忘れられない衝撃のワンプレー「ゴム製なのに“バチン!”って」 栗原勇蔵×昌子源対談【後編】
【月間表彰】7月の「月間ベストディフェンシブプレーヤー」にG大阪の昌子源を選出
スポーツチャンネル「DAZN」とパートナーメディアで構成される「DAZN Jリーグ推進委員会」との連動企画で、元日本代表DFとして活躍した栗原勇蔵氏は7月のJリーグ「月間ベストディフェンシブプレーヤー」にガンバ大阪の日本代表DF昌子源を選出。同じセンターバックとして「好きな選手」に挙げる昌子の凄さとは――。意外にも初対面となる2人の対談が実現した。
前編では、ベストディフェンシブプレーヤーに選出された昌子の、質の高い守備シーンについて語った。後編では、フランス・トゥールーズで知った日本との守備の考え方の違い、手術から復帰してコンディションが戻ってきたこれからについて栗原氏が尋ねた。
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栗原 昨年から続くコロナ禍の影響で今年も大変なシーズンが続いているし、ガンバ大阪は序盤に陽性者が出てトレーニングできなかった時期もあった。本当に大変だったと思うけど、最近のチーム状況はどうなの?
昌子 陽性者が出てチームとしての活動が止まってしまった時は、選手だけじゃなくてチームスタッフやフロントスタッフの方も含めて、本当にガンバ大阪っていうチーム自体が苦しかったですし、再開してからもなかなか試合では勝てませんでした。その結果、監督交代になってしまって、それについては実際にやっている僕ら選手が一番考えないといけないことでもありました。ただ、そういったなかでも試合は待ってくれませんし、連戦でしたけど、やるしかなかったので、もちろんコンディション的にも選手によってバラつきがあって大変なんですけど、普段なかなか出番のない選手が試合に出ていいパフォーマンスをしてくれました。直近の試合で言うと、8月13日の清水エスパルスとの試合で、特別指定の山見(大登)選手が決勝ゴールを挙げたんです。
栗原 見ましたよ。
昌子 そうやって新戦力というか、新しい風をチームに吹き込んでくれる存在というのは、この連戦ではチームにとって本当に大きな力になりますし、ようやく最近はチームの状態も上がってきているんじゃないかなと感じています。
栗原 確か15連戦でしたっけ?
昌子 そうなんです。
栗原 それはきついよね。でも、昌子選手はほとんどの試合に出ていたよね?
昌子 そうですね、ほぼほぼ出ていましたね。
栗原 やっぱり替えがきかない選手だね。さすがだなって思うんだけど、フランスに行く前と今とでは、自分の中ではパフォーマンスはどのくらい戻ってきているの? ほら、怪我もしていたじゃない?
昌子 そうですね。鹿島アントラーズの時は自分でも素晴らしいパフォーマンスをしていたと思います。それに比べると、どうしても1対1で取り切れないなって思う時があります。鹿島の時は自分でも、自分のところで相手の攻撃を終わらせることができていたんですけど、(最近は)抜かれてはいないんだけど取り切れてはいない、というのが多々見られますね。そういうことを考えると、まだもう少し感覚的な1対1の間合いや足の出し方は躊躇しているのかなと少し感じています。
栗原 まあ、鹿島の時はちょっと無双すぎたからね。
「1対1が10個ある」日本とフランスのサッカーの捉え方の違い
栗原 自分も「すごい選手が出てきたな」と思って見ていたんだよ。あまり年下の同じポジションの選手で、それまですごいと思う選手はいなかったので、海外に行ったのは必然だったなと思っていたんだ。実際にフランスでプレーしてみて、Jリーグとは何が違ったの?
昌子 日本ではGKを抜きにしたら、サッカーは10対10でやるという捉え方だと思うんですけど、フランスは1対1が10個あるという考え方なんです。だから抜かれたら抜かれた選手のせいで、抜かれてもカバーがいなかったりするので、チャレンジ&カバーという日本の教え方に反しているんです。抜かれたらカバーなんていない、抜かれたらお前のせい、という感じでした。僕はフランスに行ってすぐに試合に出させてもらって、そこからシーズンが終わるまで20試合すべての試合に出させてもらったんですが、後半になるにつれて、相手の特徴が分かってきて対応できる部分も増えてきましたけど、フランス(トゥールーズ)に行ったばかりの頃は全く相手選手を抑えられなかったですね。
栗原 フランスにはとんでもない選手たちがいましたもんね。
昌子 確かにパワーとスピードはすごいですけど、足下やテクニックは絶対に日本人のほうが上手いです。ただやっぱり単純なパワーとかは、日本人が勝つのは難しいかなと思いますけど。
栗原 そうだよね。日本では有名じゃない選手でも、すごい選手がいっぱいいるからね。
昌子 フランスはアフリカ系の選手が多くて、各チーム、ワントップを張るような選手は190cm超えのアフリカ系の屈強な選手が多いので、日本では体験できないような選手たちと毎試合対峙していましたね。
栗原 それを経験して、Jリーグに戻ってきたら、楽というか、全然違うなっていう感覚はあったの?
