【J1全クラブ最新陣容】王者・川崎のチャナティップ起用法は? 大幅入れ替えの鳥栖、片野坂ガンバが躍進も!?
【識者コラム|Part1】川崎、鳥栖、G大阪の新シーズン補強動向&最新予想布陣を紹介
J1の各クラブは、2022年シーズンに向けて新たな陣容でスタートを切る。このオフを経て、昨季からどう生まれ変わったのか。補強動向を踏まえながら、Part1では川崎フロンターレ、サガン鳥栖、ガンバ大阪の新シーズン予想陣容を紹介する。
【布陣図一覧】J1各クラブ最新陣容――川崎、鳥栖、G大阪の2022シーズン「予想布陣」
■川崎フロンターレ/昨季成績
J1リーグ:1位(勝ち点92/28勝8分2敗)
ACL:ラウンド16
ルヴァン杯:ベスト8
天皇杯:ベスト4
【今オフ補強動向】
MFチャナティップ(←札幌)とMF瀬古樹(←横浜FC)を補強した以外はすべて新卒ルーキー。それでも2連覇中の総合力はJリーグ随一であることに疑いの余地がない。チャナティップは左サイドの主力候補でありながら、インサイドハーフで特性を生かす起用になる可能性もある。
運動量が豊富な瀬古は5枚の交代枠を考えると開幕戦から重要なピースになり得るが、MF大島僚太、MF脇坂泰斗を擁する中盤のレギュラー奪取がA代表にも直結する。ただ、MF旗手怜央(→セルティック)という大きな存在が抜けた後で、戦力的なプラスアルファとなると期待値ベースの部分が大きい。
一昨年はMF三笘薫(ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズ)が大ブレイク、昨年は旗手のさらなる成長に加えて、大卒ルーキーのMF橘田健人がマルチな活躍で、特にAFCチャンピオンズリーグ(ACL)後の躍進を支えた。タレントとしてはU-22代表でも主力を努めたMF松井蓮之(←法政大)に期待だが、左サイドバックが本職のDF佐々木旭(←流通経済大)が“ポスト登里”的な台頭をしてくれば過密日程を乗り越えるための選手層がグッと増す。
面白いのはFW永長鷹虎(←興国高)。いきなり主力として過度な期待はできないが、リズムを変えるドリブル突破で、ジョーカーとして輝きを放つポテンシャルは十分にある。また、ユースから昇格したFW五十嵐太陽はラストパスの受け手にも出し手にもなれるタレントで、おそらくポジションはインサイドハーフになるが、アタッカーとしての期待値は永長にも引けを取らない。
■主な獲得選手
【Pos./選手名/前所属】
FW 永長鷹虎 興国高校
MF チャナティップ 北海道コンサドーレ札幌
MF 瀬古 樹 横浜FC
MF 松井蓮之 法政大学
DF 佐々木旭 流通経済大学
■主な放出選手
【Pos./選手名/移籍先】
FW 旗手怜央 セルティック(スコットランド)
FW 宮代大聖 サガン鳥栖※レンタル
MF 長谷川竜也 横浜FC
MF 原田虹輝 AC長野パルセイロ※レンタル
DF イサカ・ゼイン 横浜FC※レンタル
【22年シーズン陣容の注目ポイント】
純粋な戦力で評価すれば3連覇はもちろん、Jリーグ勢として史上初となるACLとの2冠も狙える。ただ、チームは生き物だ。鬼木達監督や選手がチャレンジャーの意識を持っていても、やはり2連覇中の王者ということで、どこも標的にしてくる。
同じことをやっていても3連覇が難しいことは鬼木監督もキャンプ前から強調している。問われるのは、4-3-3システムを変えるというより、より素早く前にアタックするなど、欧州サッカーでも変化している志向の部分かもしれない。
