今季J2のJ1昇格・J3降格を識者が予想。「見ていてワクワク」「新監督の名前にずっこけた」「1年で戻った例は…」

Jリーグ2022開幕特集J2リーグ「昇格」「降格」予想座談会@前編

昨シーズンのJ2リーグは、ジュビロ磐田が堅実な戦いで優勝を果たし、続いて京都サンガF.C.が2位に食い込んでJ1昇格を決めた。一方、残留争いは最終節までもつれ込み、松本山雅FC、ギラヴァンツ北九州、愛媛FC、SC相模原の4チームがJ3降格となった。

2月19日に開幕する2022シーズンのJ2リーグ。J1からは徳島ヴォルティス、大分トリニータ、ベガルタ仙台、横浜FCの4チーム、J3からはロアッソ熊本といわてグルージャ盛岡がJ2の舞台にやってくる。はたして今シーズン、J1に昇格するチーム、J3に降格するチームはどこなのか。Jリーグを長年取材する3人の識者に座談会形式で話を聞いた。

—- 今回は3人のみなさんに今季のJ2について語っていただきたいと思います。まずはその前に、昨季の印象から聞かせてください。

浅田真樹氏(スポーツライター/以下:浅田) 上位は下馬評どおりで、珍しく堅い決着のシーズンだったと思います。J1に昇格した1位の磐田と2位の京都は、競馬風に言えば1、2番人気のチームで、3位の甲府や4位の長崎も少なくとも5番人気以上のチーム。昨季はJ1から降格してきたチームがなかったので、それが影響して例年のような混戦にならなかったのではないかと見ています。

中山淳氏(サッカージャーナリスト/以下:中山) 昨季はJ1参入プレーオフがなくて、最大4チームが降格するという特殊なレギュレーションだったので、最後まで熾烈な戦いが続いたのは残留争いのほうでしたよね。

特にJ2からJ3に降格してしまうと、収入面も含めてJ1からJ2の落差以上の打撃があるので、昨季のJ2は本当に大変なシーズンだったと思います。松本、北九州、愛媛、相模原の4チームが降格したわけですが、そのなかでは松本が降格したのは予想外でしたね。

杉山茂樹氏(スポーツライター/以下:杉山) しかも松本は最下位での降格ですからね。つい2シーズン前まではJ1にいたことを考えると、これはちょっとした事件。もちろん松本は財政的にJ1に定着するのは難しい規模ではあるけど、ここまであっさりJ3に降格してしまうとは思いませんでした。

それと、相模原の高木琢也監督、松本の名波浩監督と、元日本代表という肩書を持つ有名監督がJ3降格したことも気になりますね。個人的には、現役時代に名声のあった人物にJ2クラブの監督をしてもらって、リーグ全体にメジャー感を出してほしいと思っているので。

—- 今季は上位2チームが自動昇格、3位から6位がJ1昇格プレーオフ出場権、J3降格は下位2チームという通常のレギュレーションに戻ります。みなさんが今季のJ1昇格候補と見ているのはどのチームですか?

中山 個人的には、横浜FCが昇格候補だと思います。何と言ってもメンバーがすごい。FWサウロ・ミネイロ、FWクレーベ、GKブローダーセンが残留して、そこにMFハイネル(広島→)、FW長谷川竜也(川崎→)、MF和田拓也(横浜FM→)、DF中村拓海(FC東京→)など即戦力も続々と加入しています。前線にはベテランFW渡邉千真、FW伊藤翔も復帰しました。たしかに松尾佑介(→浦和)やMF瀬古樹(→川崎)ら主力数人が引き抜かれましたけど、選手層はJ2屈指です。

四方田修平新監督は1年目ですが、早川知伸前監督がコーチとして残ったので、昨季のチーム状況をすぐに把握できるというメリットもあります。それに、四方田監督は札幌時代にJ1昇格に導いた経験もあるし、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督のアシスタントを務めていたので、経験値も十分。総合的に見て、昇格候補筆頭と言ってもいいと思います。

杉山 同じJ2降格組では徳島も悪くないと思いますよ。そもそも昨季は残留した湘南と互角の力があったと思いますし、今季もダニエル・ポヤトス監督が指揮を執るわけだから、1年でJ1に戻ってもおかしくない。逆に、大分は片野坂知宏監督がいなくなったので心配ですね。

中山 カリスマ監督の長期政権後なので大変でしょうね。ただ、主力の流出は予想したほどでもないので、そこはポジティブな材料だと思います。問題は下平隆宏新監督が、チームに浸透した片野坂スタイルをスムースに自分流に変えられるかという点。標榜するサッカーが違うので、一歩間違うと残留争いなんてことも考えられますよね。

浅田 過去の例を見ても、J1から降格してきたチームが1年でJ1に戻るには、たとえばFC東京(2011年)やG大阪(2013年)のように、サプライズ的に降格したケースでないと難しい。それで言うと、個人的には今季の4チームで絶対的な昇格候補と言えるチームはないと思います。一昨季の磐田でも十分な戦力を保有しながら、1年で戻れなかった。だから、今季の降格組4チームと昨季の上位チームはほぼ同格と見ています。

