J2で識者が注目する監督、選手は?「毎回しっかりしたチームを作る」「将来有望な16歳」「J1移籍もある」
Jリーグ2022開幕特集J2リーグ「昇格」「降格」予想座談会@後編
昨シーズンのJ2リーグは、ジュビロ磐田が堅実な戦いで優勝を果たし、続いて京都サンガF.C.が2位に食い込んでJ1昇格を決めた。一方、残留争いは最終節までもつれ込み、松本山雅FC、ギラヴァンツ北九州、愛媛FC、SC相模原の4チームがJ3降格となった。
2月19日に開幕する2022シーズンのJ2リーグ。J1からは徳島ヴォルティス、大分トリニータ、ベガルタ仙台、横浜FCの4チーム、J3からはロアッソ熊本といわてグルージャ盛岡がJ2の舞台にやってくる。はたして今シーズン、J1に昇格するチーム、J3に降格するチームはどこなのか。Jリーグを長年取材する3人の識者に座談会形式で話を聞いた。
◆J2座談会@前編はこちら>>「見ていてワクワク」「新監督の名前にずっこけた」「1年で戻った例は…」
—- 前編では、みなさんに今季のJ1昇格候補について語っていただきました。今季のJ2を監督という切り口で見た場合、注目しているチームはありますか?
浅田真樹氏(スポーツライター/以下:浅田) まず今季のJ2では、多くのチームで監督が替わっていますよね。昨季の途中から監督に就任して今季2年目という監督を含めると、監督が替わっていないチームのほうが圧倒的に少ない。降格組の徳島(ダニエル・ポヤトス)、町田(ランコ・ポポヴィッチ)、千葉(ユン・ジョンファン)、水戸(秋葉忠宏)、秋田(吉田謙)、金沢(柳下正明)、そして昇格組の熊本(大木武)と盛岡(秋田豊)、J2全22チーム中8チームしかない。
そういう意味では、たとえば片野坂知宏監督(現G大阪監督)が大分の監督になってJ3からJ1まで引き上げたような、ひとりの監督が中長期的にチームを成長させて、サッカーの質も高めていくような話も成立しない。そういった期待はできない、というのが現状ですね。
また、監督を見る時に、3年かけて花を咲かせるという「3年周期説」という話もあるじゃないですか。それで言うと、今季3年目になるのは、熊本の大木監督、盛岡の秋田監督、秋田の吉田監督、水戸の秋葉監督、千葉のユン・ジョンファン監督の5人。
このなかで、現実的な昇格の可能性が一番ありそうなのは、ユン・ジョンファン監督率いる千葉のように見える。ユン・ジョンファン監督は千葉を率いる前に鳥栖やC大阪でJ1の実績があるし、昨季後半戦も8位まで順位を上げてフィニッシュしていますしね。
杉山茂樹氏(スポーツライター/以下:杉山) 千葉は財力もそれなりにあるから、お金の使い道さえしっかりしていれば昇格しておかしくないチーム。ただ、絶対に昇格しなければいけないという雰囲気が感じられない。そういうクラブの体質みたいなものを感じてしまうんです。
それは、昨季終盤まで残留争いをしていた大宮にも同じことが言えますね。しかも大宮は、シーズン途中から日本サッカー協会の元技術委員長の霜田正浩さんが指揮を執っているわけで、いろいろな意味で大注目です。少し前まで日本サッカーの中枢にいた人物が財力のある大宮を率いて2年目も昇格できないとしたら、技術委員長職の重みのなさを感じてしまいますから。
中山淳氏(サッカージャーナリスト/以下:中山) 監督というわけではないですが、僕が個人的に注目しているのは、昨季山口で途中退任した渡邊晋さんが今季からピーター・クラモフスキー監督の右腕として山形のコーチに就任したことです。
渡邊さんは元甲府のCBで、その後仙台に移籍して引退後に仙台で指導者キャリアを始めたのですが、個人的に仙台の監督をしていた頃からその手腕に注目していました。その人があえてコーチとしてクラモフスキー門下に加わったのは、おそらく監督として学べるものが多いと踏んだからだと思うんですよ。
そうだとすると、彼の今後のキャリアが楽しみだなって思いまして。最近、日本人の若い指導者で戦術的トレンドを積極的に取り入れたサッカーを標榜する人が増えていますが、個人的にそのなかで注目している指導者なので、クラモフスキー監督の下でレベルアップしてもらって、いずれは甲府に戻って監督をしてもらいたいと密かに思っています(笑)。
杉山 彼は仙台の監督をしていた頃もよかったし、昨季の手倉森誠監督よりも可能性を感じさせていましたよね。でも、いくら中山くんが希望しても甲府はないでしょう(笑)。もっと上のクラブの監督になるべきだと思いますよ。
浅田 甲府つながりで言うと、昨季まで甲府の監督だった伊藤彰さんも大宮の時から優秀な指導者だと思っていて、甲府でも3年かけてしっかりチームを強くした。磐田に引き抜かれるのも納得できます。
それと、個人的な注目は岡山の木山隆之監督。とてもバランス感覚があって、毎回しっかりしたチームを作る。千葉は木山監督にもう少し長く任せていれば、現在のようなことになっていなかったのではないかと思うくらい。昨季の岡山は11位でしたけど、今季はプレーオフ出場圏内(3~6位)に入る可能性はあると思います。
中山 僕も岡山はダークホースだと思います。戦力的にも、DFヨルディ・バイスや栃木からDF柳育崇を獲得してCBが増強されたうえ、前線にはG大阪からFWチアゴ・アウベスも加入して、オーストラリア代表FWミッチェル・デュークもいる。侮れない陣容ですよ。
杉山 木山監督は筋がいい指導者で、J1の監督を十分できる能力はあると思います。たしかに仙台ではうまくいかなかったけど、それはタイミングが悪かったというか、指揮した時期が悪かっただけ。J2の監督のなかでは一番安定していると思います。
あと個人的には、東京Vの堀孝史監督も悪くないと思います。浦和時代にはいろいろ批判されましたけど、そこまで悪くなかったし、今季はもっと期待してもいいのではないでしょうか。
—- では、J3降格の危険性がありそうなのは、どのチームだと見ていますか?