ただ、もともと4-2-3-1システムのベースはあるので、チャナンティップのスペシャリティをより生かしていくためのオプション構築も考えられる。もう1つは位置的優位の奪い合いの重要性がより増すなかで、ビルドアップ時のサイドバックやインサイドハーフの関わり方もアップデートされるかもしれない。
そうしたなかで、常に厳しいポジション争いが川崎を王者たらしめたということもあり、チャナティップや瀬古だけでなく、ルーキーの選手たちがかつての三笘、旗手、田中碧のように従来の主力選手を安閑とさせないだけでなく、突き破っていくようなブレイクが3連覇、さらにはアジア制覇の鍵だろう。
気鋭の川井新監督を迎えた鳥栖、一桁順位も可能な陣容
■サガン鳥栖/昨季成績
J1リーグ:7位(勝ち点59/16勝11分11敗)
ルヴァン杯:グループリーグ敗退
天皇杯:4回戦敗退
【今オフ補強動向】
今オフのIN&OUTが激しいなかで、鳥栖を知るMF藤田直之(←C大阪)、MF福田晃斗(←新潟)、MF小野裕二(←G大阪)の加入は若いチームの支えという意味で大きい。
さらに6人の大卒ルーキーを加えたことが大きなポイント。大学屈指のセンターバックとして知られたDF孫大河(←立正大)はDFエドゥアルドが横浜FMへ移籍したこともあり、いきなり主力を張ってもおかしくない。
主力が大量に抜けた前線、2列目は即戦力の活躍抜きに語れないところがある。FW荒木駿太(←駒沢大)はインカレMVPなど、大学サッカーファンなら誰もが知るタレント。また、泥臭くゴールを狙えるFW藤原悠汰(明治大)、かつてのFW林大地(シント=トロイデン)のような雰囲気も漂うFW梶谷政仁(←国士舘大)などのポテンシャルも高い。
もちろんエースとして期待されるFW垣田裕暉(←鹿島)、その垣田と徳島で多くのゴールを奪ったFW宮代大聖(←川崎)、そして経験豊富な小野は戦力として確実に計算できるが、大卒ルーキーの突き上げが躍進の鍵になることは間違いない。
■主な獲得選手
【Pos./選手名/前所属】
FW 垣田裕暉 鹿島アントラーズ※レンタル
FW 宮代大聖 川崎フロンターレ※レンタル
MF 藤田直之 セレッソ大阪
MF 小野裕二 ガンバ大阪
MF 西川 潤 セレッソ大阪※レンタル
■主な放出選手
【Pos./選手名/移籍先】
FW 山下敬大 FC東京
MF 仙頭啓矢 名古屋グランパス
MF 小屋松知哉 柏レイソル
MF 酒井宣福 名古屋グランパス
DF エドゥアルド 横浜F・マリノス
【22年シーズン陣容の注目ポイント】
J1残留がクラブの目標になるだろう。ただし、気鋭の川井健太監督と選手の目指すところはそこではないはず。若手の多い既存戦力に経験豊富な選手も含めた新戦力がうまく融合すれば、昨年に続く一桁順位も可能な陣容だ。
システムは現状4-4-2、4-3-3、3-4-3とすべて考えられるが、指揮官の基準ではスタートポジションに過ぎない。大事なのはそこからどうゴールに矢印を向けて動いて行くか。川井監督といえば昨年、山形のコーチとして後半戦の躍進を支えたことは記憶に新しい。“ボールを握り、相手の思考を停止させる”サッカーを目指すなかで、ボールを奪いにいく守備に求める強度も高い。
昨年の主力や準主力がごそっと抜けたことへの懸念はあるが、キャンプ中の選手の声を聞く限り、川井監督の求めるサッカーの強度や質は高く、それをしっかりとモノにできれば、十分に戦えるという手応えは感じさせる。
