メダル獲得の原動力に…川口能活のメンタリティを引き継ぐ守護神・谷晃生
東京五輪前最後のテストマッチとなった17日のU-24スペイン戦(神戸)。U-24日本代表のゴールマウスを守ったのは、背番号12をつける20歳の守護神・谷晃生だった。6月のU-24ガーナ戦(福岡)から4試合連続スタメン出場した若武者は森保一監督の信頼を勝ち取り、正GKの座をガッチリとつかんだ格好だ。
ここまでのU-24ガーナ、ジャマイカ、U-24ホンジュラスは日本が主導権を握る時間帯が長かったため、彼自身の見せ場はあまり多くなかった。しかし、優勝候補筆頭に挙げられるスペインは全くの異次元だ。開始10分間のボール支配率は24%対76%と圧倒的劣勢を強いられ、DF陣は守りに奔走する羽目になった。
谷もつねに最後尾から大声を張り上げて指示を送り、リスタートになるとマークを徹底確認しつつ、自身のポジショニングを入念にチェックする。そしてラファ・ミルの強烈シュートを鋭い反応で阻止した15分の決定機に象徴される通り、「最後の砦」としての意地とプライドを前面に押し出した。前半はガンバ大阪アカデミー時代の先輩・堂安律の一撃で1点をリードして終了。彼自身もある程度の手応えをつかんだことだろう。
ここでお役御免となった谷は、吉田麻也、酒井宏樹、遠藤航のオーバーエージ(OA)3人らとともにベンチから試合を見守った。ゴールを守る盟友・大迫敬介は代表活動のたびに、ともに自己研鑽してきた仲間。彼の好セーブを目の当たりにして、思うところはあっただろう。
しかしながら、スペインが温存していたペドリやエリック・ガルシアら主力級を投入してきたこともあって、日本は押し込まれ、苦戦を強いられる。最終的には78分に途中出場のカルロス・ソレルの一撃を浴び、1-1で試合終了。世界的強豪国がズラリと揃う五輪でメダルを取ることの難しさを正守護神は改めて再認識したはずだ。
厳しい現実を目の当たりにしたからこそ、彼は自身のベストを貪欲に追い求めていく意思をより鮮明にしたはずだ。
「能活さん(川口GKコーチ)からは細部までこだわることが必要だと言われています。一つ一つのプレーをどこまで突き詰められるか。それを練習からやれないと試合では実践できない。キャッチするのか、弾くのか。弾くならどこに弾くのか。ポジショニングもそう。パンチングをするにしても、味方DFや相手FWもいるので、そこも見ないといけないし、どこに飛ばしたらいいのか考えないといけない。そういうことをしっかりやらなければいけないと思ってます」と本人は語気を強めていた。
どんな時も高みを目指し続ける真摯な姿勢は、現役時代の川口に通じる。目下、GKコーチとして谷ら若い世代を指導する男の真骨頂と言えるのが、1996年7月22日(日本時間23日未明)に王国・ブラジルを1-0で撃破した「マイアミの奇跡」だろう。当時20歳の進境著しい守護神は30本近いシュートを浴びながらも決してゴールを割らせず、味方を力強く鼓舞。伊東輝悦の決勝点を後押しするに至った。
「最初は怖さの方が勝っていたけど、最初にキャッチしたボールの感覚がよくて、シュートを打たれることが楽しみに変わっていった。自分の中で妙に落ち着いていたのもあるし、高揚感と冷静さがいい具合のバランスでしたね」と川口は四半世紀前の偉業を振り返っていた。谷も22日の南アフリカ戦(東京)からスタートする東京五輪の戦いでそういったマインドを持つことができれば、確固たる存在感を示せるに違いない。
2017年U-20ワールドカップ(インド)など10代の頃から年代別代表経験を積み重ね、J1の湘南ベルマーレで定位置をつかみ、難易度の高いシュートを次々とストップする姿、そして爽やかなルックスも含め、谷は川口と重なる部分が少なくない。
「晃生は僕の若い頃を知らないでしょうね。それに彼の方がもうちょっと賢くやってるんじゃないですか」と川口は笑っていたが、そんな偉大な先人を超えてこそ、東京五輪のメダルに手が届く。それは非常に高いハードルだが、やらなけれないけない命題だ。
そのためにも、往年の川口のような圧倒的熱量をピッチ上で表現し、最後尾から吉田や酒井、遠藤ら年長者を動かすくらいの堂々たるパフォーマンスが強く求められてくる。
「東京五輪はこれから続くサッカーキャリアの中で非常に大きな価値のある大会。本当に今回次第で先の人生が変わると言っても過言ではない。そこに向けて1戦1戦、しっかりと入って、しっかりとプレーすることが大事だと思います。
もちろんいい状態の時もあれば、悪い状態の時もありますけど、短期決戦の中でブレることなくプレーすることが大事。責任感とアグレッシブさを最大限に出していければと考えています」
こう意気込みを示す谷は、かつての川口がマリオという信頼と尊敬に値するGKコーチの魂を引き継いだように、川口の闘争心と向上心を大舞台で力強く示す必要がある。大迫、鈴木彩艶と共闘しつつ、全員でいいグループとして戦い抜くことも重要だ。
先のユーロ2020で優勝したイタリアのジャンルイジ・ドンナルンマは22歳。年齢が若くても老獪なパフォーマンスは出せるはず。まさに今が谷にとっての正念場。鬼気迫る一挙手一投足で世界にインパクトを与えてほしい。