例年以上の重みを持つリーグ戦での「スタートダッシュ【「特別開催」のワールドカップがJリーグに与える影響】
今年は、ワールドカップ・イヤーである。サッカー世界最強国を決める4年に1度の祭典だが、今年はさらに特別な大会となる。これまでなかった11月開幕の大会となるのだ。この「世界の祭典」が日本サッカー界に及ぼす影響について、サッカージャーナリスト・後藤健生が考察する。
■新監督を迎えたチームは不利?
強豪クラブ(ACL参加チーム)の中では最もコンディションを上げて開幕を迎えるのは浦和ということになるだろう。
一方、ACLに参加しないチームにとっては、強豪クラブがACLと並行しての戦いで苦しんでいる序盤戦でリードを奪っておきたいところだ。そのため、「ACLには参加しないが優勝を狙う」という位置にいるチームは開幕時にコンディションをピークに持って行って、ACL参加クラブが苦しんでいるうちにリードを奪っておきたいところだ。
さらに、ACLに参加しないが優勝も狙いたいクラスのチームを見渡すと、今シーズンから監督が交代したクラブが目につく。
昨年の前半、強力な守備を武器に川崎に肉薄した名古屋グランパスは、「堅守速攻型」のチームを作り上げたマッシモ・フィッカデンティ監督が退任し、より選手の自主性を重んじる長谷川健太監督に交代。その長谷川監督が退いたFC東京には、J2でアルビレックス新潟を率いていたアルベルト・プッチ・オルトネダ監督がやって来た。
一昨年は準優勝したものの、昨年は新型コロナウイルスの感染者を出して試合の延期が相次ぐなどの影響で低迷し、監督交代も経験したガンバ大阪は大分トリニータをJ3からJ1に引き上げ、昨シーズンは天皇杯で準優勝に導くなど、その手腕を存分に発揮した片野坂知宏監督の下で復活を狙っている。
そうした、新監督を迎えたチームとしては未知数の部分ももちろん大きいが、やはりできるだけ良い状態で開幕を迎えてスタートダッシュを決めたいところだ。
■W杯イヤーのコロナ禍という「二重苦」に苦しむクラブ
ただ、「本当なら開幕をピークで迎えたい」と思いながらも、準備が進まないクラブもある。
準備合宿中に新型コロナウイルス感染者を出して活動自粛を余儀なくされたクラブもあるし、自分のクラブから陽性者を出さなくても、練習試合の対戦相手側に陽性者が出て、予定していた試合が実施できなくなってしまったケースもある。
さらに、鹿島アントラーズのレネ・ヴァイラー監督やサンフレッチェ広島のミヒャエル・スキッベ監督は、新型コロナウイルス感染拡大によって外国人の入国が制限されたため、リーグ戦開幕前にチームと合流することができなくなってしまった。初めて担当するチームなので、選手個々の特徴などを自分の目で確認できていないのではリモートでの指導がうまくいくとも思われない。
また新外国人選手の来日が遅れるなど、パンデミックによる影響で準備が進んでいないクラブも多いはずだ。
そうしたクラブにとっては、長い中断期間がない今シーズンは立て直しが難しくなってしまう。
■かつてヴェンゲルも苦しんだチームづくり
中断期間があれば、スタートダッシュに失敗しても、中断期間中に選手の補強をしたり、短期合宿を組んでチームの戦い方を変えることで立て直すこともできる。あのアーセン・ヴェンゲル監督でも、かつて名古屋グランパスの監督に就任し、当初は結果が出ず、中断期間の合宿でチームを完成させたといったこともあった。
だが、そうした中断期間がない今シーズンは、スタートで躓いたチームはそのまま苦しい時間が続いてしまう。とくに残留を最初の目標に置くようなクラブは選手層も厚くないので、試合日程をこなしながらチームを立て直すのは至難の業となってしまう。
開幕直後に、どのチームがコンディションの良い状態でスタートダッシュを決められるのか……。それはいつのシーズンでも重要なことだが、各チームにそれぞれの事情を抱え、また長い中断期間がない今年のシーズンではとくに大きな焦点の一つとなるだろう。
そして、スタートダッシュについて考える際には、長いシーズンを乗り切るために意図的に開幕時にピークを持ってこなかったチームと、開幕ダッシュを狙ったものの、それに失敗してしまったチームとをしっかりと見分ける必要があるだろう。
開幕直後のミッドウィーク(2月23日)にはACL出場チーム同士の強豪対決も予定されている。開幕直後の各チームのパフォーマンスに注目したい。