やはり鳥栖を知る藤田、福田、小野の存在は大きいようで、大卒ルーキーの梶谷も「学ぶことは多い」としみじみ語っている。エドゥアルドが抜けた守備陣に関しては、チームの柱であるGK朴一圭を筆頭にDF田代雅也とDFファン・ソッコ、パリ五輪世代のDF中野伸哉というバックラインにアウトサイドのDF飯野七聖とDF中野嘉大、そしてボランチと最終ラインをマルチにこなせるMF小泉慶、MF島川俊郎と言った土台は残されている。さらに中盤に藤田と福田が戻ってきたことを考えれば垣田をはじめとした前線とのコンビネーションをいかに構築されるかが焦点となる。
G大阪FW宇佐美らのタレントが片野坂監督の下でどう進化するか
■ガンバ大阪/昨季成績
J1リーグ:13位(勝ち点44/12勝8分18敗)
ACL:グループリーグ敗退
ルヴァン杯:ベスト8
天皇杯:ベスト8
【今オフ補強動向】
片野坂知宏監督が大分で採用していた3-4-2-1に照らし合わせると、新戦力で開幕からスタメン候補になりそうなのはボランチのMF齊藤未月(←湘南)とDFキム・ヨングォン(→蔚山現代)の後釜として期待される韓国代表DFのクォン・ギョンウォン(←城南FC)か。
昨年は特別指定でセンセーショナルなゴールを連発したFW山見大登(←関西学院大)は開幕戦からの活躍が期待される。さらにJ2岡山で再ブレイクしたMF石毛秀樹(←清水)は”カタノサッカー”にいかにも合いそうで、どのようなタスクを与えられるのか注目されるところだ。
さらにDF福岡将太(←徳島)も対人能力が高く、徳島でボールを主導的に動かすポゼッションスタイルを習得しているだけあり、従来の主力であるDF昌子源やDF三浦弦太を脅かす存在になることは間違いない。
ユースからの昇格組であるMF中村仁郎とFW坂本一彩も世代屈指のタレント。新しいスタイルの中で戦術的なタスクというよりは個の特長をどんどん出して行くことで、ガンバの攻撃に違いを生み出すことが期待される。MFダワン(←サンタ・リタ)に関しては合流のタイミング次第だが、シーズンを見れば主力候補だ。
■主な獲得選手
【Pos./選手名/前所属】
FW 山見大登 関西学院大学
MF 石毛秀樹 清水エスパルス
MF ダワン SCサンタ・リタ(ブラジル)※レンタル
MF 齊藤未月 湘南ベルマーレ※レンタル
DF クォン・ギョンウォン 城南FC(韓国)
■主な放出選手
【Pos./選手名/移籍先】
FW チアゴ・アウベス 岡山
MF 井手口陽介 セルティック(スコットランド)
MF 小野裕二 サガン鳥栖
MF 矢島慎也 大宮アルディージャ
DF キム・ヨングォン 蔚山現代(韓国)
【22年シーズン陣容の注目ポイント】
昨年は終盤まで残留争いに巻き込まれたが、チーム力のポテンシャルを考えれば当然、上位躍進が期待される。リーグ優勝というのは言い過ぎかもしれないが、そこに絡んでいくぐらいの躍進は十分に可能なスカッドだ。
新戦力も注目されるが、何よりFW宇佐美貴史やMF倉田秋といったJリーグでもトップクラスのタレントが、かつてコーチとしてガンバを支えた片野坂監督の下で、どう進化するのかも楽しみな要素だ。
これまでは良くも悪くも選手がその場で判断して、模索しながらプレーしているようにも見えたが、相手の分析をもとに緻密な設計をしていく新指揮官の下であれば、そうした事態に陥ることはあり得ないだろう。
ただ、逆に戦術を詰め込みすぎると、彼らの持つ創造性が尻すぼんでしまうリスクもある。大分よりは明らかにスペックが高いG大阪の戦力をどう”カタノサッカー”に落とし込んでいくのかがポイントになる。疲労面や戦術面を考えながら、いかに勝負のカードを切って行くかも見どころの1つだ。
[著者プロフィール]
河治良幸(かわじ・よしゆき)/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。



