神戸は“J1初制覇”へ着々、主力の大量退団チームも…ストーブリーグ通信簿2022〈dot.〉
2022年のJリーグのシーズン開幕まで残りわずか。J1は2月18日に川崎対FC東京の開幕戦が行われ、11月5日の最終節まで全34節に渡る長丁場の熾烈な戦いが続く。そこでJ1全18クラブのオフシーズンの「選手補強」を査定(良い方からA・B・C・D・Eの五段階)し、全3回に分けて発表したい。今回はG大阪、C大阪、神戸、広島、福岡、鳥栖編。
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■G大阪「C」
豊富な戦力を有しながらもシーズン途中で監督交代が起きるなど迷走が続いた昨季から、新たに片野坂知宏監督を招聘して「新時代」を作り上げるための年が始まる。そして今オフ、韓国代表のDFクォン・ギョンウォン(←城南FC)、ブラジル人ボランチのMFダワン(←サンタ・リタ)の外国人選手に加え、優れたビルドアップ能力を持つCBの福岡将太(←徳島)、高いボール奪取能力が魅力のMF齊藤未月(←湘南)、天才的なプレーを見せる攻撃的MF石毛秀樹(←清水)を獲得した。この補強が決して悪いとは言わないが、獲得リストの第一候補たちに逃げられたことは事実で、結果的に“こじんまり”した補強になった。
もちろん、他クラブからの獲得オファーが報道された宇佐美貴史と三浦弦太の残留は朗報だったが、DFキム・ヨングォン、DF菅沼駿哉、MF井手口陽介、MF矢島慎也、MF小野裕二、FWチアゴ・アウベスらが退団していった。戦力値としては「現状維持」が精一杯と言えるだろう。ただ、すでに特別指定選手としてプレーしてゴールも決めているMF山見大登(←関西学院大)と、下部組織が生んだ新たな天才ドリブラー・中村仁郎(←G大阪ユース)の2人には大きな期待を寄せることができる。昨年の天皇杯ではチームを決勝に導くなど、大分では成功を収めた“片野坂サッカー”の浸透とともに、彼らの早い段階でのレギュラー奪取にも期待したい。
■C大阪「D」
昨季12位からの巻き返しを狙いたいところだが、攻撃のキーマンだったMF坂元達裕と守備の要だったDF瀬古歩夢の日本代表クラスの2人が海外へ移籍。大久保嘉人が現役を引退した他、FW豊川雄太、FW高木俊幸、FW松田力、MF西川潤、MF藤田直之、DF小池裕太、DFチアゴといった準主力級の選手たちもクラブを離れた。その一方で、昨季J2で13得点をマークしたFW上門知樹(←岡山)、中盤のリンクマンとして攻守に存在感を見せる鈴木徳真(←徳島)、昨季J2で6得点8アシストと結果を残したMF中原輝(←山形)、攻撃参加が魅力の右SB毎熊晟矢(←長崎)とJ2で頭角を現した20代中盤の精鋭たちを獲得した。
その他、2020年に9ゴールを決めたブルーノ・メンデス(←福岡)を復帰させ、ブラジル人アタッカーのパトリッキ(←サンタ・クララ)も獲得。DF山中亮輔(←浦和)、DF山下達也(←柏)と実績のある面々も確保した。だが、退団した選手たちの実力を考えると戦力がアップしたとは言えず、出入りの激しさから連携面にも大きな不安がある。もちろん、低迷した昨季から“変化”することは必要で、J2から個人昇格した面々が坂元のようにJ1の舞台で一気にブレイクする可能性は大いにある。果たしてどうなるか。就任2年目の小菊昭雄監督の手腕にも注目しながら、現時点での評価を覆すパフォーマンスを期待したい。
■神戸「B」
昨季3位に入ったチームが、いよいよ本気で「優勝」を狙いに行く。そのために今オフ、リーダーシップの取れる経験豊富な元日本代表DF槙野智章(←浦和)、ボランチとして優れたゲームメイク能力を持つMF扇原貴宏(←横浜FM)、滑らかなドリブルでチャンスを作り出すMF汰木康也(←浦和)といった実力者たちを獲得。その他、FW藤本憲明(←清水)もレンタルバックし、ルーキーとしてGK坪井湧也(←中央大)、DF尾崎優成(神戸U-18)の2人をチームに加えた。決して「量」は多くなく、資金力を考えると「もっと」補強できた感はあるが、DFフェルマーレン、FWドウグラス、FW田中順也の退団者の穴を的確に埋めながら、チームとしての結束力アップにも繋がる「期待の持てる」補強だと言える。