杉山 個人的には、金沢は危険信号と見ています。柳下正明監督のサッカーがどこかうしろ向きな印象で、昨季も紙一重で残留したという印象ですしね。
中山 そうですね。中位以下は紙一重の世界なので、どこが危ないというより、どこも危ないと認識して戦っていると思います。主力ひとりがケガで長期の戦線離脱を強いられたり、活躍している選手がシーズン途中で引き抜きにあったりすると、それだけでも残留争いに巻き込まれる要素になってしまう。そういう意味では、J2昇格組の熊本と盛岡も、たしかに戦力的には厳しいと思いますけど、残留の可能性は十分にあるでしょうね。
浅田 昨季は降格枠が4だったので相模原が降格しましたけど、意外と昇格チームが1年でJ3に戻るというケースは少ないですからね。昇格チームが1年で降格したケースは、最近では2季前の鹿児島くらいですし。
杉山 そのほかでは、元レッズ監督の大槻毅新監督が就任した群馬も心配ですね。どちらかと言うと、ご近所さんの水戸のほうに可能性を感じます。
中山 たしかに最近の水戸は、いいサイクルに入っている印象ですね。スタジアム問題も乗り越えてようやくJ1ライセンスも交付されましたし、昇格の環境も整いつつあります。しかも秋葉忠宏監督も3年目の集大成のシーズン。昇格の可能性もあるかもしれません。
浅田 甲府と同じで、いい選手を毎年引き抜かれてしまう部分をどうやって乗り越えるかですね。昨季もシーズン途中でMF平野佑一を浦和に引き抜かれましたし。
水戸はそういった選手のステップアップの場として脈々と受け継がれている土壌があるので、もはや降格しそうな雰囲気のクラブではなくなったことは間違いないです。逆に、群馬、金沢、栃木あたりは、ここ数年は下位に安定してきているので、常に降格の危機にさらされていると言っていいと思います。
—- 半分くらいのチームにJ3降格の可能性があるということですね。では最後に、みなさんが注目している選手を教えてください。
杉山 僕は、東京VのMF山本理仁とMF橋本陸斗。山本はまだ自信なさげにプレーしている印象はあるけれど、ボランチとしての筋がいい。橋本は昨季J2最年少出場記録を更新しましたが、将来有望な16歳だと思います。
浅田 山本は少し伸び悩んでいるように見えますが、たしかに注目株だと思います。やっぱり東京Vには自前で育てた若い選手がたくさんいますよね。
僕は、新潟のMF本間至恩、千葉のMF見木友哉、甲府のDF関口正大あたりは、今季J1に引き抜かれてもおかしくなかったレベルの選手だと思います。それと、山形のMF山田康太。試合によってはスーパーだったので横浜FMに戻ると思っていたのですが、完全移籍で山形に残ったので、今季も注目したいです。クラモフスキー監督のサッカーには合っていると思いますしね。
中山 僕は甲府のイチオシとして21歳のFW宮崎純真をあげておきたいと思います。浅田さんもあげてくれた関口やほかにMF長谷川元希にも期待していますが、宮崎は東京生まれながら山梨学院高校出身なので地元の期待も大きい選手。昨季は琉球戦でものすごいミドルを決めましたが、ああいったゴールへの意識の高さも含めて成長が期待できるFWだと思います。
杉山 なるほど、あくまでも地元にこだわるわけですね。いずれにしても、J2は甲府のように地方のクラブが活躍したほうがリーグ全体が盛り上がるので頑張ってほしいですね。J1に昇格してもすぐに降格してしまうかもしれないけど、昇格すること自体に夢がある。
浅田 そう、1年で降格してもいいと思いますよ。それより、地元の人に一度はJ1ってどういうものかを見せてあげることが大事で、多くのチームに昇格の興奮を味わってほしいです。J1に昇格すれば日本代表クラスの選手がいるチームも年に1回は地元に来てくれるわけで、そういう経験をすることがクラブにとっても地元にとっても重要だと思います。