【川崎】「大久保以上」の存在感を放った大卒ルーキーの中野嘉大。代表DF米倉を手玉に取ったドリブルは一見の価値あり SOCCER DIGEST Web 10月4日(日)21時59分配信

「中野選手を自由にさせ過ぎた」(岩下敬輔)

2ゴールの大久保嘉人でもなければ、強烈ミドルを叩き込んだ中村憲剛でもない。G大阪戦で特大のインパクトを残したのは、紛れもなく22歳の大卒アタッカー・中野嘉大だった。

特筆すべきは、満員の観衆も目撃した鋭いドリブルだ。スピードとテクニックが程良くブレンドされ、独特のリズムで相手を翻弄した。Jリーグ初ゴールを含 む1得点・1アシストの結果もさることながら、いずれの場面においても、先日の日本代表メンバーに選出されたSB米倉恒貴を手玉に取ったところに意味があ る。

G大阪の選手が4日前に行なわれたACL準決勝の疲労を抱えていたとはいえ、“旬のSB”をいとも容易く攻略したのだ。米倉のカバーに回っていた岩下敬 輔は、「中野選手を自由にさせ過ぎた。最初のワンプレーでやられたようなシーンを、その後にも2、3回作られて、点を取られた」と振り返る。

開始1分、中野はファーストタッチで阿部浩之のマークを外すと、寄せてきた米倉を一瞬で抜き去りにして、ラストパス。ファーサイドで待ち構えていた大久 保は合わせただけで、9割は中野のゴールと言ってもいい。大久保も「まさか中野があそこまでドリブルで行って、あそこに出せるとも思わなかった。『ナイ ス!』と思いながら走りました」と笑みをこぼした。

大久保同様、中村もルーキーのプレーに賛辞を惜しまない。

「相手の布陣を見て、ウチのウイングバック(中野とエウシーニョ)がポイントだと思っていた。外が空くと思って、ファーストプレーで中野を使ったら、なんかアシストしたから『おっ!』と思って。彼はそこから乗ったね」

“そこ”にパスを通した中野と、“そこ”を狙っていた大久保。

「やっぱり嘉人さんは“そこ”にいてくれる」(中野)

中野は開始2分のゴールをそう振り返る。“そこ”とは、GKとDFの間でファーサイドのスペース。“そこ”の共通認識が先制点を導き出したのだ。

「中野だけじゃなく、他の選手にもうるさいぐらいにずっと言っている。(G大阪戦の)1点目のコースには、みんなパスをなかなか出せない。でも、パスを出 す瞬間は相手がボールウォッチャーになって、普通はGKに任せる。だから“そこ”に出せば絶対に入る。みんなが覚えてくれればいいね」(大久保)

そして、最大の見せ場は55分のプレーだ。左サイドでボールを受けた中野は、迷わずドリブルでエリア内に侵入。対峙した米倉を今度は切り返しでかわし、ワンテンポ置いてから右足を振り抜くと、ボールはゴールに吸い込まれてJ1リーグ初ゴールをマークした。

「決まった瞬間は嬉しかったです。だから、あんまりはっきりとは覚えてないです」

中野が非凡なのは、このゴールが駆け引きに裏打ちされたものだからだ。開始1分のプレーで米倉を抜き去った時は、スピードを活かして縦に突破した。そして自らのゴール場面では、相手の心理を読み切って、縦ではなく中へ侵入したという。

「1点目の時に(米倉を)縦に抜いたのもあるし、その後も何回か仕掛けていて、相手(米倉)が縦を切ってきたので簡単に中に行けた。あんまり綺麗なゴールには見えないけど、狙いどおりにタイミングを外して打てました」

醸し出す雰囲気は22歳の「穏やかな青年」だが、発言の裏にはドリブラーの強烈な矜持が透けて見える。それは代表SB米倉に対する強気のコメントからも十分に汲み取れる。

「1点目を取れた時に(米倉は)あんまり守備が得意じゃないのかなと思って、これは行けるなと」

大島僚太と同じ“93年組”。U-22代表入りに意欲を燃やす。

 中野は、チームメイトでU-22代表の主軸である大島僚太と同じ“93年組”。つまり、リオデジャネイロ五輪世代であり、今のまま活躍を続ければU- 22代表選出の可能性も見えてくる。本人は「そのレベルにまだ達していない」と謙遜するが、だからと言って諦めたわけでもない。

「チームメイトのレベルが高いので、練習でレベルアップしていきたい。今まで代表には全然縁がなかったけど、良いチームでやらせてもらっているし、(U-22代表入りの)チャンスもあると思うので、結果を残していきたい」

中野は何度もチームの練習を通して成長したいと口にした。その理由は、大久保や中村の存在だと語る。

「嘉人さんや憲剛さんは高いレベルで要求してくるので、それをひとつずつできるようになると、プレーが良くなっているのが自分でも分かる。要求に応えると崩せるようになるし、その手応えに自分の成長を感じています」

守備面やプレーの精度・安定感を含めて、まだ改善すべき点は少なくない。中野本人も「自分がスピードを上げ過ぎてボールを取られる場面もあったので、行くところと行かないところの判断は課題」と口にする。

それでも中野の鋭いドリブルは、もはや川崎の武器になっており、ポゼッションサッカーのアクセントとしても欠かせない。終盤戦でどのようなプレーを見せるのか。そして誰を翻弄するのか。1対1のドリブルから目が離せない。

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