特に甲府(3位)、町田(5位)、新潟(6位)、山形(7位)と昨季の上位だったチームは、ボールを保持するスタイルを志向しているという点で、サッカーの中身も近いものがありました。ただ、そのスタイルで勝ち続けることの限界も見えた気がするので、2位以上に入るためにどのようにそのスタイルを進化させられるかがポイントでしょう。逆に昨季の上位のなかでは、長崎(4位)や千葉(8位)のような堅実なスタイルを志向しているチームのほうが上位に加わるのではないでしょうか。

中山 僕も長崎は注目しています。何より柏からFWクリスティアーノが加入したことが大きい。昨季途中就任した松田浩監督が栃木の監督時代に獲得したのがクリスティアーノだったので、おそらくそのつながりで獲得できたのだと思いますが、まさにJ2降臨的な補強ですよ。しかも長崎にはFWエジガル・ジュニオもいますし、あとは戦力の入れ替わりが多い守備陣を松田監督が整備できれば、2位以上も狙えそうです。

それと、長崎は新スタジアム建設を含めた周辺の街づくりという大きなプロジェクトもある。行政との連携という点でも、クラブとして絶対にJ1に戻りたいという空気も感じられるので、昇格候補と見てよいと思います。

杉山 新潟も財力があるチームだし、長くJ1に定着していたクラブなので、いつまでもJ2にいてはいけないチームだと思いますが、アルベル・プッチ・オルトネダ監督がFC東京に引き抜かれてしまったのが心配ですね。

なので、個人的にはピーター・クラモフスキー監督の山形に注目しています。昨季7位だったのと、打ち合いの試合も多くて、見ていてワクワク感があります。もし今季に昇格できないとしても、リーグを盛り上げるという意味でも注目してみたいですね。そのほかでは、ランコ・ポポヴィッチ監督の町田。町田は昨季5位でしたが、ポポヴィッチの手腕があれば今季はそれ以上の成績も狙えると思います。

浅田 新潟は昨季の順位(6位)も含め、当然ながら今季も昇格候補であることは間違いないでしょう。ただ、あれだけ極端なサッカーをしているチームは、ここからもう一段上に行くのが難しいのも事実。松橋力蔵新監督が昨季からどれだけ上積みできるかどうかだと思いますが、僕も山形に比べると勢いを感じないというのが正直なところですね。

—- 中山さんの地元の甲府は今季、昇格できそうですか?

中山 もちろん昇格候補ですよ(笑)。ただ、伊藤彰監督が3年目に3位まで引き上げて、それが評価されて磐田の監督に個人昇格したので、ひとつの節目を越えた感はありますね。

で、その後に誰が監督をやるのかなと思っていたら、J1からJ2に降格した時の監督になって、時計の針が戻ってしまった。しかも磐田に引き抜かれた伊藤監督は、吉田達磨監督がJ2で途中解任されたシーズンにアシスタントコーチとして入閣していた人なので、吉田監督もよくオファーを引き受けたなって。相当やりにくいと思いますよ。

杉山 せっかく3位まで上がって、甲府のファンも今季こそはJ1昇格を期待したくなるシーズンなのに、なぜそのような人事になってしまったのか不思議ですね。

中山 伊藤監督が引き抜かれたのは、地元の人もある程度は仕方ないと納得できたと思いますが、さすがに新監督の名前を聞いてずっこけた人は多いと思いますよ。でも、それも含めて吉田監督の奮起というか、個人として巻き返しに期待したいですけどね。もうJ2暮らしも5年目ですから。J1にいた時代にクラブはJ1定着を目標に掲げていたのに、この有様ではそろそろフロントの責任問題が問われるでしょうね。

ただその一方で、成績以外の部分でポジティブな傾向もあるんです。それは、特に大卒選手など若手が甲府に入団して、1~2年活躍してから上のクラブに個人昇格していく流れが定着したこと。それによって、最近は若くていい選手が甲府に加入してくれるようになりました。FW伊東純也(ゲンク)の台頭からその傾向が強くなって、今季もMF中村亮太朗が鹿島にステップアップ移籍しています。甲府で活躍すれば未来が開けるという、ある種の”甲府ブランド”が若手の間で定着していると思います。

杉山 それがクラブの収入源になるような仕組みができれば申し分ないですね。それなら別に昇格できなくても、甲府というクラブのカラーもできあがるわけだし。

中山 いやいや、昇格しなければ駄目です(笑)。とにかく、今季は吉田監督にチームの骨格を維持しながら進化させてもらえれば、可能性は十分にあるはず。それと甲府の場合は、スタンドにたくさんのお客さんが入る状況になることも昇格の条件になるでしょうね。スタジアムが満員に埋まると、かなりの確率でミラクルが起きて実力以上の力が出せるチームなので、早くコロナが収束してほしいです。

2位以上となると、横浜FCも長崎もいるので厳しいかもしれませんが、今季は6位以上ならプレーオフに出場できるので、そこが今季のノルマですね。

—- なるほど、J1昇格争いでは今季の甲府も注目ですね。後編ではJ3に降格しそうなチームなども含めて、J2リーグをさらに掘り下げて話していただきたいと思います。

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