41歳・遠藤保仁の真骨頂(1)同じ「タメを作る」家長昭博との大きな違い
遠藤保仁、41歳。彼の“名人芸”を今のうちに見ておいた方がいい。彼がピッチのどこかでのらりくらりしていたら、それは絶対的なチャンスメイク(対戦相手からすれば大ピンチ)の前兆だ。Jリーグのデータによると、1試合平均敵陣パス数の43.6はリーグ1位。彼の作り出すタメによって、攻撃は一気呵成に加速する。今シーズンはJ2で第15節までの7試合に先発出場している。イニエスタ? J2のジュビロ磐田には遠藤ヤットがいる――。
■不気味な4位のジュビロ磐田
アルビレックス新潟とFC琉球のマッチレースが続いていたJ2リーグは、ここにきて順位争いに変動が生じている。首位を走っていた新潟が5月16日の第14節のFC町田ゼルビア戦に敗れて琉球が首位に立ったのだが、続く第15節ではまず22日の試合で琉球がモンテディオ山形に敗れ、翌23日には新潟も京都サンガFCに敗れてしまった。この結果、今シーズンからチョウ・キジェ監督が就任して注目を集めていた京都がついに首位に立ち、これを2ポイント差で新潟と琉球が追う展開となったのだ(第16節では新潟と琉球が対戦する)。
そして、この上位「3強」を追うのが5月に入って調子を上げてきたジュビロ磐田で、新潟、琉球からは4ポイント差に付けており、上位陣にとっては不気味な存在であろう。
そのジュビロ磐田が東京ヴェルディを2対0で破った試合(5月23日、味の素スタジアム)を見た。スタジアムで磐田を観戦するのは今シーズンこれが初めてだった。
試合は、90分にわたって磐田がコントロールした。なかなかチャンスを得点に結びつけられずにいたものの、39分に右から遠藤保仁が上げたボールのこぼれを左サイドにいた伊藤洋輝が折り返すと、右サイドにいた鈴木雄斗がダイレクトで決めてようやく先制。その後も何度かあった決定機を決めきれず、終盤には東京Vの力攻めに押しこまれる時間もあったが、磐田はそれをことごとく跳ね返し続け、90+4分には山田大記が放ったシュートが相手DFに当たってこぼれたところを山本康裕が蹴り込んで勝負を決めた。
苦しみはしたものの、内容的には完全に磐田のゲームだった。
嬉しかったのは、久しぶりに遠藤保仁のプレーを生で見られたことだ。89分に守備固めで今野泰幸と交代するまで、ほぼフル出場だった。
飄々としたプレースタイルは相変わらずで、全体的にせわしない感じでバタバタした試合が多いJ2リーグの中で、遠藤の周囲だけ別の時間が流れているようだった。
■遠藤保仁のタメの作り方
サッカーの記事では「タメを作る」という表現がよく使われる。 「タメ」。感じで書けば「溜め」である。ちょっとプレーのテンポを変えることによって「間(ま)」を作って、その間に味方が適切なポジションに入ることで攻撃を加速するわけだ。
遠藤の真骨頂は、まさにその「タメを作る」プレーである。
遠藤がボールを持つことによって、そこで数秒の時間ができる。その間に、周囲の選手がスペースに飛び出したり、スペースを作る動きをする。そして、遠藤が絶妙のタイミングでパスを出すことによってスイッチが入り、ゲームが(味方に有利な形で)再び動き出す。それが、絶妙の「間」である。
東京V戦でも、遠藤はそんな“名人芸”をしっかりと見せてくれた。かつて、ガンバ大阪や日本代表でさんざん見てきたプレーであるが、J2という舞台で見るとそれがかえって際だって見えるので、あらためてその「タメを作る」プレーを堪能したというわけである。
現在のJ1リーグでこの「タメを作る」プレーが最もうまいのが、J1リーグを独走している川崎フロンターレの攻撃リーダーである家長昭博だ。
右サイドにいたかと思えば、左サイドにも神出鬼没で顔を出して、そこで家長がボールを収めてキープすることによって「間」ができる。その間に、川崎の選手たちが次々と決定的なポジションに入り込んで、一気に攻撃が加速する。
面白いのは、家長がボールをキープして「タメを作る」プレーと、遠藤が「タメを作る」プレーを比べてみると、その方法がまったく違うことだ。
家長は、相手DFとボールの間に体を入れて、相手選手からボールを完全に隠してキープする。時には腕を使って相手選手の動きを止めるハンドオフも巧みに使い、こうなると相手選手が当たって来ても家長はビクともしないので、相手はボールに触ることもできなくなってしまうのだ。
一方の遠藤はボールを隠したりはしない。むしろ、意図的に相手選手の目の前にボールを晒すのだ。相手選手からしたら、すぐにでもボールを奪えそうに感じることだろう。
だが、遠藤は相手が間合いを詰めてきたら味方と簡単なパスを交換するだけで相手にボールを触らせず、ボールを保持できる。状況によっては周囲の味方を使えないときもあるが、そういう時には自分でボールを動かして相手からボールを隠すこともあるが、基本的にはボールは完全に晒されている。時には、わざと相手の脚にボールを当てて、タッチラインを割らせてスローインにするといった技も駆使してみせる。
家長は自分の体を武器にボールを保持し、遠藤は味方を使いながら複数でボールを保持して「タメ」を作るのだ。