元々、イニエスタ、サンペール、ボージャン、リンコンと居並ぶ外国人選手に、大迫勇也、武藤嘉紀、山口蛍、酒井高徳と名のある面々が並ぶ陣容は非常に強力。ただ、ベテランが多く高齢化が顕著で、特に夏場のパフォーマンス低下が懸念される。即戦力にこだわりながらも、中長期的なプランの中で20代前半の選手の補強も必要だっただろう。いずれにしても、あとは三浦淳寛監督が誰をどのように起用するか、マネジメント力が重要になってくる。
■広島「D」
新たにミヒャエル・スキッベ監督を招聘。ドイツ代表のコーチやギリシャ代表監督など欧州での経験が豊富な新指揮官の下で「もう一度、力強いサンフレッチェを作る」とチーム改革に取り組むが、戦力的には昨季とほぼ変わらない。今オフは退団者も少ない代わりに、新加入は5人のみ。そのうち、ドリブル突破が魅力のFW棚田遼(←広島ユース)、前線でアグレッシブなプレーを見せるFW満田誠(←流通経済大)、技術の高いMF仙波大志(←流通経済大)は、いずれも広島ユース育ちのルーキーたち。あと2人はMF野津田岳人(←甲府)とMF川村拓夢(←愛媛)のレンタル復帰組である。
野津田は昨季J2でリーグ戦41試合に出場、川村は昨季J2で8得点を決めて成長した姿を見せていて楽しみではあるが、昨季11位だったチームが「上位を狙うため」の補強としては正直、物足りない。チームとして「若手を育てる」という理念は間違いではなく、主力が全員残留している点は大きなプラスにはなるが、チームに刺激を与える意味でも、もう1人、2人の補強は必要だっただろう。新型コロナウイルスの影響で、スキッベ監督不在のままキャンプを行わざるを得なかった点も大きな懸念材料。少なからずの不安を抱えたままのシーズン開幕になりそうだ。
■福岡「A」
J1昇格1年目を8位という好順位で終え、過去3度続いた「昇格即降格」の呪縛から抜け出すことに成功した。ここからJ1定着の流れに乗るため、オフには左サイドでスピード溢れるドリブル突破を見せるMF田中達也(←浦和)、右サイドで推進力のある上下動を繰り返すDF前嶋洋太(←横浜FC)、J2で経験を積んだ福岡出身のCB熊本雄太(←山形)を獲得。そして新エースとして、昨季J2得点王のFWルキアン(←磐田)の獲得にも成功した。退団者ではサロモンソン、グティエレス、ブルーノ・メンデスと外国人の名前が目立つが、その穴をしっかりと埋めるだけでなく、非常に楽しみな陣容が出来上がったと言えるだろう。
また、レンタル移籍だったMF奈良竜樹(←鹿島)とGK永石拓海(←C大阪)を完全移籍で獲得した点も含め、昨季の主力がほぼチームに残っている点も大きい。もちろん優勝を争う上位陣と比べるとチーム全体の戦力は見劣りするが、自信を持って「10位以内」、あるいは昨季8位ということを考えると「5位以内」を狙えるはず。都市人口を考えても福岡には大きなポテンシャルがある。長谷部茂利監督の下でチームの熟成度を上げ、今オフの補強を結果に繋げたい。
■鳥栖「E」
2012年のJ1昇格以降、毎年のように主力を引き抜かれながらも、その都度、優秀なアカデミー出身者を中心に力強く戦い、J1の舞台での戦いを続けてきた。クラブの財政問題が表面化する中で昨季も7位と健闘したが、今オフはFW山下敬大、MF仙頭啓矢、MF小屋松知哉、MF樋口雄太、MF酒井宣福、DF大畑歩夢と主力クラスが軒並み国内他クラブへ移籍。さらに一度は契約を更新して残留が決まったはずのDFエドゥアルドも引き抜かれ、昨季途中に移籍したMF松岡大起も加えると、昨年のチームとは様変わり。降格クラブ以外ではJ史上でも非常に稀な“大量移籍”となった。
もちろんクラブ側も財政面だけを見ているわけではなく、元主将のMF藤田直之(←C大阪)やMF福田晃斗(←新潟)、MF小野裕二(←G大阪)という実力者たちを呼び戻し、FW宮代大聖(←川崎F)、FW西川潤(←C大阪)と将来の日本代表入りも期待される若手をレンタルで獲得。同じく期限付き移籍のFW垣田裕暉(←鹿島)も即戦力として期待され、新加入の面々だけを見ると希望を持てることは間違いない。ただ、パワハラ問題で金明輝監督が退任に追い込まれたこともチームとしては影響が大きく、今季から指揮を執る川井健太監督の手腕も気になるところ。選手の連携面、チームの成熟度も含めて、非常に強い危機感と不安を抱いた状態で開幕を迎えることになりそうだ。



