“宮本恒靖の監督解任”でも勝てない……G大阪の危機は「クルピ監督就任」から始まったのかもしれない
開始1分の失点がガンバ大阪にとってはすべてだった。
これまで11試合で3得点、複数得点がないチームにとって先制点を奪われた精神的なショックは外から見ていても容易に分かるほどだった。選手は動揺し、FC東京の攻撃に受け身になり、立て続けに2点、3点取られてもおかしくない状況が続いた。
徐々に落ち着きを取り戻して後半は圧をかけて攻めたが、FC東京の堅い守備に手こずり、得点ができない。
「クロスは何本かいいのが入っていたんですが、中に入るタイミングとか入り方を改善しないといけないですし、DFから背後の攻撃が多くなって、待ち構えている守備を切り崩すことができなかった」
試合後、松波正信監督はそう語ったが、攻撃は単発で迫力を欠き、得点の匂いがあまり感じられなかった。5人の交代枠をフルに使いきったがスコアは動かず、今シーズン6試合目の完封負けを喫し、これで4連敗。1勝4分7敗(勝ち点7)で19位に転落した。
この“危機”はどこから始まったのか?
宮本恒靖の監督解任というショック療法も通じず、松波監督になって、これで2連敗。9年前、J2に降格した時、12試合を終えた時点の成績は、2勝3分7敗(勝ち点9)だったが、その時よりも今回は勝ち点が少ない。しかもその時の戦力よりも今回はスケールダウンしている。今のチームには頼れる遠藤保仁も今野泰幸も加地亮も明神智和も家長昭博もいないのだ。しかも4チームが自動降格。それだけにチームは危機感でいっぱいだろう。
だが、この状況は、果たして今に始まったものなのだろうか。
2018年、レヴィー・クルピが監督に就任した時からクラブのビジョンと強化に何かしらの齟齬が生じていったのではないだろうか。
西野時代を越える「強いチーム」に
クルピは若手育成に定評があり、攻撃的サッカーを具現化し、タイトルを奪還すべく招聘されたが、4勝3分10敗で16位に低迷し、解任された。急遽、トップの監督を任された宮本は今野らを起用して降格危機にあったチームを救い、第25節から第33節にかけて9連勝を記録するなど10勝3分4敗の成績を残し、最終的に9位に順位を押し上げた。翌年からは自らが中心となってガンバの世代交代を推し進め、西野朗時代を超える強いチーム作りの陣頭指揮に当たった。
それがクラブの狙いであり、宮本監督のミッションだった。
19年には攻守に貢献してきた今野がジュビロ磐田に完全移籍し、米倉恒貴がジェフユナイデット市原・千葉に移籍した。昨季は世代交代が加速し、オ・ジェソクが名古屋グランパスに完全移籍。さらにガンバのレジェンドである遠藤が磐田への期限付き移籍でチームを去り、その代わりに山本悠樹、高尾瑠、川崎修平、福田湧矢ら若手を積極的に起用した。山本、高尾らはシーズンを通して、レギュラーポジションを任され、ある程度の結果を残し、世代交代への推進が順調のように見えた。
「遠藤をうまく使いながら世代交代」もできたのでは?
だが、彼らのいずれも今シーズンは怪我をしたりして、伸び悩んでおり、昨季ほどの活躍を見せられずにいる。「任された」というのは、全員が熾烈なレギュラー争いの中でポジションを奪い取ったという感ではなかったということだ。川崎フロンターレのように油断するとすぐにポジションを奪われる厳しい環境と同じ“競争”が進んでいたとは思えない。それでもチャンスを与えられたのであれば1年だけではなく、2年、3年とつづけてポジションをキープし、結果を出し続け、チームの軸となる選手が生まれていれば、本当の意味での世代交代が実現できていたかもしれない。
今にして思えばドラスティックに若手にシフトするのではなく、ベテランの遠藤をうまく使いながら世代交代を推し進める、そんな余裕がクラブにも監督にあっても良かったのではないだろうか。
シーズン前、昌子源は「試合の流れを変えられるし、存在自体大きいのでヤットさんがいなくなったのはチームにとって大きい」と語っていた。ピッチで戦う選手は、特別な選手がチームに与える影響力の大きさ、そのプレーの凄みを理解している。昌子らにしてみれば苦しくなった時のベテランの存在の重要性を鹿島時代に小笠原満男らとプレーすることでわかっていただけに、遠藤の移籍を本気で残念に思っていたのだと思う。
声を出していたのは「東口と昌子だけ」だった
ガンバは今、勝てないことに加え、世代交代の過渡期にあるチームに起こりがちな多くの困難を抱え、難しい状況にある。宮本監督の解任という劇薬を投じても蘇生できず、状態はさらに悪化しつつある。FC東京戦を見ても連敗中で元気がないのは分かるが、しかし、試合中、声を出しているのは東口順昭と昌子だけだった。
ボールを握ってはいるが、畳みかけるような攻撃ができない。クロスを入れても中に入っていく選手が少ないので、中央を固めたFC東京の守備陣に軽々と跳ね返されていた。空中戦が不利となると地上戦でパスを繋いで攻めるがテンポが変わらず、待ち受けている相手に引っかかり、カウンターを何度も喰らった。相手のミスに助けられたが、もう2、3点失ってもおかしくないほど危うかった。
うまくいかない、勝てない状態だからチームの雰囲気は悪くなる。
右足首の故障から復帰し、途中出場した小野瀬康介は「バラバラになっている」と危機感を感じたという。
「外からは、失点に絡んだ選手が自信をなくしていて、チームが良くない方向に行っていると思って見てましたし、実際に中でプレーしてみると自信を持ってやれていない」
三浦弦太もネガティブな流れに振れているところがあると感じている。 「なかなか点が取れず、勝ち星も取れず、選手もチームも苦しい時期ですけど、選手間では『要求していこう』という話をしています。それが文句というかネガティブに進んでいくのはよくない。全部が全部そういうわけじゃないですけど、そういうシーンがあったり、元気がないのも良くないところです」
チームが極度の不振に陥ると信頼関係が薄れ、自分が望むことばかり要求し、衝突しがちになる。イライラして、ストレスを感じながらプレーしているので、相手のことを考える余裕もない。ガンバにゴール前で連係やダイレクトで崩していくシーンが少なかったり、クロスが入っても反応する選手が少ないのは、そういうところにも原因があるように見える。
今、ガンバに「必要なもの」は何か
こういう緊急時はどうしたらいいのか。
これからは試合がつづくので多くのことを詰め込むことはできない。何か新しいことに取り組むにしても時間がない。であれば、「これだけは」という約束事を1つ決めて、それを全員で守ってプレーしてみるのはどうだろうか。
ジーコ日本代表監督時には、我の強い選手ばかり集まり、それぞれのサッカー観をベースにプレーするばかりで、まとまらない時期があった。その時、キャプテンだった宮本は、「球際の激しさ」をまず全員で意識してプレーしていこうと決めたという。バラバラの意識を“1つのこと”に集中させることで統一感をもたせたのだ。
ガンバは、もともと個の質の高い選手が多い。
だが、バラバラのままではいくら質が良い選手がいても攻守においてプラスに作用しない。「球際」でも何でもいいので“1つ”を全員で必死に追い求めて一体感を取り戻していくことが、今のガンバに最も必要なことではないだろうか。
1カ月のブレイクに入るまで残り3試合。
それまでにひとつ勝てれば、夏から盛り返すためのキッカケになる。だが、このままズルズルいくと……早々に冷たい秋風がクラブに吹き荒れるだろう。 果たして、ガンバはバラバラからひとつにまとまることができるだろうか――。