適所に選手を起用するエキスパートだが、きめ細かい組織を構築するタイプではなく、そこは選手たちの相互理解や判断に託される余地が大きい。そこを埋める意味でもDF槙野智章とMF扇原貴宏という経験豊富な選手たちの加入は大きい。

また昨夏に加入した大迫勇也、武藤嘉紀、ボージャン・クルキッチの3人はコンディションと連係面で上積みされることは間違いなく、補強にも等しい要素だ。さらに、やや不足していたサイドアタックのオプションとして浦和から汰木康也が加わり、裏抜けのスペシャリストである藤本憲明が清水エスパルスから復帰と、メンバー編成に抜かりはない。

ただ、やはり選手層を決定付けるのは生え抜きを含めた若手選手たちであり、もしACLのプレーオフに勝って本戦出場を決めることができれば、なおさら彼らの台頭が鍵になってくる。

躍進の芽はどのチームにもある

名古屋グランパスは上記の5クラブとほぼ差がない位置に付けている。長谷川健太監督に代わり、高い位置からボールを奪って攻め切るサッカーがフィットすればACL圏内、さらにはタイトル獲得も見えてくる。

また優勝候補とまでは推せないがACL圏内の候補として、J1昇格シーズンだった昨年8位に躍進したアビスパ福岡が上位に定着できるかに注目している。戦術的なベースはしっかりしており、そこに新戦力のルキアンが加わることで、どこまで躍進できるか。

ミヒャエル・スキッベ新監督が就任した広島も“改革元年”になるので優勝までは難しいと見るが、方向性はオンライン上のやり取りでかなり示されている様子だ。メンバー編成は退団選手がほとんどおらず、補強も野津田岳人や川村拓夢など、いわゆるレンタルバック組とルーキーしかいない。完全継続性の選手に新監督の戦術がどうブレンドされていくのか興味深い。

さらに注目しているのが、大幅に主力が入れ替わった鳥栖を気鋭の川井健太監督がどう導いていくのかということだ。降格候補に予想する識者も多いが、指揮官が「すべてがうまくいけばJ1で優勝できる」強度とクオリティでトレーニングしていると語る鳥栖が、蓋を開けてみたら7位フィニッシュだった昨年に匹敵する躍進もあるかもしれない。

昇格組のジュビロ磐田と京都サンガF.C.も期待要素が多く、智将の片野坂知宏監督が就任したガンバ大阪、アルビレックス新潟で攻撃的なサッカーを展開したアルベル・プッチ・オルトネダ監督下で新しい取り組みを進めるFC東京、若いチームに百戦錬磨の興梠慎三と西大伍が加わった札幌などは注目点の多いクラブだ。

ただ、個別に挙げられなかったクラブも含めて期待要素はあり、極端な話をすればどこにも躍進の芽はある。それを後押ししていくのはファン・サポーターの力なので、まだ新型コロナウイルス禍で完全な応援環境ではないが、楽しくJリーグを盛り上げていって欲しい。

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