昌子 1対1は感覚的にはもがいて取るというよりは、こっちが主導権を握って取れることが多いかなって感じましたね。フランスでは相手が何をしてくるか分からないし、単純にバーンって前にボールを蹴ってヨーイドンでも勝てないので、全部がリアクションで守っていたなと思うんです。でも、ディフェンスって基本的にすべてがリアクションじゃないですか。相手のフェイントに付いていく。でも僕はどっちかっていうと、自分からアクションを仕掛けてボールを取ったりもするので、そういうのは日本のほうが守りやすいなと感じます。
栗原 1回のミスで絶対に取り返しがつかないフランスと、自分からチャレンジしてもまだそこから2回3回とチャレンジできる日本との違いってわけだね。でも、すごい経験をしてきたと思うし、ここからまだまだ自分の中では成長して、鹿島時代のパフォーマンスに戻らなくちゃいけないと思うし、期待しています。
昌子 僕自身も自分の上限が下がったとは思っていないので、そこにまた自分が近づいていかないといけないと思っています。フランスも怪我で後半の半年ぐらいはプレーしていないので、結局は1年しかやっていないんですけど、それでもフランスに行かないと分からないこともたくさんありました。1年ですけど、自分のサッカー人生にとってすごくプラスになっているんです。帰国して昨年末に右足のオペをしたので、そういう意味では今シーズンはパフォーマンスも上がってきているし、足首もリバウンドが今のところは出ていないので、あとはもう自分対自分なのかなと考えています。
栗原 いやあ、それを聞いてさらに楽しみになりました。
横浜FM戦に滅法強かった昌子、伊藤翔に言われた一言「点が取れる気がしない」
栗原 僕は今、横浜F・マリノスのクラブシップ・キャプテンという役割をやっているので、F・マリノス戦以外で活躍してほしいですね(笑)。F・マリノス戦でやたらと活躍しているイメージがあるので。
昌子 自分で言うのもなんですけど……確かに、鹿島時代はF・マリノスとの相性が良かったですね。
栗原 だって現役時代、実際に対戦した時もベンチで見ていた時もあるけど、「すごいな」って思うシーンがたくさんあって。毎回このパフォーマンスをやっているのかなって、疑問に思ってたぐらいだからね。
昌子 実はF・マリノス時代の伊藤翔選手と金井貢史選手から試合後に言われたことがあるんですよ。
栗原 え、そうなの?
昌子 伊藤選手には「お前と森重(真人)とやる時だけは点が取れる気がしない」と言ってもらったことがあって。
栗原 確かに翔は完全に抑えられていたイメージがあるね。しかも、そういうことを彼はあまり言わないタイプだから。
昌子 伊藤選手に言ってもらったのは本当にうれしかったですね。金井選手は雑誌の記事で読んだんですけど、「対峙した選手で誰が一番すごかったか?」という質問に対して、金井選手はサイドバックの選手なので普通はアタッカーを挙げるはずですけど、僕の名前を挙げてくれていたんです。
栗原 なるほど。でも、それぐらいのパフォーマンスを、特にF・マリノス戦ではしていたと思うよ。
昌子 ありがとうございます。
栗原 昌子選手自身は鹿島時代にJ1リーグ、ナビスコカップ(現ルヴァンカップ)、天皇杯、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)とすべてのタイトルを獲っているし、海外でもプレーしているけど、次の目標って何になるの?
昌子 そうですね、確かに鹿島時代に獲れるタイトルはすべて獲らせていただいたんですけど、やっぱりチームが変わったので、もう一度、ガンバ大阪ですべてのタイトルを獲りたいと思っています。それが今の目標ですね。
栗原 かっこいいね。ポジションが一緒だったし、本当にすごい選手だなってずっと思っていたから、今日は話せてうれしかったよ。ありがとう。
昌子 いえいえ、僕はもう栗原さんと言えば、日産スタジアムで、いつだったか覚えていないんですけど、中村俊輔さんのコーナーキックをドンピシャで合わせたシーンが強烈に印象に残っていて。僕のマークではなかったんですけど。
栗原 確か、青木(剛)さんじゃない?
昌子 そうです、青木さんやったんですけど、「人間ってこんなにジャンプできるんや」と思いましたからね。
栗原 いやいや、そんなことないよ(笑)。
昌子 当時の鹿島にはヘディングに強い岩政大樹さんがいたんですけど、「こんなに強いヘディングが打てるんや」って。
栗原 確かにあの時はドンピシャだったね(笑)。
昌子 ボールってゴム製なのに「バチン!」って言うてましたから(笑)。あれがもう印象的でしたね。
栗原 今日は本当に連戦で疲れているところありがとう! 引き続き、期待して見ているよ。
昌子 はい。こちらこそ、今日はありがとうございました。
[プロフィール]
栗原勇蔵/1983年9月18日生まれ、神奈川県出身。横浜F・マリノスの下部組織で育ち、2002年にトップ昇格。元日本代表DF松田直樹、同DF中澤佑二の下でセンターバックとしての能力を磨くと、プロ5年目の06年から出場機会を増やし最終ラインに欠かせない選手へと成長した。日本代表としても活躍し、20試合3得点を記録。横浜FM一筋で18シーズンを過ごし、19年限りで現役を引退した。現在は横浜FMの「クラブシップ・キャプテン」として活動している。