「バカみたいな話ですが…」ロッカー室で涙 日本代表を救ったヒーロー2人の記憶 「キャプテンが抜け…」“最高にして最後の試合”
【識者コラム】16日の敵地オマーン戦、前回W杯予選のアウェーUAE戦に似ている
11月シリーズの1試合目でベトナムに勝利し、ここまでカタール・ワールドカップ(W杯)アジア最終予選の結果を3勝2敗とした日本代表は、16日にアウェーのオマーン戦に挑む。ある意味で開幕戦のリベンジを狙う構図は、前回W杯の最終予選で、同じ6試合目にアウェーのUAE戦を戦った時に似ている。
2016年の9月、当時バヒド・ハリルホジッチが率いていた日本はホームの開幕戦でUAEに敗れて、いきなり危機的なチーム状況になった。そこからアウェーでタイ、ホームでイラクに勝利し、アウェーでオーストラリアと引き分け、11月にホームでサウジアラビアに勝利。4勝1分1敗とする。
そして年が変わって3月に行われた1試合目だったことは異なるが、サウジアラビア、オーストラリアに次ぐ国であり、アウェーの地で勝ち点3を掴み取らないといけない相手だった。2-0の勝利を飾った試合のヒーローは、2年ぶりに代表復帰した今野泰幸と10か月ぶりのスタメンとなった川島永嗣だ。
ともに34歳だった2人。今野が起用された背景には絶対的な存在だったキャプテン長谷部誠の負傷による欠場があった。ハリルホジッチは4-3-3を採用し、中盤のアンカーに山口蛍、インサイドハーフに香川真司と今野が入った。攻撃的なMFではない今野だが、中盤でボールを奪うパワー、そこから前に出ていく推進力を発揮した。
酒井宏樹のアシストから久保裕也が決めて前半の早い時間帯にリードした日本だったが、ピッチコンディションに苦しんでパスがつながらず、加速力のあるUAEの攻撃に苦しむシーンが目立ってくる。しかし、カウンターから抜け出したFWマブフートのシュートを川島が1対1でビッグセーブ。大きなピンチを防ぎ、「1つ耐えることで、流れを引き寄せることができた」と振り返るように、そこから日本は攻撃の勢いを取り戻した。
そして後半6分には吉田麻也のロングフィードを前線で大迫勇也が競り勝って落とし、久保(裕)が右サイドから左足で上げたクロスボールに今野が飛び込んで、胸トラップから左足で押し込んだ。2点のリードを守り抜いて勝利した日本。司令塔オマル・アブダルラフマンを擁するUAEは今回のオマーンとも違った怖さを持つ相手だった。
敵地での躍動に代償、帰国後の検査で左足小指が骨折していることが判明
しかも、いわゆる”中東の笛”で危険な位置のファウルなど、不利な判定を受けるリスクもあるなかで、この大事な試合で抜擢された川島と今野の存在が日本に落ち着きと勢いの両方をもたらした。試合後、川島は冷静に「自分の持っているものをすべてだそうと思ってピッチに立ちました」と振り返った。
川島は自身のブログで「バカみたいな話ですが、UAE戦が終わった後は、ロッカールームに戻っても涙が止まりませんでした」と綴り、ロッカールームで涙が止まらなかったことを明かしている。フランスのメスに所属していた川島は所属クラブで出場機会をなかなか得られず、練習試合などで感覚を養うのが精一杯だった。しかし、このチャンスに覚悟を決めて臨み、見事に日本の勝利を支えたことが転機に。クラブでも代表でも状況を変える試合であり、38歳となった現在も心の糧になっているはずだ。
一方の今野は、”長谷部キャプテンの代役”としても期待されていた部分もあったなかで、「日本の中心でプレーしてきたキャプテンが抜けたことで、チームが崩れてしまったら、日本のW杯が遠のいてしまう」と覚悟を決めた。ハリルホジッチは当時から井手口陽介の才能を気にかけて、ガンバ大阪の試合を足繁く視察していたが、そこで目に留まったのが、しばらく代表を離れていた今野だった。そして当時、G大阪は中盤を逆三角形にしていたこともハリルホジッチの起用法に結び付いたと考えられる。
ただし、敵地での躍動は代償も伴った。今野は帰国後の検査で左足小指が骨折していることが判明して、ホームのタイ戦を前に離脱することとなった。現在、G大阪から移籍したジュビロ磐田で、度重なる怪我と戦いながらも奮闘する今野だが、”スーパー今ちゃん”を代表の場で披露した最高にして最後の試合となったことは残念だった。
今回のオマーン戦に向けてはベトナム戦のスタメンがベースになると考えられるが、確かなことは守田英正が累積警告により出場停止になること。柴崎岳やベトナム戦ではベンチメンバーに入れなかった旗手怜央などの起用も想定されるが、チームとしても個人としてもリベンジを期待したいのが原口元気だ。
原口元気が見せる自信「一番走れる」 年齢に関係なくギラギラした選手が輝く
ホームのオマーン戦では4-2-3-1の左サイドで先発しながら、ハーフタイムに古橋亨梧と交代で苦い経験を味わった原口。所属クラブのウニオン・ベルリンでは3-1-4-2のインサイドハーフを担っている原口は4-3-3の中盤でも「やりやすさもありますし、イメージもしやすい」と語る。
守田、遠藤航、田中碧が組む”3ボランチ”的な構成とは違う特長を出せると考えているようだ。30歳の原口だが他のMFとの違いに関して「走力ですね、やっぱり。ボックストゥボックスで一番走れる」と自信をみなぎらせる。
森保一監督がオマーン戦にどういう形、布陣で臨むかは分からないが、ベトナム戦からプラスアルファが加わっていかないと、日本に対して慣れも経験もあるオマーンを敵地で上回り、リベンジを果たすことも難しいだろう。もちろん旗手をはじめとした若手に期待するのも1つだが、原口のような年齢に関係なくギラギラした選手が前回の川島、今野のようなヒーローとして再び輝く可能性も十分にある試合だ。