日本代表DFの瞬時の判断、「相手を信じた結果の対応」とは? 栗原勇蔵×昌子源対談【前編】
【月間表彰】7月の「月間ベストディフェンシブプレーヤー」にG大阪の昌子源を選出
スポーツチャンネル「DAZN」とパートナーメディアで構成される「DAZN Jリーグ推進委員会」との連動企画で、元日本代表DFとして活躍した栗原勇蔵氏は7月のJリーグ「月間ベストディフェンシブプレーヤー」にガンバ大阪の日本代表DF昌子源を選出。同じセンターバックとして「好きな選手」に挙げる昌子の凄さとは――。意外にも初対面となる2人の対談が実現した。
前編では、昌子のセンターバックとしての高い能力が発揮されたシーンについて、頭の中を解説。凌ぎを削ってきたセンターバック同士にしか見えないディフェンスの世界について語り合った。
◇ ◇ ◇
昌子 栗原さん、初めましてですよね?
栗原 うん、そうだね。
昌子 試合では何度か対戦していますけど、こうやってお話しするのは本当に初めてなので、よろしくお願いします!
栗原 初めましてだけど、久しぶりです(笑)。今回は7月のベストディフェンシブプレーヤーに昌子選手を選ばせてもらったんだけど、7月はJリーグの試合数もチームによってバラバラだったから選ぶのは結構難しかったんです。でも、どの試合を見ても常に高いパフォーマンスでプレーしていたので、選出させてもらいました。
昌子 ありがとうございます!
栗原 こういった正式な対談でこんなことを言うのもなんだけど、昌子選手は個人的に大好きなセンターバックなんですよ。
昌子 え? 本当ですか? ありがとうございます!
栗原 周りにも言っているぐらい、本当です。だから正直、ちょっと好きな選手ということもプラスに作用したところはあります(笑)。
昌子 いや、でもうれしいです!
栗原 昌子選手というと、高いカバー力とか、強いヘディングに目が向きがちだけど、自分的は地上戦の強さのほうがすごく好きなんです。7月も確かにヘディングのシーンで目立ったプレーが多かったんだけど、今回はあえて7月30日の第4節北海道コンサドーレ札幌戦でのプレーを選出させていただきました。開始4分にジェイ選手のシュートをブロックしたシーンです。ただ、ディフェンスラインが揃っていなかったので、本人的には納得していないプレーなのかなとも思ったんだけど、どうかな?
昌子 そうですね。一瞬、ラインでジェイ選手をオフサイドにしようと思って、ちょっとサボらせてもらったシーンです(笑)。
栗原 やっぱり(笑)。ただね、昌子選手にしかできないプレーがあると思っていつも見ていて、いいFWやアタッカー陣との対決も楽しみにしているんだけど、この時のジェイ選手の対応はどう考えていたの?
昌子 このシーンに関して言えば、単純に、ジェイ選手にヘディングで勝つことはお互いの身長差を考えると難しいので、こまめなラインコントロールで勝負しました。(北海道コンサドーレ)札幌は福森(晃斗)選手を始めディフェンスラインからすごくいいボールが出てくるんですけど、このシーンもジェイ選手を越えたところにチャナティップ選手がいて、ヘディングで落とされて『まずいな』と思ったんです。でも戻りながらの対応だったので、ボールに行くというよりは、ゴールに体を投げ出そうと思って行ったら、たまたまボールが当たってくれたんです。
普通に見たらシュートコースでヘディングでクリアしただけだが…
栗原 そうだったんだね。昌子選手自身は終了間際の金子(拓郎)選手のシュートをヘディングで防いだシーンが「納得いくプレーだった」と聞いているんだけど、どうして納得いくプレーだったの?
昌子 終了間際のあの時間帯ということもあって、絶対にパスはしないだろうと思っていたんです。それと、金子選手は必ず左足でシュートを打つだろうなと。宇佐美(貴史)が金子選手の対応をしていたんですけど、宇佐美がどういう対応をしようが絶対に左足で打つと僕は確信していたので、金子選手が打つまではカバーに入っていないんです。金子選手自身は恐らく東口(順昭)が触れないコースにシュートを打つだろうなと思っていた。でも、そのコースに早く入ってしまったら、宇佐美の股を狙ったり、違うことを考えられると思って、打つ瞬間まであえて動かなかったんです。それでシュートを打つ瞬間に一歩だけ中に入ってヘディングでクリアしました。いい意味で金子選手を信じた結果の対応だったんです。
栗原 なるほどね。一見、ただのワンシーンのようだけど、そこにはすごい駆け引きがあったってわけだね。
昌子 ありましたね。普通に見たら、シュートコースでヘディングでクリアしただけのように見えるかもしれないですけど、よくよく見ていただいたら、それまで僕は一歩も動いていなかったり、シュートを打つ瞬間に一歩中に入っていたりしていることが分かると思います。それに金子選手の目線も気にしながらプレーしていましたから。
栗原 いやあやっぱり、能力が高いだけじゃなくてそういう読みも素晴らしいし、改めてすごい選手だなと思いました。自分もまだまだもっと見る目を養わないとダメだなと思いましたね。確かに金子選手の特徴は分かりやすいんだけど、早く動きすぎても、股を狙われたりもするからね。そうやって瞬間的に判断して、プレーの選択ができるところがやっぱり素晴らしいなと改めて思いました。
昌子 栗原さんも現役の選手やったんで分かってくれますけど、ホンマに0.何秒の世界ですからね。瞬時に状況は変わりますし、そのなかであのシーンについては冷静に見えていたなと自分でも思います。
栗原 じゃあ間違いない。もうあのシーンがベストプレーですね!
[プロフィール]
栗原勇蔵/1983年9月18日生まれ、神奈川県出身。横浜F・マリノスの下部組織で育ち、2002年にトップ昇格。元日本代表DF松田直樹、同DF中澤佑二の下でセンターバックとしての能力を磨くと、プロ5年目の06年から出場機会を増やし最終ラインに欠かせない選手へと成長した。日本代表としても活躍し、20試合3得点を記録。横浜FM一筋で18シーズンを過ごし、19年限りで現役を引退した。現在は横浜FMの「クラブシップ・キャプテン」として活動している。